8.目覚めたら魔王がいて隷属の首輪付けられた勇者トカゲ /リッサのセッション(改3)
作中に、虐待に関連したショッキングな表現があります。 2019.3.15:主人公が去った後のことを追加。…… 2019.3.19:フォーカシングセッション ある日のリッサ2 を追加。閑話の部分は、心理関係、フォーカシング等、興味ある人向けと思います。
オレはジロ、異世界で目が覚めたらトカゲだったんだ。ついでながら、目の前に魔王がいる。
「どうした勇者!? いきなり隷属の首輪を付けられて困ってるのかぁ!! 女神ナブシがお前を送り込むのは知ってたのさぁ! 反抗しようとすると苦痛で死ぬぞ!」
「この世界では隷属の首輪は廃れたって、確か聞いてたような気が…?」
「少しだけしか残ってないのは確かさ。もっとも200年前から、よりきつい魔道具である『虐待の首輪』を俺の支配する国民全員が、赤ん坊のころからするようになっただけだがね」
「『虐待の首輪』?」
「ああ、赤子や幼児のうちから『虐待の首輪』を付け続けると、深層意識に絶望、目の前が暗くなる、自分の人生は終わった感、すさまじい恐怖や痛み、体の震えが止まらなくなるような感覚、を植え付け、縛ることができるのさ。
隷属の首輪の時代は、反抗心の問題があった。だが反抗心とは、もともとの形を知っていて、それを取り戻そうと起こるものだ。
『虐待の首輪』を使えば、そもそも最初から心が欠けた状態、外部の命令者がいて指示をして初めて人として成立するような、生き物を作れる。それなら反抗する気持ちは起きないだろ?」
魔王の支配地の住民が全員、幼児虐待で複雑性PTSDなトラウマ持ちにされてるようなものだろうか。ひでえ話だ。
「とにかく隷属の首輪があれば戦えまい!」
「オレ、そもそも戦いとか得意じゃないんだ」
「何を言っている!?」
「はい、これ」
「んん!? ぎゃああああああっ」
女神ナブシ様から「魔王に会ったら渡せ」とだけ言われたものを見たとたんに魔王は爆散して死んでしまった。
これで世界は平和に幸せになった、のだろうか。 --そうはいかなかった。
幼いころから『虐待の首輪』をはめられていた人々は、魔王の言った通り、自分一人で自分のことを決めるのが困難だったり、誰かに依存せずにはいられなかったり、誰かの指示を受けるとその指示が無理なものでも絶対に遂行しないと生きていける場所がなくなると感じたり、震えや緊張など、PTSDっぽい症状を呈していたりした。
女神ナブシ様が神託で、治療指針みたいなものを示したらしいが、オレはあまり関わらなかった。
最初の方から欠けていたものを、欠けていない形を想像だけでしか知らずに、欠けていない形に復元?変更?改善?しようとする、というような作業なのだろうか。だとしたら多分、出来ないってことはないにしても、すごく時間がかかるんだろうな。すごく時間をかければ出来る、のだろう。
その後、魔王を倒したということで(オレは妙なものを渡そうとしただけなのだが)オレがいるだけで「勇者トカゲ様」とあがめられた。オレは居心地が悪くなり旅に出たのだった。
目が覚めたら魔王がいて隷属の首輪を付けられた勇者トカゲ :おわり
※ ↓ ここから下は、心理関係の話が延々と続き、すっきり完結もしない、ので、興味ある人向けだと思います。
虐待の首輪をしていたリッサと治療の始まり
リッサは幼女のころから『虐待の首輪』をさせられていた大人の一人だ。魔王が滅び首輪を外してもらった後も、リッサには物心ついたころから虐待された記憶しかない。その記憶は、仮想現実であって現実ではないが、仮想現実の記憶しかない以上、現実ではないことはリッサにとってあまり意味をなさなかった。
リッサは、広まりつつあった、女神様経由でもたらされたトラウマ治療、心理療法のノウハウで神殿での治療を試みられていた。
リッサの抱えるPTSDには、事件被害や災害などのPTSDの場合と違い、明瞭なフラッシュバックがない。今のところは酷い震えと、強いが漠然とした痛みや不安があるだけだ。
そのため震えが酷い時に、バタフライハグと言われる方法を試したりしてみた。両手を交差して交互に肩や腕を軽く叩くことで、震えに干渉し低減しようとするような方法だろうか。その他にもカウンセリングや、フォーカシング、認知行動療法などの手法があるようだ。人によって向き不向きがあるから、効果がありそうなのを継続して試せとされていた。
