欲しいもの
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「っと後は、靴がいるのか」
少女の足元を見れば草履を履いているのに気がつく。
流石に草履に合う洋服は購入していない。
「東雲さんって靴何センチ?」
東雲さんは当たり前のように
「測ったこと無いから知らない」
こんな会話にも慣れてきた。
カート一杯に積まれた服の山を見る
ランジェリーショップという修羅場を潜り抜けたのだ、女性物の服屋なんて、余裕過ぎてアクビが出るレベルだった。
靴の量販店、その入り口にちょうどシーズンものだからだろうか、暖かそうなブーツが並んでいた。
東雲さんの方を見るが、ブーツに興味を示す気配はない
どんなのがいいか東雲さんに聞くが
「チアキが決めて」
先程から、これしか返ってこない。
俺は店員さんに声を掛ける。
「サイズ測ってもらっていいですか?在庫あったらこれ欲しいんですけど」
特に暖かそうなムートンブーツを手に取る
店員さんは腰に下げたメジャーを取り出した。
「23cmですね」
東雲さんの足は23cm…と
この数時間の買い物で、東雲さんのパーソナルな情報が俺に駄々漏れてる気がしてならない
たとえば、カップ数とか
プライバシーの侵害だとかなんだと、最近うるさいから明言はしないが、一つだけ言いたい
胸の大きさがすべてじゃない。
メジャーをしまい終えた店員さんは
「それじゃあ、在庫見てきます」と
バックヤードに消える。
何も言わないで去ってくれて良かった。
俺は、足袋を脱ぎ、露になった、東雲さんの足に目を向ける。
細く、しなやかな足は、至るところに黒いアザが出来、爪が何枚か剥がれてしまっている。
俺が足を見ているのに、気付いた東雲さんが
「何?チアキ」と問いかける。
流石に、傷について触れるほどデリカシーに欠けてはいない。
「いや、足細いなーと思って」
東雲さんは自分の足を見つめる
「そうなの?」
そもそも、女の子の足の太さなんて、彼女たちが気にするほど男は、気にして無いと思うし、わかってないだろう
……女の子の事でわかることなんてほぼ無いに等しいからわからんけど。
それでも東雲さんの足は細いと思う。
言葉を続ける
「東雲さんは、こんな服着たいとか、こんな靴履きたいとか、そーいうの無いの?」
カートに積まれた、服の山
それら全ては俺の独断と偏見で選んだ物で、彼女は一枚も選びはしなかった。
「別に…なんでもいい」
彼女は、淡々と返す。
なんでもいいが一番困るんだよな…
あれだろ、女の子って、なんでもいいとか言いつつ、フツーに笑顔で「それは嫌」とか、言い始めるから始末に終えない。
結局、なんでもいいというその言葉は、「私の好みにあったものなら」なんでもいいって話な訳で、
ちゃんと全部言わなきゃ伝わるわけ無いだろ、そんなん
詐欺だ詐欺。
そんな、疑心暗鬼にとらわれた結果が服の山だ。
まぁ東雲さんは、別に文句言わないし、どんな格好でも似合うからマシだが、彼女のお金で買い物するのだ、出来るだけ意向には添いたいと思い、聞いてみる。
「なんか一個ぐらいあるでしょ?言ってくれた方が助かるんだけど」
東雲さんは呟いた。
「ガラスの靴」
紅い瞳が俺を見ていた。
「じゃあガラスの靴を、頂戴?」
彼女の目は、怒りも、悲しみも携えてはいなかった
その眼差しに、既視感を覚える。
少女の返答に、言葉を詰まらせていると
「お待たせいたしました」
ムートンブーツを手に持った店員が帰って来た。
急いで席を立つ。
レジで会計を済ませ、椅子に座る東雲さんに声を掛けた。
「じゃあいこうか?」
彼女は頷く。
歩きながら、気まずさを誤魔化すように
「お腹すいたからご飯食べよう?」と声を掛ける。
何がいいかを聞くことは、もうしなかった。
彼女は1週間楽しく過ごせればそれでいいのだ、そして俺はその手助けをして、3億円を貰う。
ただそれだけだ。
ショーウインドウに、歩く俺の姿が反射する、
その顔を見て、先程の既視感の正体に思い当たってしまった。
俺は目を背ける
よく知っているそれは
ー その感情は
諦めだったことに気がついてしまったのだ。