11.トカゲになってて、酒場に不機嫌なおっちゃんがいた
僕はジロ。女神ナブシ様に異世界へ転移させられた。で、目が覚めたらトカゲになってて、酒場で酒飲んでたようだ。ここはテーブル席の真ん中に仕切り板を付けた、カウンター席みたいだ。獣人の客も多く、トカゲでも特に目立たないようだ。
それはいいんだけど、仕切り板の反対側の冒険者風のおっちゃんが、なんか、とても不機嫌そうなのだ。
酒場は混みあってて、料理も酒もなかなか運ばれてこないみたいだ。自分の席も、両隣の人にも、料理も酒も来ていない。仕切り板の反対側のおっちゃんにも来ていない。テイクアウトの人が沢山並んでいるので、料理を作るのが間に合わないのかな。
地球で言うならまだ高校生ぐらいの子供に見えるような店員が多いようだ。バイト始めた子ばかりで手際も悪いのかもしれない。
仕切り板で顔は見えないのだが、おっちゃんは両腕をずっと組んだままの姿勢で固まっている。明らかに不機嫌そうだ。
やっと酒だけきた。あ、おっちゃんのとこにも酒がきた。
「遅いんだよ!」
おっちゃんが店員を怒鳴りつけた。何か、嫌な感じだな。まあ、確かに遅いは遅いのだが。
まだ料理はこないので、酒だけをちびちび飲み始めた。おっちゃんは、腕を組んだままだ。酒飲まないのかね。どうも、料理を待っているようだ。
「これは、オレが頼んだものじゃねえよ、よく見ろ! この野郎!」
おっちゃんのところに料理がきたみたいだが、またおっちゃんが店員を怒鳴っていた。店員が間違ったのかな。それともおっちゃんが…。事情はよくわからないが、店員は料理を下げた。おっちゃんは、また、料理を待つようだ。だが、中々こないようだ。
僕の料理が来たので、食べて飲んでいた。皿にひびが入ってたが、まあいいかと思った。忙しすぎて管理が行き届いてないんかな。
うん!?
おっちゃんが突然立ち上がった!
「ふざけんな! これ以上待てるか! 帰る!」
おっちゃんは、調理場を睨みつけ、おもむろに酒を一気飲みすると伝票を持ってカウンターへ行き、何やら暫くやりとりをしてた。遠くて声までは聞こえなかった。そして、おっちゃんは酒場からいなくなった。
お、おうっ…。嵐のように去っていっちゃったなぁ。ほんの短い時間だけ目の前にいたおっちゃん、何だか嫌な感じだけど、気になる感じの人だった。怒鳴り慣れている、管理職、みたいな感じの冒険者だった。いつも不機嫌だったら、それはそれで不幸せ度が増すんじゃないか、とか、僕はどうなんだろう、いつも不機嫌だったりしてないかな、などとあれこれ考えた。
思い返すに、父が酒飲んでよく怒鳴る人だったので、それを思い出したのかもしれない。
まあ、今日はそんなことが印象に残ったんだ。
トカゲになってて、酒場に不機嫌なおっちゃんがいた:おわり