最後の晩餐
煮込み終わった鍋におたまを入れてユウキは味見する
昼前に買い物に出たはずなのに、作り終わったのは
もう夕方近くて、俺は少しだけ刺すような痛みを覚える
そんな痛みを無視するように
「どう、美味しく出来た?」
そんな事をユウキに聞く
そんな質問に、ユウキは悲しそうな顔をして
「アヤメの作った方が美味しかった」
ユウキからおたまを取り、口に運ぶ
それはちゃんとカレーの味がして
「上手にできてるよ?」
そんなふうに言うけども、それでも彼女の顔は晴れない
「アヤメに悪いことしてたね」
多分、彼女も気がついたのだ
自分で作って初めて
毎日料理する大変さに
毎日遅くまで仕事をして
それでもユウキの為に作っていたアヤメの優しさに
そんな当たり前に見える幸せに、気がついたのだろう
「別に今からでも遅くないだろ?」
「アヤメにありがとうって言うの」
俺はユウキにそう告げる
まだ間に合うから、俺だって死ぬほど遅かったけど
今ちゃんと幸せだから
「アヤメにも食べさせてあげようよ、カレー」
「…でも美味しくないよ?」
俺はそんなユウキに笑いながら
「多分、アヤメは美味いって言うよ」
「そんで、俺も美味いっていうなら」
「このカレーは、おいしいカレーなんだよ」
世の中、数が多いほうが正義なんて
こんな時だけ、都合よく持ち出すのは良くないけれども
「絶対美味しい?」
「間違いなく」
「それなら呼んでもいいかな」
やっとユウキは笑う
俺はアヤメに電話をかけた
三人分の配膳を済ませてアヤメを待つ
インターフォンが鳴り、ドアを開ければ
そこには、戸惑った顔をしてコンビニの袋を下げたアヤメがいた
「こんばんわ」
どこか申し訳なさそうにアヤメは俺たちに挨拶する
「まぁ入ろうぜ?」
玄関に招き入れられ、アヤメは靴を脱ぎリビングに入る
3つ並んだ皿を見てアヤメは聞いた
「なんのつもりですかね?」
俺はそんなアヤメに笑いかけて
「最後の晩餐?」
確か絵画のそれは、13人だったと思うから
10人ほど足りてないが
俺の友好関係全員足しても、1人も増えないから諦めた
「貴方も皮肉っぽいそれ、辞めたらどうです?」
「友達居なくなりますよ?」
アヤメはそんな皮肉を口にするが
ユウキは、今日死んで神になる
それなら正しく、最後の晩餐に違いないだろう
「間違ってないだろ?」
「それに友達なんていうのは既に居ないから心配すんなよ」
自信満々に言ってやった
彼女はため息をついて憎々しげに呟く
「ユダは私ですか?」
描かれた絵画には一人裏切り者が紛れている
まるで、裏切り者は自分だと
そんなことを思ってるようだった
「どうなんだろうな?」
俺はそんなふうに誤魔化して
「冷める前に食べようか」
そう二人に告げた。
俺とユウキは手を合わせる
「いただきます」
アヤメは少し呆けたようにしたあと
「いただきます」
そう口にして食べ始める
ユウキは心配そうに、アヤメを見つめて
咀嚼し終わった彼女にに聞く
「とう、美味しい?」
彼女はひとしきり考えて
「美味しいんじゃないんですかね」
そう言った
ユウキは肩の力が抜けたようにソファーに沈み込み
「良かったー」
そんな言葉を漏らす
アヤメはスプーンを口に運びながら
「それで、結局これはどういう事なんですか?」
そんな疑問を口にする
「ユウキが作ったカレーが美味しいかの品評会だよ」
俺はそう言って笑う
アヤメははそんな言葉にバツが悪そうに
「私が作ったのより美味しいですよ」
そう言った
そんなアヤメにユウキは
「ううん、アヤメのカレー美味しかったよ?」
「いつも忙しいのにちゃんと作ってくれてたのに」
「気が付かなくてごめんね?」
そう告げた。
「私こそ、いつもおんなじご飯ばかりで」
「一緒に食べてあげられなくて」
「いただきますもご馳走さまも教えられなくて」
「ごめんなさい」
ナニコレ?謝罪会見なの?
「……なんで二人共、謝ってんだよ?」
「日本語は正しく使えよ」
「こういう時はありがとうと
どういたしまして、じゃない?」
俺は、一度スプーンを置き二人に言う
別に悪いことなんて、二人共していないのだから
ただ感謝して、それを過不足なく受け取る
そんな当たり前すら
ここにいる皆が、上手くできなくて
二人共ポカンとした顔で俺を見ている
俺は手を叩いて
「はい、やり直す」
二人共向き合い直し、ユウキが恥ずかしそうにアヤメに言う
「…えっと、いつもご飯を作ってくれてありがとう?」
「…どういたしまして?」
はい、正解です
「出来んじゃん」
偉そうに声を掛けた俺を二人はジト目で眺める
「ていうか、チアキにだけは言われたくない気がする」
「私も全く同感ですね」
人類を仲良くさせるのは共通の敵である
だから宇宙人かなんかが侵略してこない限り
世界平和は訪れないだろう
…そんな感じで誤魔化しておこう
三人で手を合わせてご馳走さまを言う
あやめは三人分の食器をシンクに運んで
「ご馳走いただいたので、皿ぐらい洗います」
そう言って洗い物を始めた
それじゃあお言葉に甘えてとユウキを抱き抱えてソファーに座る
アヤメはこちらを見て笑い
「貴方、すごく恥ずかしいことしてる自覚有ります?」
有るよ?それくらい
「そう思うんだったら、帰宅したら?」
そのまま、二度と会わなければ
幸せのまま生きていけるんですけどね?
でも、そうはいかないのは知っている
俺は静かにアヤメに告げる
「…ちゃんとユウキに言っとけよ」
時間はまだ20時を過ぎたくらいで
約束の時間には早いけれど
多分、ちゃんと伝えるには足りないだろう
アヤメは洗い物を終えて、ソファーに座る
どう切り出したらいいか迷っているようだが
それでもアヤメは話し始めた
「ユウキ、私は貴方に嘘をついていました」
まるでそれは懺悔みたいで
彼女は悔いるように続ける
「……ユウキは今日死んで、神様になります」
ユウキは呆けたような顔をして黙っていたが
それでもしばらくして、確かめるようにアヤメに聞いた
「私が、アヤメみたいになるって事?」
「そうです」
彼女は苦々しげに顔を歪める
そんなアヤメを見てユウキは笑い、朗らかに返す
「…いいよ?」
アヤメは目に涙をためて彼女に問う
「なんで、ユウキはそんなふうに笑えるんですか?」
「だって私は嘘ついてたんですよ?」
「怒ればいいじゃないですか」
「恨めばいいじゃないですか」
ユウキはそんなアヤメに子供をあやすような声で言う
「嘘つきだからって嫌いにならないよ?」
「だって私はチアキが好きだから」
「そんな幸せをくれようとしたアヤメが好きだから」
アヤメは目を見開いて彼女を見る
ユウキはそんなアヤメに、笑いかけ
「そんなふうになれるなら、神様でもいいよ?」
しっかり目を見てそう言った
ユウキは、ずいぶんと嘘をつくのが上手になった
それでも、彼女は俺の膝で震えていて
それを必死に押し殺していた
俺はユウキを強く抱く
だけど、最後まで言い切った彼女に免じて
それだけはアヤメに伝えないでおこう
それは、どう足掻いたところで間違いだと




