8-3閑話 フォーカシングセッション リッサ4 「目を逸らしすぎ」
(8話の後半部と同じため、フォーカシングの導入部は省略)
「最近の感じ でやります。…今日も疲れてて……」
「今日も疲れてるんですね~」
「夜寝てても朝も、震えてて、……だるくて、手も足も重くて…」
「寝てても、震えててー、手も足も重くてだるいんですね~」
「うーん…何というか、…… ”目をそらしていたから疲れた”みたいな気が………」
「目を逸らしてたから疲れた、みたいな気がするんですね~」
「……うーん………もっと向き合った方がいいのでしょうか?」
「もっと向き合った方がいいのか? 自分では、どうしたい感じがする~?」
「…うーん… いつでも向き合う方がいい、…… ってわけじゃないと思います。…体調や気持ちのコンディションによって、…なのかな。…今は…今は………、すこし目を逸らしすぎで、……もう少し、向き合う、…というか、…震えて固まるのをもう少しだけ、そっち向いて、受け止めたい……気がします」
「今は、もう少しだけ、受け止めたい気がするんだ~」
「………はい」
「じゃあ、その震えて固まるのを、感じてみて~。…目を逸らしている状態から、もう少し、それに向き合っている自分をイメージしてみて~」
「…はい…………………………………」
「………………………………………」
「…その中に…、かすかに、……怖がって震えている……子供が、居るような」
「かすかに、怖がって震えてる子供がいるような感じがするんですね~」
「はい。…私の側は、…感情が乾いてしまってて……カラカラな感じしかしない……のですが、………震えて固まる感じの部分を見てたら、…かすかに……怖がって震えてる子供が居るような……感じがしました」
「そうですか~」
「…………」
「怖がって震えてる子供、…の方に行ってみますか~?」
「………いえ、…このまま、……ここから見ていることにします」
「はい、わかりましたー。…そこから見ていてください~」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「今は、どんな感じですか~?」
「…まだ、同じ場所にいて、…少し遠くから…震えて固まる場所と、……かすかにいるような、………おびえる子供、……を見ています。」
「少し遠くから、震えて固まる場所とー、おびえる子供を見ているんですね~」
「……見ていると、自分の手や足が震えて固まって、…うーん、後はよく見えない、わからない、かなぁ。……」
「自分の手や足が震えて固まる感じなんですね~。…はい。…時間を取って、……ゆっくり見てて……。見えなくてもいいし、…何か見えたら見えたでー、それを感じて教えてくださいね~」
「はい」
そこからは動きはなく、セッションは終了した。リッサは自室に戻った。
おびえる子供というのは、『虐待の首輪』が体験させた仮想現実での虐待を受けた、自分の子供時代の何かなのだろうか。かすかだったので、本当にそんなものを見たのかどうかすら、曖昧ではあった。
非常に、ごしゃごしゃしたものを、今回も整理しようと試みた、奮戦した、みたいな感じがした。微妙に整理できて、いくらかスッキリした気持ちがあるような無いような。それでも、向き合わないで目を逸らしてるままだったら、今よりもスッキリしてない気はした。
まあ、また明日だ。次のセッションは再来週だ。ちょっと面倒くさくなったリッサは、とりあえず寝床に入り目をつむった。
フォーカシングでは「伝え返し」といって、フォーカサーが話した内容をリスナーが、基本的にはオウム返しで伝え返します。フォーカサーの話が長かったり複雑になると、やり取りで伝え返すテンポの問題やリスナーの記憶力の関係で、全部完全にオウム返しにはできなくなる-順番や言葉が変わったり大分抜けて減ったりしてしまうことが、実際は、経験的には割とよくあると思います。ただ、それが必ずしも不味いとは言えなくて、変わったことで結果的にベターであることもよくあります(リスナーが遠く離れたりせずフォーカサーの気持ちの近くに居続けて、なるべく同じニュアンス、感覚で、オウム返しで伝え返そうと務めることが前提ですが)。リスナーに伝え返された言葉を、フォーカサーが自分の言葉や感覚との違いについて「ここは違う」「こっちはそれでも問題ない」と比較でき、やり取りを先に進みやすくする効果があると思います。