リッサはバタフライハグを一人で行っていた。震えが酷い時に使い始めて1か月になる。少しだけ楽になる効果はあるように思うが、劇的にすぐ直り元気になるなんていうことはないようだ。何というか、先が長そうだとリッサは思ったのだった。
虐待の首輪をしていたリッサと治療の始まり :おわり
フォーカシングセッション ある日のリッサ。
「リッサさん。 ゆっくりしてみて~。軽く目を閉じてみて~」
「はい。…やってみます。(軽く目を閉じる)」
「今の体、全体の感じを感じてみてみて~」
「……(私の、からだ全体の感じ……どんな感じかな?……)」
「頭、首、肩、腕、背中、足の感じを感じてみて~」
「……(頭…、首…、肩…、腕…、背中…、足…の感じ………)」
「そして~深く、ゆっっくり息を吐きながら、頭からも、目からも、ほほからも力を抜いてみて~」
「ふーーーっ……(頭、力抜くー)(目、力抜くー)(ほほ、力抜くー)」
「はーって息を吐きながら、その息と一緒に、首や肩からも力を抜いてみて~」
「はーーーっ……(首、力抜くー)(肩、力抜くー)……」
「これを何回か繰り返してやってみて~」
「ふーーーっ……(頭、力抜くー)(目、力抜くー)(ほほ、力抜くー)はーーーっ……(首、力抜くー)(肩、力抜くー)……」
「ふーーーっ……(頭、力抜くー)(目、力抜くー)(ほほ、力抜くー)はーーーっ……(首、力抜くー)(肩、力抜くー)……」
「ふーーーっ……(頭、力抜くー)(目、力抜くー)(ほほ、力抜くー)はーーーっ……(首、力抜くー)(肩、力抜くー)……」
「聞こえてくる音や、浮かんでくる様々なこと。…息をふーっと吐きながら、息と一緒に自然に押し流してみて~」
「ふーーーっ……(音…、浮かんでくるイメージ…、思い…、流す…流す…とらわれない)…はーーっ…」
「そして~、静かに自分の自然な呼吸を感じて~、……しばらく自分の世界に浸っていてみて~」
「……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ…………………………………………」
「……落ち着いてきた~?」
「…はい」
「……三つから、今、一番入り易いピッタリしたもの選んで~」
「………… 1.今のからだの感じは、どんな感じかな。 にします」
「……はい。……それでは、今のからだの感じは、どんな感じかな~? その感じを…言葉にしてみて~。
「…震えてます。……昼も、夜も、夜中も。ずっと」
「…昼も、夜も、夜中も、ずっと震えてるんだ~」
「はい」
「特に今はどんな感じの震え~?」
「今…ですか?」
「そ~」
「…うーん…」
「じっくり時間を取って…、感じてみて~」
「……………………うーん……………………………………………」
「……………………」
「苦しくて、疲れた…しんどい…そんな? 震え? かなぁ……」
「苦しくて、疲れた、しんどい、そんな震え かなぁ…ていう感じなんですね~ …」
「……それでも、何かやりたいことがある、感じ。……目の前暗くて、もう疲れたから、終りでいいや、って100%思ってるわけじゃない…」
「それでも何かやりたいことがある感じ、なんですね。暗くてもう疲れたから終りでいいや、って思ってるわけじゃないんですね~(ちょっと何か言葉抜けちゃったかしら)」
「うん。だいだいそんな感じ…」
「そうですか~」
「………………………………」
「(自分の中を何か感じているのかしら。暫く待とう)」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「今は、どんな感じですか~?」
「やっぱり震えている感じ」
「やっぱり震えている感じ、なんですね~」
「………………………………」
「………………………………」
「ちょっとずつ、震えを受け止めたい感じ…かなぁ。」
「ちょっとずつ、震えを受け止めたい感じ…なんですね~。」
「………………………………」
「………………………………」
「今日は、この辺で終わりたいと思います」
「はい、わかりました。お疲れ様でした~」
