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勇者なんかイヤだと帰還した男の新生活構築記  作者: hachikun
帰ってきたけど?
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地球の精霊

残酷な描写があります。ご注意ください。

 召喚だの転移だの、物理法則を越えて何かを移動させる魔法ってのは、総じて難しいものらしい。

 俺の召喚された世界でも、転移魔法が使えるのは十名にも満たなかったようだ。

 その全ては異形種かエルフ。

 獣人族の多くは魔力が足りない。

 世界へのアクセスが精霊経由であるため、人間族には使用不可能。

 そのくせ、異世界人なのに精霊と対話できる俺には使えてしまう……ぺーぺーの初心者だけどな。

 なんというか、変わってるよなぁ。

 

 

 転移の光が終わり、俺は元の世界に戻ってきた。

 空は青空。

 周囲には誰もいないけど、遠くから喧騒がたくさん聞こえてくる。向こうの世界では絶対にありえない、現代科学文明による巨大都市の騒々しさ。

 東京。

 場所は新宿区、早稲田に近い夏目坂通りの途中。

 うん。

 俺が召喚されたあの場所だ。

 時計も何もないから日時は不明だけど、きっとそんなに離れてない……と、思う。

 気温も暑くなく寒くもないけど、季節が微妙にわかりにくい。

 

「?」

 なんか静かじゃね?

 でも今は助かる。

 

 とりあえず、目の前をフワフワ飛んでいるそいつに声をかけた。

「なぁ君ら、ちょっといいか?」

『え?ぼく?』

「そうだよ、きみ」

『うそ、ぼくたち、みえるの?』

『お話できる?すごいすごい!!』

 ビックリ声をはりあげた精霊。

 その声を聞きつけた、そこいら中の精霊がどばーっと集まってきちまった。

 

【精霊】

 世界に満ちているエネルギー的存在。

 質量ゼロでセンサーにも一切反応せず、さらに見る者によって全く別の姿に見えたり認識すらできなかったりする。

 希薄な意思をもち、これと交歓できる者は魔力を対価に仕事を依頼する。これを精霊術と呼び、その者を精霊術師または精霊使いと言う。 

 

 おったまげた。

 あっちの世界と全然変わらないじゃないか。

 

 マジか。

 本当に地球にいやがったよ、精霊。

 

『うお、まっぱ?』

『すとりーきんぐ?』

 おっといけね、そっちが先だ。

「話はあとだ、ごめん、俺の服を作ってくれないか?靴も頼むよ」

『あ、うん、いいよー』

 たちまち精霊たちの手が動き出した。

『木々のみどりー』

『かぜになびく、くさー』

『やさしく、つつむー』

 たちまち布が編み上げられ、またたく間に服らしきものが合成されていく。

 

【精霊の服】

 ひとの手によらない、精霊使いだけがまとう特別な服。

 美しく着心地もよい服であるが、脱着機構がないので精霊使いしか着こなせない。

 

【精霊の靴】

 ひとの手によらない、精霊使いだけが履く靴。

 軽くて履き心地最高の靴だが、実は脱着すらも精霊の助けがいる。

 

 たちまち、草色と薄茶色が中心の、いかにもナチュラルな感じの衣服に全身包まれた。

 あ、でもこれ、向こうの世界とちょっとデザイン違うな。

 地球風ってあるのかな、やっぱり。

『できたー』

「おお、ありがとな!」

『なんのー』

『かるいかるいー』

 

 無事に服を着たところで、改めて周囲を見た。

 

【現在地:東京都新宿区喜久井町付近】

 東京都新宿区の一角で、早稲田大学のキャンパスに近い場所。

 

 地下鉄大江戸線・若松河田駅と早稲田方面に挟まれた閑静な場所で、古いお寺と新旧の住宅が混在している地域だ。どこか田舎臭いところもあるけど、実は皇居にだって歩いていけるような場所でもある。

 背後にあるのは学生むけの食堂だが、今は営業時間外なのか開いてない。

 

 よかった。

 こんな東京のど真ん中で全裸とかマジ笑えねえもんな。

 

 とりあえず帰ろう。

 でも帰ったら、学生服もパンツもスマホも、それどころか装備一式全部なくした事の言い訳を親にしなくちゃならないんだよなぁ。

 だいいち精霊の服ってボタンも何もないんだぜ。脱着も精霊の手がいるんだ。

 ここから説明が必要……だよな、やっぱり。

「はぁ、だるいなぁ。異世界帰りでいきなり親の説得なんて」

 それでなくとも、剣と魔法のファンタジー世界に何年もいたんだ。

 間違いなく感覚がズレているだろうから、できれば何日か休みたいしな。

 

『なになに』

『いせかい?』

 お、精霊たちに興味をもたれたらしい。

 簡単に説明する。

「実は異世界に召喚されちゃってね。

 なんとかこっちの世界に戻ってきたんだけど、服も荷物も何も持ち帰れなくてね、このありさまなんだよ」

『ありゃあ』

『たいへんだったねえ』

 肩をすくめたら、めっちゃ同情された。

 ははは、やっぱりこっちの精霊たちも精霊だなぁ。かわいい。

「おう、ありがとな。

 おっと自己紹介がまだだったな。

 俺の名はユウ、見てのとおり日本人だ。

 精霊が見えるようになったのは異世界に行ってからで、向こうの精霊たちには本当に世話になった。

 よかったら、こっちでもよろしくな?」

『いいよー』

『よろしくー』

 精霊たちは口々にしゃべり、俺の握手したり肩にのったりと忙しい。

 うんうん、地球の精霊も全然変わらんなぁ。

 

 ところで。

 ここって多少なりとも人通りがあるはずなんだけど、なんか人っ気なくねえか?

