8-2閑話 フォーカシングセッション リッサ3 「ケッ って感じ」
(8話の後半部と同じため、フォーカシングの導入部は省略)
「三つから、今、一番入り易いピッタリしたもの、やりたいやつを選んで~。……… 選んだら教えて~」
「 2.この頃の自分は、どんな感じで生きてるかな。でやってみます」
「はい~。では、もう一度、からだ全体から力を抜いて、ゆっくりしましょう~」
「すーっ … はーっ… すーーーっ ……… はーーーっ ……… 」
「最近の自分~、この頃の自分は、どんな感じで生きているのかなー。…………………………ある感じが…浮かびましたら…、その感じを…もう一度からだで感じてみましょう。………………今の感じをことばにしてみましょう~」
「………… ケッ って感じです」
「え? 何? もう一回言ってくれる~?」
「ケッ って感じ」
「ケッ ?」
「はい。ケッ です」
「ケッ って感じなんですね~。 それはどんな感じか、もう少し詳しく聞いてもいいですか~?」
「はい」
「イライラして、ふてくされる、というか。…何もかにもつまらなくて、心に闇を灯して世の中を恨むというか」
「イライラして~、つまらなくてー、心に闇を灯して、世の中を恨む~……」
「…あきらめてやる気が出なくて。…剣を持ってたら、ただただあれこれ突き刺して壊して回りたいみたいな…」
「あきらめて、やる気が出なくてー、あれこれ突き刺して壊して回りたいみたいな~…」
「アハハハハハハ…って、何もかにもあきらめた、絶望笑いをしていたいというか…」
「アハハハハハって、何もかにもあきらめたー、絶望笑いをしていたい…という感じなんですね~」
「はい」
「じゃあ、今はー、その感じを、じっくりと見て~」
「はい………………………………………………………………………」
「その感じと~、今は、どう付き合いたい感じになるかな~?」
「どう付き合う?」
「うん。抱きしめてよしよししたいとかー、箱に入れてもう少し遠くに、距離を取りたいとか~、その感じが無いのではなくて、あることを確認できたから、そのままそこに置いておく、とか~」
「……無いのではなくて、あることを確認できたので、そのまま、ここに置いておく、感じにします」
「わかったー。じゃあ、そうしてください~」
「今日、ここまでにします」
「はい、お疲れ様でした~」
「ありがとうございました」
リッサは自室に戻った。
もう十回以上セッションをしている。こんなことをして、本当に心と体の調子が良くなったりするのだろうか、という疑念や、すぐに良くならない不満、不安が渦巻く。自分を責めたり、あれこれ疲れたりしているうちに、”やさぐれる”気持ちが溜まっていて、それに気が付いてなかったのかな、とセッションの後で思った。”ケッ”っていう気持ちが、確かに自分の中にあるのだと、ここに、こんな形で、こんな感じで、あるのだと、目の前に両手で受け止めるような、存在を認めたような、気がした。ちなみに、いとおしくて抱きしめたい、よしよししたい、などという気持ちは起きなかった。
まあいいか、とリッサは思った。
心理カウンセリングは、特にどういうふうに話をするかの「型」が決まってなくて、それに対しフォーカシングは「カウンセリングがうまくいった時の状況」を基本的な「型」にした導入とやり取りの形式があります。「カウンセリングがうまくいった時の状況」は、「継続して気持ちにさわって、そこにじっくりと、とどまりながら話をする」という感じで、逆にうまくいかないのは、気持ちとは離れた、理論的な説明などを頭で考えつつ、「ひとつの気持ちにはさわり続けない、留まらない」ようにテンポよくどんどん移り変わるように、自分の中ではなくて相手に聞かせることに重点を置いて話するような場合かなと思います。