表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/78

序文、日常の始まり

俺が払うべき対価は踏み倒したつもりだったが

どうやら、そうは上手くいかなかったらしい


「…新年早々、学校行くとかどんなイジメだよ」

留年ギリギリの出席日数だった学生が何日か休んだ

そんな学生に課せられた罰である、冬休みの追加課題

それを学校まで取りに行った帰りだった


…担任、ちょっと距離置いてたなぁ


いくら誤診でしたなんて

診断書持っていったとはいえ

エボラ熱なんて致死性感染症だと言われていた奴に

わざわざ近づきたくないだろう


まぁそんな嘘のおかげで

無慈悲に留年させられなかっただけ

マシとも言えるけど


家に帰ってきた俺への反応は、散々で


みんなマスク付けてたし、何なら姉貴に至っては

除染用の防護服着てたからね?


学校どころか、家ですら居場所失うとか

とんだ嘘をついてくれたと思う。

そんな事を考えながら


俺は、ふと道の脇に目を向けてしまう

そこには、異常な葬儀看板は無くて

住宅展示の案内が電柱に括り付けられていた


――まぁ、こんなもんだよな


そう都合よく、お話は始まらないのだ


俺はイヤホンを付けて、音楽を流す

そうしてしばらく歩いていると、急に肩を叩かれた


俺はとっさに振り返る


そこには、笑みを浮かべた姉貴がいた

「ちょっと買い物付き合って?」


……大ヒット彗星落っこちてくるアニメ映画の主題歌聞いてたから

もしかして、なんて思っちゃったじゃないか

まぁそんなふうにはならないけど


俺が、真面目な顔で

「君の名は?」

なんて聞いたら、それこそ笑えない


記憶喪失なんて劇的な事件、求めてない


「別に良いけど」

特に、やることもない正月だ

どうせ、初売りの荷物持ちだろうけど


俺は、無意識に手をつなごうとする

姉貴は、そんな俺の手を困ったように見つめて

「彼女と勘違いされるよ?」

なんて、ふざけて笑う


――あぁ、そうだった

もう、そうなってしまうんだった


俺は手を引っ込めて、慌てて言い訳する

「どう足掻いても親子が限界だな?」

姉貴、ロリだし

「すいませーん、知らない人に手を繋ごうとされたんです」


待てよ、そんな社会的制裁耐えられないから


児童誘拐とか、社会から抹消されるから


慌てて姉貴の口を塞ぐ

それは余計、誘拐にしか見えなくて


八方塞がりで泣きたくなる


姉貴は俺の手を口から離し

「わかったら、黙って付いて来る」

「…はい」


姉貴は家とあさっての方向に歩き始め

「家の方にもモールあんだろ?」


俺を振り返り笑う

「そっちは、あとで行くから」


――そんな仕草が、思い出させてしまう


…家に帰って駅伝でも見てればよかった。


俺は諦めて姉貴の後を追った


――混み合うショッピングモール、そんな喧騒の中

姉貴はさっきから、男性お断りのダンジョンで

ああでもないこうでもないと下着を物色しているようだった


「千秋?どっちがいいかね」

2つの下着を交互に自分の前で動かしながら、聞かれる


どっちでも、変わらんだろうよ


俺は、店員さんの言葉を思い出しながら

「右で、ボタニカルレースっていうの流行ってんだろ?」

それが何かは知らないけど、確かそんなことを言いながら

店員さんが勧めてきた気がする。

姉貴は驚いたような顔をしたあと、俺にニヤリと笑いかけ

「千秋、トレンドぶりたいのは分かるけど」

「それ去年の流行だからね?」

「いつかできる彼女に幻滅されるぞっ?」


確かに姉貴の持つ下着は、値引きの札がつけられていて

変わらないものなんて無いと言われてるようで


――うるさいな

聞いたら「何でもいい」しか言われねぇよ



ため息を吐きながら

「知るかよ、てか姉貴のサイズそこにあるの?」


姉貴は下着を握りしめながら

「お前、後で裏な?」

冷たい声でそう言った


結局、サイズは無かったらしく

その後ヤケのように洋服を買いまくって

ショッピングモールを出て

もっと混み合う駅前にある、モールへ向かいながら

姉貴は恨み言をいう


「可愛いと思った物に限って、サイズ無いし…」


「西松屋とかで探したらいっぱい有るだろ?」


スネを全力で蹴られる


「そういう話してない」

「シーズン外れに投げ売りされた服着てる人に言っても無駄か」


「……別に良いだろうが」

「元々、高いものなんだから」

「安いときに買って何が悪いんだよ?」


――そうじゃなきゃ、手に入らない

そんなふうに思ってた


高い時計、新しい車、流行の服

それはみんな欲しがるようなステータスで

でも彼女も

そして、俺もそんなもの求めなかった


時計?

スマホで事足りるだろ


新しい車?

納車までに何人それに乗ったんでしょうね


流行の服?

すぐに時代遅れになっちゃうのに


別に、悪いことだとは思わない

価値観なんて、みんなそれぞれでいいと思う


ただ、それが正しいなんて言うのだけは

そう言って、誰かを憐れむのだけは

断じて、違うと言っておこう


価値なんて、その人だけが分かればいいことだ


盆栽とか絵画とか

なんでそんな高いのか分からないなんて言うくせに

金持ちの道楽なんて笑うくせに


なんでそいつらは幸せなのに

人と比較しないと価値を付けられないんだよ?


それこそ幸せな人間の道楽だろうが


傷だらけでもいい、裕福でなくてもいい

身の丈に余るようなそれでなくて良い

俺がたった一つ望む、それを――


その名前を口にしてしまう



「…ユウキ」


行き交う人の中

茶色のティーコートに身を包んだ

ショートカットの少女がこちらを振り向く


良くあるよね、自分に手を振ってると思って会釈するやつ

あれクソ恥ずかしいんだよな……


そう思って、彼女を見る

やっぱり見知ったそれでは無くて




……それでも、見間違えるはずが無い



決して、空から少女が落ちてきただとか

急に居候として飛び込んできたとか

悪人に追われ傷付いていたとか


――神様のいたずらだとか


そんな都合の良さのない、ありきたりな退屈の物語


これは、そんな日常の始まりで




―― 俺は彼女に恋をしてしまった




あとがき

無事に物語を終えることができました

これもひとえに読者様のおかげです。


まだ語っていない、そんなお話も有りますので

しばらく、そんなNGシーンじみた幕間劇を

投稿したいと思っています。


ところで皆様は

この先にあるくだらない、日常のお話をお望みでしょうか?


感想やレビュー等でご意見頂けると幸いです


…なんていって、ちゃっかり感想やレビューを貰おうなんて、そんな浅ましい嘘でした。


話の続きになるか、違う作品になるかは分かりませんがまたお目にかかる日を楽しみにしたいと思います。


だから皆さん

「おやすみなさい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