14.異世界でトカゲになってて背骨に憑依してた
私はジロ。女神ナブシ様に異世界へ転移させられ、目が覚めたらトカゲになってた。…のであるが、さらに、誰かの”背骨”に、憑依、憑りついているみたいだ。原理はよく分からないけど。
少年二人が合体して大人のヒーローになる特撮ドラマがある。戦闘中の心象描写?でヒーローの2つの目玉の中にそれぞれの少年が入っててピンチの時に会話したりするやつ。それを思い出した。今、そんな感じになってるような。
但し今回は本人の体の中で、(なおかつ)本人がメインパイロットやってて、私は背骨に隠れててサポートする副パイロットみたいな感じみたいだ。自分で言ってても今一つ何が何だかわからん…。
本人はベッドで横たわっているのか。何だか、息が変で、心臓の鼓動が弱いような気がするな。…て、大変だ! この人、もうすぐ老衰で死んじゃうじゃん! どうしたらいいんだ!? …どうしようもない気がする…。
うん? 目の前に中年のおっちゃんがいる。本人の息子みたいだ。何だか怒っているみたいに見える。何でだ? 親が死にそうなのに。
「…何度も説明したろ…なんとか言ってよ」
「…あ、…ああ…」
息子が何か聞いてる。本人は、息子に何か言いたげだ。けど、言いづらくて言えないみたいだ。このままだと、言えずに本人の人生は終わってしまう。
何となく私は、背骨から後押ししてみた。本人は息子に、何か言いたくなーるー。言いたくな~る~………。
「…小さいころから虐待して…悪かったな。…怒鳴ったり殴ったり…。でもそういうことが虐待だとは全く思ってなかったんだ…。オレもそうやって育てられたから。貧しくて苦しかった。…だから子供には金で苦労させたくなかった。…それだけは、ちゃんとやったつもりなんだがなぁ…。すげえだろ汗水垂らして…金儲けできたんだぞオレ。…でも、それだけでは足りなかったか…」
「………」
「オレは鈍感だからか…お前に、いつもブルブル震えてる子供だったって言われても、全然気が付かなかった、としか言えねえ…。オレにはそんな余裕なかったんだ。…へえへへへ…………許してくれよぉ………」
本人の謝り方は、何というか、ちょっと軽かった。怒られてるなら取り合えず謝っとこう、という条件反射みたいな部分もあったと思う。正面から応対するというよりかは、ひょいひょいと避けながらというか。そうしないと生き残ってこられなかった…のかもな。
そして本人は、変な笑い方をしたかと思ったら、その後すぐに心臓が止まって死んでしまった。え!? 本人の背骨の中の私は、どうなるの!? ああっ、なんか引っ張られる??
気が付いたら私は、息子の背骨の中にいた。
息子の体の中には、息子がいた。うなだれているようだ。私は背骨から、息子をそっと覗き見た。
落ち込んでいるようだ。体に力が入らないのかな? 暗い表情で、うつむいている。
私は何となく、よしよしと、息子の頭を撫でてみた。背骨から出て行ってトカゲの前足でなでたわけではない。背骨から伝わる、神経を遠隔操作するみたいにして、なでた。イオンの力!?で肩こりを治すパチモン電子治療器を思い浮かべて。
背骨から息子に念話してみた。何となく浮かび上がる感じになるから、息子の方は話しかけられたとは思わないかもしれない。
『よくがんばったな』
「…………」
『がんばって生きてきたな』
「…………」
『何の意味もない、なんてことはないよ。無価値だ、なんてことはないよ』
「…………」
何故だか私は、そんなことを息子に背骨から言いたくなったんだ。そういう風に言って欲しがっているように見えたんだ。
『いつも震えていて苦しかったな』
「…………」
『いや、今も震えていて苦しいのか…』
「…………」
『それでも。それでも、何となく…生きていこうぜ。息子の人…いや、相棒!』
「…………」
結局、私の念話は、伝わったのかどうか、伝わったけど意味があったのかどうか、よくは分からなかった。
それでも、息子、いや私にとっての新しい本人、私の相棒は、ずっと座り込んでいたわけじゃなく、立ち上がってどこかへ歩き始めた。
だからトカゲの私は、背骨の中で、これからも相棒に付き合っていくことにしたんだ。
異世界でトカゲになってて背骨に憑依してた :おわり