 まぁたしかに表通りってわけじゃないし、都道なんでもなんでもない場所だけどさ。

 ……ま、いっか。

 とりあえず戻ろう。

 

 原町の方に道をそれて、とんかつ屋の横を抜けて裏通りに入っていく。

 ますます交通量は減って、誰もいない道になってきた。

「はぁ……やっと帰ってきたか。長かったよ」

 長かった、の言葉に、まとわりついてくる精霊たちが反応する。

『いせかい、どんだけいたの?』

「んー、よくわからねえんだよな。

 いきなり呼びつけられて三年、もっとかな?

 けど、あっちってカレンダーからしてこっちと全然違うしなぁ。

 もしかしたら一日の長さも違うかもしれねえ」

 一年は十四ヶ月、406日。

 昔の日本みたいな太陽太陰暦を採用していて、一日は日没から始まる。

 ペンケとパンケという2つの月があり、カレンダーの基準はなぜか小さいパンケの月。

 四季の変化がある温帯地域があり、そのあたりの気候は日本によく似ている。

 ただし。

「よくわかんないけど、歳とった感じが全然しなくてね。

 おまけにカレンダーも全然違うだろ?

 実際は十年以上過ぎてたと言われても驚かないよ」

『ありゃりゃ』

「おまけに、あっちの人間族ときたら、こっちを人間扱いどころか単なる道具か何かと見ててさ。

 息をするようにウソこきやがるし、町の人間は小さいガキまで、異世界人だろ、なんか献上しろってカツアゲしてくるんだ。

 しかも、追っ払ったら衛兵が飛んできて、俺が悪いことにされて金や荷物を巻き上げようとすんだぜ?」

『うわー』

『ブラック?』

「いや、ブラックどころの話じゃねえよ。

 そもそもこっちを人間と見てないから、どんなむちゃくちゃも平気でするからな」

 

 人間は、相手が同じ人間でないと認識した時に、最大の残虐性を発揮する生き物だ。

 これは地球の有名なセリフなんだけど、あっちの人間族はそのセリフそのものをまさに地でいってた。

 

 人間族の貴族が、イベントと称してエルフの女の子の処刑ショーをやっているのを見たことがある。

 思い出したくもないような、残酷極まる代物だった。

 だけど、それよりもゾッとしたのは、そのすさまじい光景を誰もが(・・・)楽しんでいたことだ。

 そう、戦争と無関係の女子供までもがだ。

 

 微笑ましい家族づれが、その凄惨な光景を娯楽として楽しんでいた。

 幼児としか言いようのない小さな子どもが「あれなにしてるのー?」と無邪気に親に問い、親が笑顔で答える。小さな女の子が凄まじい悲鳴をあげ、無残に引き裂かれるのを家族で楽しんで見ている。

 

 眼の前の残虐な光景より、そっちの方が千倍恐ろしかったわ。

 あのおぞましい光景はたぶん、二度と忘れない。

 

 たしかに地球人だって残酷な事をするし、歴史も知られている。

 でも、あれは何か違う。

 あちらの人間族とは絶対に相容れない、そう悟った瞬間だった。

 

 その事件以降、俺は人間族の町に一切寄り付かなくなった。

 あんな得体の知れない連中の町になんか一秒だっていたくなかったからな。

 その頃になるとエルフやドワーフはもちろん、精霊のおかげでゴブリンやオークたちともつきあいができてたんで、そっちに泊めてもらうようになっていった。

 

『おともだちはー?』

「一番の友達ったら、あっちの精霊たちだな。仲良しだったぜ?」

『ぼっち?』

 俺は苦笑いした。

「しょうがねえだろ。

 人間族は信用できねえし、それ以外の種族と知り合ったのは人間族の国を出てからだし。

 あ、言っとくけど旅の相棒もちゃんとできたんだぞ?あとでな。

 けど、最初の頃は完全ぼっちだったよ。

 しゃーない、あんなとこで友達なんか無理だって」

『ひどいねー』

『ぼっちだねえ』

「ははは、まぁ寂しくはなかったけどな。精霊もいたし、おかげで仲間を育てる事もできたし」

『そだてる?』

「ああ、卵からかえったばっかのアース・ドラゴンの子供とか、全滅した猫族の最後の生き残りとかな」

 ふと、置いてきた子たちを思い出す。

 俺がひとりぼっちで潰れなかったのは精霊たちもそうだけど、あいつらのおかげでもある。

 マイペースで独立独歩な子ドラゴンはともかく、最後までベッタリだったマオの方は心配だ。

 まぁ時間が解決するとは思うんだけど。

 

 精霊から質問もらったので、俺もちょっと質問してみたんだけど。

 精霊いるんなら魔物はいないのか?と聞いたら「まものってなに?」と聞き返されて驚いた。

 どうやら魔物の存在自体を知らないらしい……なんで?

 どうなってる?

 

 質問を続けようとした、その時だった。

『ヘンなニオイするねえ』

「え?」

 へんなニオイ?

 あっちの世界で、変な臭いがするなんて精霊が言い出す条件はひとつだけだった。

 そう。

 精霊はいわゆる不死者(アンデッド)に敏感だ。

 といっても邪悪なものとは限らなくて、単なる地縛霊とかにも反応するんだけどな。

「幽霊でもいるのか?」

 お寺の多い地域だからな、ありえる。

 前はわからなかったけど、精霊が見えるようになったんだ。見えても不思議はねえな。

 だけど。

『ちがうよー』

『ぞんびー』

「……なんだって?」

 そんな馬鹿な。

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