ゴンドラの行く末
キャストさんたちの笑顔に見送られ園内に入り、
レンガづくりの町並みを抜けた先には
このテーマパークのシンボルとも言えるお城
シンデレラ城が姿を表す。
隣を歩くユウキはずっとそわそわしていたが
それを見つけた瞬間に息を呑み
立ち止まって、それを見続ける
「あれ、シンデレラのお城?」
そんな事を俺に聞いた。
厳密に言えば王子様のお城だし
なんならテーマパークのそれは偽物なんだけど
それでも俺は自信有りげに
「そうだよ」
そうやって頷いて
「まだ、見たことの無いものがいっぱいあるから」
「先にそっち回ろうか?」
ユウキにパンフレットを手渡した
ユウキはそれをじっと見つめて、一個のアトラクションを指差す
「これ乗りたい」
それはこのテーマパークで何個かある絶叫マシンの一つで
滝から落っこちるアレだった。
「あーそれね」
正直、混んでると思う
それにアレだ、何というか心臓に悪いというか、その
…うん、あんまり得意ではないのだ、その手の乗り物が
なんでわざわざお金払って怖い思いしないといけないとか
世の中の奴ら、皆マゾかよ
それでもユウキはもう歩きだしていて、振り返る
「いっぱい回るんでしょ?」
俺は小さく溜息を漏らす
まぁそれでも、ユウキが喜んでくれるというのなら
仕方ないから乗ろうか。
マジでレールとか外れたら一生呪ってやるからな?
結局、2時間位列に並んて
今、俺はゴンドラの最前列で顔を引きつらせながら
落ちる瞬間に備えてバーを握り締めていた。
隣のユウキを見れば、普段の表情と全く変わらなくて
たまらずユウキに聞いてみる
「怖くないの?」
ユウキは意外そうにこちらを見て
「チアキは怖いの?」
…いや、2時間延々落ちてく人たちの
悲鳴を聞かされていたら怖くもなると思う
「…正直な話めっちゃ怖い」
落ちたら死にそうとかそんな事よりも
何よりも俺を恐怖させるのは――
ゆっくりとゴンドラは、暗い中を進み続けていて
それでも終わりを告げるように明るい外が見えてくる
ああ、始まってしまうのだ
俺はバーを握る手に力を込める
その先にある結末を俺は知ってしまっていて
救いもなく、慈悲もなく
ただ抗いようもなく落ちていくだけだと知っている
そんな事実が何よりも怖かった
ユウキは、顔色一つ変えることはしないのに
「大丈夫だよ」
「私も怖いから」
そんなことを言いながら、バーから手を離すのだ
乗り始めたゴンドラはそんな言葉も想いも知ることなく、レールの上を滑り落ちて
身体が宙を舞う感覚が、風を切る轟音が、周りの歓喜にすら聞こえる悲鳴が
そんなもの求めていないのに、否応なく俺に叩きつけられて
俺を支配しようとする
落ちながら必死に抗うように、せめてもの強がりを口にする
…だから、嫌いなんだよ
絶叫マシンも神様も
その言葉は掻き消され、誰に届くこともないまま――




