16.異世界トカゲと円盤人の足場は狭い
あたいはジロ。女神ナブシ様に異世界へ転移させられ、目が覚めたらトカゲになってた。あと空から、墜落していた。そしてガツンッと何かにぶつかって気を失ったんだ……。
僕はナガマツ。ここは円盤人の国。ここの国の人は誰もが空飛ぶ円盤UFOに乗って暮らしている。円盤のサイズは両足が乗るぐらい。生まれた後で、誰でも円盤が足の先に生えてくるんだ。他の国の人は変だと思うかもしれないけど、そういうもんなんだ。
その日僕は仕事に遅れそうになってて、片足で円盤をけって急がせていた。
「いけない、遅刻遅刻!」
ガツン! 突然衝撃があり、…………目を覚ますと、僕の背骨に小さなトカゲが刺さっていた(目で見えないはずだけど何故だかそれが感じられた)。
急いでてパニクッた僕は、トカゲのことは後で考えることにして、職場へ向かった。
職場で僕は上司の人に怒られた。
「そんなことも分からないのかい」
「すいません」
「だいたい、あまりにも仕事が遅いんだよ」
「…すいません」
「少しは自分で工夫したらどうなんだ」
「…はあ…すいません」
僕は恐縮した。僕の足場の空飛ぶ円盤は縮こまった。小さくなりすぎて両足を載せているのが辛くなるぐらい。屋内だから10cmぐらいしか浮いていないけど、足を踏み外したくはない。どうにか解放された僕は仕事に戻った。
「酷い上司ね、ナガマツ。怒ってばっかりじゃない!」
「しっ。喋らないで! ジロ。 …僕が悪いんだよ。どんくさいから」
背骨に刺さったトカゲは目を覚まし、話しかけてきた。ジロという女の子だという。
「そもそもその円盤はどうして小さくなるのよ、ナガマツ? 何だか、命令に逆らうと首を絞める隷属の首輪を思い出すわ。自分が悪い、落ち度があると思う分、その円盤の方がたちが悪いかもしれない」
「そんなこと分からないよ。僕らは生まれた時から円盤の足場の上で生きてきたんだから」
「空飛ぶ円盤が生きていられるための足場ってわけ? 何だか狭苦しくて息が詰まる~」
「そんなこと言われたって…」
「おい、何を無駄話しておる!」
「あ、すいません。何でもありません」
「バカ! 間抜け! とんちき! ダメ上司!」
「何だと!? 今何て言った、ナガマツ!?」
「ヒイィィ! ぼ、僕じゃありません!」
「お前以外に誰もいないだろうが!?」
僕は、クビになってしまった。解雇されたんだ。
「…ごめんなさい、あたい…つい…」
「もう、いいよ」
「でも…」
「何であんなことしたの?」
「ナガマツが、人格を否定されるような叱られ方を沢山されてるように感じて…それで…腹が立って、つい…」
「そうか…」
「ごめんね」
「もういいって」
怒られて、縮こまって、怒られて、縮こまって、…その繰り返し。足場が狭くて息苦しい…か。僕も嫌気がさしていたんだと思う。ジロに言い返してもらって、何となく、ちょっとスッキリもしたんだ。
僕の背骨と一体化してしまったトカゲのジロは、僕が知らない知識を色々持っていた。二人いっしょなら、何か仕事が見つかるよ、きっと。
僕はこれから何故だかうまく行きそうな気がしたんだ。
異世界トカゲと円盤人の足場は狭い :おわり