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1-4『おっちゃん、服を買ってもらう』


 連れて行かれた王城を後にして、俺がサーヤと向かったのは王都で一番人通りの多い場所である露店通りだ。

 サーヤと手を繋いだままというのは変わらないが、今度は俺が先導する立場となっている。


 サーヤに任せていると、とんでもない場所に連れて行かれる予感……というか前例が出来たので、なるべく自分の意思で行動しなくては。

 結局王城では例のお貴族様に嫌味を言われて出て来ただけだしな。まあ、五体満足で出てこられただけ良かったと思おう。


「なあなあおっちゃん、何処に行くん?」


「ん、もう少しで……あった、あそこだ」


「服屋さん?」


「そう、確か、それなりに質の良い古着を扱ってたはず」


 人混みの中を進みながらサーヤの問いに答える。俺が目指していたのは言ったように服を主に扱う露店だった。

 品揃えが中流に片足突っ込んでいるような、きちんと稼ぎがある連中向けの品質の物ばかりなので俺は場所を知ってはいても利用はしたことが無かったが。


「店主、ちょっと見繕わせて貰うぞ」


「……ああ? 金はあるんだろうな?」


「あるよ、支払いは大丈夫だ」


「買わねえ分まで汚え手で触って汚したらタダじゃおかねえからな」


「わかってる」


 まあ、この見た目で信用しろってのも無理なのは当然なので、商品を一応見せて貰えるなら優しい方だな。


「むう、このおっさんお客さんの扱いなってへんわ、いらっしゃいませも言わへん!」


 ただサーヤは店主の態度が気に食わなかったらしく、キッと眉を吊り上げて文句を言い出した。

 あー、大丈夫かこれ? この辺りの商人は子供でも容赦しないからな……。


「……なんだとこのガキ……もしかしてそのお嬢さんが支払いするのかい? ああそうそれならじっくり見ていってくれ。あ、うんすまん、これはうっかりしてたな! いらっしゃいませ、どうぞごゆるりとー!」


「へっ? う、うん……」


 サーヤの一言に、ギロリと目をそちらへ向けた店主だったが、サーヤの身なりを見た瞬間に態度を豹変させやがった。

 いらない心配だったようだな。商魂逞しくてなによりだ。


 豹変し過ぎでサーヤが戸惑っているのがちょっと面白い。



 そして、並んでいる衣服の中から俺の背丈に丁度良さげな物を見繕ろい、実際にサーヤに肌触り等を確かめて貰って購入するものを選ぶ。

 俺が商品に触れると難癖つけて買い取りを迫られそうな気配がプンプンしたので、見た目的に清潔そのものなサーヤに商品を確かめて貰うしか無かったのだが、存外サーヤは楽しそうにしていたので良かったと思おう。


「これが良いか、丈夫そうだし」


「あかん、あかんわおっちゃん、ごっつうダサいわ! こっちの方がウチはカッコよくなる思う!」


「そ、そうか……でも丈夫そうな服……」


「こっち!!」


「……お好きなように」


 ただ、可能な限り分厚い生地で丈夫な物を……という考えで選ぼうとしていた物はサーヤに全否定され、サーヤの趣味で選ぶ事になったが。


 で、シャツにチュニック、ズボンと、皮のブーツも置いてあったのでそれも選択。あとはサーヤの強い希望により濃緑のやたら大きな外套(マント)

 緑に茶色と樹木のような色合わせである。なにか拘りを感じる、何に対してなのかは知らんが。


「そっくりさんはな、緑色なんがルールやねん」


 なるほど、わからん。


 そんなやり取りを経て、支払いの為に横で笑顔を張り付けた状態のまま立っている店主へと声を掛ける。

 ひとつひとつの品には値札が付いていたし、ざっくりと計算して……銀貨二十二枚か、ブーツと外套が無駄に高い。無しなら銀貨十枚以下だったのだが。


「あー、全部で銀貨三十五枚ですな」


 で、案の定というかなんというか、ふっかけて来やがった。

 こっちが貧民と小さい子供だと思って計算出来ないと思ってるな? 悪びれもせずしれっとぼったくろうとする辺り、人の身なりで態度を帰る商人と言えば商人らしい。


 ただ残念ながら俺は算術ぐらいは出来る。そこそこの家に生まれた恩恵で教育だけは受けられていたからな。

 それを活かせないご時世というのが物悲しい。まあ、やる気も無かったのだが。


「あー、あのな……」


「おっちゃん、おっちゃん、このてんいんさんけーさん出来てへん、間違っとるもん」


「ん?」


「なっ!?」


「シャツが銀貨二枚やろ? こっちのえと、ちゅにっく言うん? これが三枚やろ? で、ズボンが四枚で、ながぐつが八枚、マントが五枚やから二十二枚やで」


 サーヤは土の地面にしゃがみこんで、いつの間にか持っていた小さな木の棒のような物を使って、変な模様を土の上にサラサラと書きながら店主の提示する値段へ指摘を述べる。


「サーヤ、何書いてるんだ?」


「足し算やけど? こっちのへんな数字はよく分からへんから、ウチの知っとる数字で書いてんねん」


「ほー、足し算。それじゃ、ブーツとマントを引いたら幾らになる?」


「22-8-5で、きゅう!」


 パッと地面に計算書かずとも出てきたな、暗算も出来るのか。


「なるほど、成る程、サーヤは頭良いんだな」


「へへへー」


 とりあえず褒めておこう。この歳できちんと計算出来るのは、環境が良いところで育ったのだろうというのもあるが、それ以上に学ぶ事をきちんと真面目にしていたって事になるし。


「……だ、そうだが店主、俺も計算した方が良いか? やれと言うならやるが」


「ちっ! 分かった降参だ、二十二枚だよ」


「あいよ」


 変に意固地になられなくて助かったな。ごく稀にだが、恥を掻かされたとかで逆上するのが居ないでもないからな。


「店主さん、二十枚にまからへん?」


「へぁ!?」


「……サーヤ?」


「ゼニのやり取りはせんそーや! ってウチの住んでたとこでは教わってん、だからな、まからんかな? だめ?」


 支払いをサーヤに任せようと思ったら、サーヤは店主を相手取り値切り交渉をし始めた。


「サーヤ、いや、そこまで……」


「でもおっちゃん、こーいう外でお品出ししとるお店は、値切られるんをきっちり考えててふつーより高い値段を値札につけとるんやって、ウチ教わったんやけど」


「いや、それはサーヤの国の話……」


 あ、店主が目を反らした。割高で値札付けてたのかよ。


 結局、半刻程のサーヤの交渉によって衣服一式で銀貨十七枚と銅貨三十枚、賤貨七枚にまで値切る事に成功していた。


 服屋のおっさん店主は後半泣きそうになってやけくそになっていた。

 最後まで付き合って結局値切りに応じた辺り、悪い奴じゃなさそうだな。


「……サーヤ、お前の国って、みんなこうなのか?」


「そうやで? 値切れるもんは値切るに決まっとるやん」


 サーヤの国怖い。子供までこんな金に厳しく教育してるとか、怖い。



※サーヤは無茶苦茶頭良い子です。神童とか言われる類いのそれですので普通では勿論無い。

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