13.女トカゲの冒険者と「幻影の階層」での出会い
オレはジロ。女神ナブシ様に異世界へ転移させられ、目が覚めたらトカゲになってた。
今は冒険者をやってて、迷宮の奥をさ迷っているところだ。
ここは、さしずめ「幻影の階層」といったような場所だ。ここでは、幽霊なのか、幻影なのか、妙なものが現れては消えるのだ。
人間の幼児がいた。男の子かな。笑顔だ。
「トカゲのお姉さんだ…。ここで何しているの?」
「迷宮の探索だよ」
「ふーん。迷宮? ぼくも探索して遊びたいなー。でももうお家に帰らなくちゃ。パパとママが待ってる。もうすぐ夕ご飯なんだ」
嬉しそうな幼児の姿は、段々とぼやけて消えてしまった。
歩き回って、暫く経った。
少年がいた。
「トカゲのお姉さん…。また会ったね」
「なぜ迷宮にいる?」
「ここは、僕たちの町だよ、迷宮なんかじゃないよ」
「そうか。どんな町なんだ?」
「にぎやかだよ。人が沢山。兵隊さんも多いね」
「兵隊?」
「うん。これは秘密だけど、ここは軍の秘密基地なんだよ。内緒だよ!」
「そうなんだ。わかった。秘密にしよう」
少年は笑顔で、段々とぼやけて消えた。
歩き回って、また暫く経った。
若いにいちゃんがいた。軍服を着て、剣を佩いている。
「おう、トカゲの姉ちゃん。久しぶり」
「ああ、久しぶりだな。…何だか嬉しそうだな」
「おう、やっと出陣が決まったんだ。修行して、剣術LVもかなり上げたんだぜ」
「そうか。 気を付けて、頑張ってこいよ」
「ああ! 任せとけ!!」
若いにいちゃんは、自信に満ちた笑顔で、段々とぼやけて消えた。
歩き回って、また暫く経った。
中年のおっさんがいた。ちょっと腹が出ていた。
「あなたは…。トカゲの…」
「ジロマジロジロミだ。そういえば名乗ってなかったな。長いから、ジロと呼べ」
「ジロさん、お久しぶりです。ちなみに私は、ナストです」
「ああ。ナスト。出陣してから、その後どうだった?」
「何度か戦争がありましたが、どうにか生き残りました」
「そうか」
「結婚もして、子供も2人おります」
「よかったな」
「ええ。ぼちぼちやっております。いいことも、それほどでもないことも、いろいろですね」
中年のおっさんは、少し曖昧な笑顔で、段々とぼやけて消えた。
歩き回って、また暫く経った。そこは天井が吹き抜けになっている(というか大きな穴が開いていた)広場だった。
老人がいた。年を取っていたがナストだった。
「ジロさん、お久しぶりですな」
「ああ、ナスト。大分老けたな」
「はははっ。ジロさんは変わりませんな。うらやましいことです」
「最近はどうだ?」
「ちょっと難しいですな。国が傾いてしまっておりましてな。あちこちから攻め入られてしまって…。でも、孫娘達は国外に脱出できたようなので、まあ、よかったです。…充分ですわ」
「そうか」
「ちなみにですな、今この場所は防空壕になっとります」
「…防空壕か」
「まあ敵軍は、防空壕を貫くようなバンカーバスター魔法も使いよりますので、外よりはましといったところですがね」
「そうか。どうした? 大丈夫か?」
「いえ、さっきから…どうにも眠くなってきてましてな。…申し訳ございませんな」
「気にするな」
「あ…、何故だかこれだけは…言っておきたいですぞ。…あそこ、あそこの壁の中には…劣化防止魔法をかけられた水や缶詰などの保存食が入っとります」
「食い物か。助かる」
「もし、まだ残ってて食べられる状態でしたら…食べてくだされ。…ジロさんと…お話しできてよかったです…」
「ああ…、さようなら、ナスト」
「おさらばです。…ジロさん、お元気で……」
老人になっていたナストは、大きく笑顔を作り、そして段々とぼやけて消えた。
近くに数体分の人骨が残っていた。
何というか若いころから年を取るまでの走馬燈に付き合ったような感じだ。
残っていた缶詰と水は、ありがたく頂いて食べて飲んた。今は廃墟だが、以前はここに国があったんだな。
迷宮の調査は、後少しで完了だ。もちょっとだけ頑張ろう。終わったら酒盛りをしよう。
女トカゲの冒険者と「幻影の階層」での出会い :おわり