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海の上で

スタッフに連れられて俺はパークの門を出る

怒られるかと思ったが、案外よくある事らしく

笑って、手を振って見送ってくれた


こういう、スタッフ一人一人の思いやりがあるからこそ

ここは夢の国なんだろう


だから、夢から醒めた残酷な世界で

彼女に夢の続きを見せるのは

神様でも、誰でもなく俺の仕事なのだ


ポケットのスマートフォンが震える

取り出して画面を見れば、先程まで魔法使いだった

アヤメの名前が表示されていた

「もしもし?俺だけど」

「あぁ王子様ですか?」

「うるさいな、なんの用事だよ」

「ユウキ、着替え終わったのでそのご連絡と思ったんですけど」


「彼女、泣き疲れて眠ってしまったので」

その言葉にドキリとする

「不本意ながら、送って差し上げます」

もう用済みかと言われるのかと思ったが、そうではないらしい


「駐車場の前に車置いときますんで、そこまで来てください」

「分かった、すぐ行く」

それだけ言って、電話を切った


駐車場の前には、白の軽自動車が止まっている

「おかえりなさい」

ウインドウが空きアヤメが顔を見せる。


神様が送ってくれるなんて言うから

かぼちゃの馬車か、そうで無ければ

アメリカ大統領みたいな車なのかと思っていたが

普通すぎて、逆に驚いた

「お前、本当に神様?」

休日には一人で飲んだくれて、いつもコンビニでご飯買ってて

もはや、疲れたOLなんじゃないかという疑念が捨てきれない

アヤメはムッとした表情で

「別に、貴方一人で歩いて帰って貰っても結構ですけど」


「…スイマセン、調子乗りました」

神様が足になってくれるというのだ

ありがたく乗ることにしよう


後部座席に目を向ければ、ユウキが眠っていて

俺は仕方なく助手席のドアを開ける

車内はココナッツの芳香剤の匂いがして

流行りのJ−POPが掛かっていた

「お邪魔します」

そう言って席に座り、シートベルトを締める

それを合図にしたように、車は動き出した

「お腹空きません?」

アヤメがそんなことを聞く

言われてみれば、確かにロクに食べていないことに気がついた

「確かに、なんか食べたいかも」

「それなら、ちょっとだけ寄り道しましょうか」

アヤメはスピードを上げて高速道路に乗る

「どこ行くんだよ?」

よく考えれば

アヤメが免許を持っているのかも怪しいことに気がついた

間違いなく神様の方は無免許、無資格だろうし

「シンデレラ城とまでいきませんが」

「素敵なところですよ?」

ウインカーを出したまま、いつまでも車線変更出来ない車内で

どうか、そこが天国でないことを祈る事くらいしか出来なかった




アヤメは前を見据えたまま、俺に問う

「後悔しませんか?」

いやいや、そんなわけ無いだろ

人生はいつだって後悔の連続だ

「そんなもんとっくにしてるよ」

俺は笑いながら

「もっと早くに言わなかった事をだけどな?」


彼女は、そんな俺を眩しそうに見つめ…

いや、前見てほしいんですけど、トラック近いんですけど?

「いつから、ユウキを好きなんですか?」

…決まってんだろ、そんなの

「王子様と一緒だよ」

ひと目見た時から、声を聞いたときから

多分それは始まっていて

「そうじゃ無ければこんな面倒な願い、聞くわけ無いだろ?」


アヤメはくすりと笑う

「確かに、そうかも知れないですね」

アヤメは紙袋を差し出す

「ガラスの靴持っていきます?」

「ユウキ、持って帰って来ちゃったでしょう?」


別にもう、あっても無くても、どうだって良かった

「別に要らないんじゃないかな?」

「それでも、シンデレラの物語には必要でしょうに」


何度も見た、シンデレラを思い返す


この物語には、重大な嘘が紛れてる


0時の鐘がなり、全ての魔法が解けてしまったのにどうしてガラスの靴は一つだけ残っていたのだろう?


物語だからと言ってしまえば

それまでの話だが、そんな風には思わない。


ガラスの靴は、王子が作った偽物だった

それで、全ての説明がついてしまう

だっておかしいじゃないか

名前も知らない少女に恋をしてしまったのだ

少女がどんなに薄汚い格好になろうとも

その瞳を

その仕草を

その声を

その吐息を

鮮烈に焼き付き、忘れることを許さないそれを

紛うはすがないのだ

ガラスの靴なんて無くたって絶対に見つけ出せる


なのに、どうして王子はガラスの靴を女性たちに履かせて試し、国中を探すなんて事をしたのか?

それも、簡単だ

カボチャの馬車が

きらびやかなドレスが

宝石が、お金が、身分が、学が

その全てが、無かったとしても

この靴を履ける者こそ、運命の人だと

そう、居なくなってしまった少女に伝わるように

ガラスの靴を作ったのだ。


幸せなこの物語のたった一つの嘘は

想いを伝えるための、そんな優しい嘘で――


何もかも、偽り続けた俺に必要なものでは無いだろう


「やっぱりいらない」

俺はアヤメに紙袋を突き返す


「俺が好きなのは、ユウキで」

「シンデレラなんかじゃ無いからな?」


そう、俺に必要なのは

嘘じゃなくて

本当の気持ちだけなのだから



「…それを聞いて安心しました」

「この後に及んでそんなもの欲しがってたら」

「車から放り投げる所でしたよ?」

コイツが言うと、洒落にならない

竹刀ごと投げ飛ばされたことを思い出して

笑ってしまいそうになる

「もう、最後の一日が始まります」

「どうか、その瞬間までユウキをお願いします」

「ただの小暮千秋さん?」

車は、海の上のサービスエリアに止まる

「私はここで待ってます」

「終わったら電話で呼んでくださいね?」



それに頷き、ユウキを揺って起こす

彼女はゆっくりと目を開けて

俺は、あと何回も告げないであろうその言葉を口にする

「おはよう」

――彼女は幸せな夢から醒めたみたいで

「うん、おはよう」


だから、幸せな現実をあげようと思う


もう遅すぎて笑ってしまうけれど

今更でもいいから、幸せな物語を始めよう


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