6.女子学生馬車の旅の予期せぬ一コマ
「早く行かないと乗り遅れちゃうかも!」
荷物が重い。それでもあたしは停留所の乗合馬車へと急いだ。
もうすぐ夏休みが終わる。あたしは地元から学園へと戻る旅に出るのだ。
あれは御者のおじさんだろうか?
「ハアハア……。良かった。間に合った」
「いらっしゃい。お嬢ちゃん、切符見せて。はい、ありがとう。王国立学園の学生さんだね」
「は、はい、道中よろしくお願いします。 って!? 何あれ? 馬車の中に大きなトカゲが!」
「トカゲだけど冒険者なんだとさ」
馬車には先客がいた。そのトカゲの首には認識票が付いていた。
ギルド認識票 F級冒険者ジロキチ と読める。
「よ、よろしくお願いします」
トカゲは返事の代わりに、無言で頭を下げた。喋れないのかな? 無口なだけかな?
「F級じゃあ冒険者なり立てだな」
御者のおじさんは、振返らず馬車を駆りながらのんびりとお喋りする。
***
僕はジロキチ。異世界で目が覚めたら、トカゲになってた。女神ナブシ様に異世界へ転移させられたんだ。
その後すったもんだあったけど、ギルドで冒険者として登録することができた。今は馬車の旅。護衛として雇われたわけじゃない。乗客だ。他は御者さんと学生っぽい女の子が一人だけ。
旅は最初は順調だった。しかし突然、隕石が降ってきた! 中から宇宙人が現れた。
「みゅーみゅー」
「何あれ!? 魔物かしら?」
「嬢ちゃん、危ない! 近づかない方がいい」
火星人っぽい奴だった。足だか触手だかが沢山生えていた。触手を何やら振っている。ジェスチャーだろうか。
僕は逆立ちしてしっぽを振り返してみた。会話が成り立つかな?
火星人はさらに触手を振って、体全体も動かした。
僕も逆立ちしたまましっぽと体を動かした。
火星人はさらにさらに激しく触手を振って、体全体も動かした。
僕も逆立ちしたまま激しくしっぽと体を動かした。
火星人はグルグル回ったりしながらあれこれ動かした。
僕も今度はしっぽで立って、激しくしっぽと体を動かした。
気が付いたら、御者と学生の子も皆踊ってて、夜が明けていた。
「みゅーみゅー」
火星人は満足したかのようにうなずくと、隕石に乗り空へ帰って行った。あの隕石は宇宙船だったのか。僕と御者と学生の子は馬車に戻り旅をつづけた。
馬車の旅の予期せぬ一コマだった。
女子学生馬車の旅の予期せぬ一コマ:おわり