「はい、ありがとうございます」
リッサは自室に戻った。
重たい。疲れたなぁ。虐待の記憶や感覚なんて、無くなってしまえばいいのに。と思った。
セッションで、気持ちをちょっとだけ整理できたように思った。ちょっとだけ、のようには感じるが。
それでも日々は続くのだ。
あれこれしよう、とリッサは思った。
フォーカシングセッション ある日のリッサ :おわり
フォーカシングセッション ある日のリッサ2
(導入部は前回、ある日のリッサ と同じなので省略)
「三つから、今、一番入り易いピッタリしたもの選んで~。……… 選んだら教えて~」
「3.気にかかっていること、気にかかっている人について、自分はどんな感じかな。にします。…何だか気になる夢を見たので、それをみてみます」
「わかった~。じゃあ、もう一度…、からだ全体から力を抜いて、ゆっくりしましょう。 それからー、はじめてみて~」
「はい。………………………… こんな夢でした。」
「(ちょっと早口で)高い所の窓から外を見てました。ふと上を見上げたら、屋根の下に長い金属の棒がくくりつけられてて…。危ないなと思って。そしたら音がして…その、結び目の片方が解けて、棒が突然目の前に落ちてきたので、…思わず受け止めました。」
「金属の棒が落ちてきて、受け止めたんですねー。もっとゆっくりでいいですよ~。感じながら、思い返して味わいながら話してみて~」
「はい……。棒がとても重くて…、持ち続けるのが辛くて…、でも落としたら…、とても…悪いことをしてしまうような感じがして……、下に人がいて危ないんじゃないかとか……、持ち続けているうちに夢が覚めました」
「棒がとても重くてー…、持ってるのが辛かったんだ。…でも落としたらとても悪いことをしてしまうような感じがしたんだー。それで、持ち続けているうちに夢が覚めたんだ~」
「はい、そんな感じです。…それで、目が覚めたら、ふらふらに疲れていて、中々床から出ることができませんでした。起きた後もふらふらでした」
「目が覚めたら、ふらふらに疲れていて、中々床から出ることができなかったんだー。起きた後もふらふらだったんですねー。うん、すごく疲れそうな、ぐったりしそうな夢だね~」
「夢の中で、気にかかっていることなんかはある~?」
「気にかかっていること…ですか?」
「うん。夢を話してみて、今はどんな感じ、って続けてもいいよー。どれをしたい~?」
「……『悪いことをしてしまうような感じ』、いや、…悪いことをしているような、…あと、責められているような感じ…かなぁ」
「悪いことをしているような感じと、責められているような感じ、なんですね~」
「はい、そんな感じだと思います」
「じゃあ、その感じを、両手で受け止めて、暫く感じ続けてみて~」
「はい。………………………………」
「…………………………」
「………『虐待の首輪』。…うん、『虐待の首輪』からの魔力、イメージと関係があるような気がします。……何というか、許容範囲がすごく狭い、というか。……悪いことをしていない、責められない、怒鳴られない、”範囲”が、凄く狭い、みたいな……雰囲気の、居場所、というか」
「…そうかー。『虐待の首輪』からのイメージ……ね。…許容範囲が狭い、悪いことしていない、責められない、怒鳴られない範囲が凄く狭い感じなんですね~」
「はい」
「…………………………」
「…………………………」
「今は、どんな感じかな~?」
「混乱がちょっと…、整理されたような、感じ? でしょうか…」
「そうかー。じゃあ、今日はこの辺で終わりにしましょうか~」
「はい。ありがとうございました」
「はーい。お疲れ様でした~」
リッサは自室に戻った。
今やってるのは目の前の、もの、というか、ものごと、を整理整頓している感じ…なのかしら、とリッサは漠然と思った。雲をつかむような、とりとめのなさも感じた。
しかしそれでも日々は続くのだ。
それはそれとして、ご飯を食べよう、とリッサは思った。
フォーカシングセッション ある日のリッサ2:おわり
自分の中を見て、感じていって、最初の方から欠けていたら、どうやって復元していけばいいのかなぁ、と気になって悩んでいるうちに書いた話です。
虐待された人を貶める意図はありません。