禁じられた果実
結局、この夜の密会の結末は
決闘としては、見るも無残な歴史的惨敗で
話し合いとして見るならば、成果はあった
そんな所だろう。
アヤメを倒し、全部の契約を踏み倒す
物語の結末としては劇的で、刺激的で
エンターテイメントとしては最高といえる結末
そのエンディングは、叶わなくて
その代償として俺の称号が
割り箸に負けた男
そんなのになってしまったのは個人の力量不足と諦める
結局、どう転がろうとも明日のデートですべてが決まってしまう
そんな事実に身震いする。
神のみぞ知るなんてよく言うけれど、神すら知らないその答えは
もう、俺の力ではどうしようもないことで
ユウキだけがその問いに答えられる。
それでも小細工を弄して、ほんの少しの勝ちの目を作れた
穴だらけの不条理な言葉遊び
そんなカードをジョーカーにする事
アヤメ相手にその約束だけは取付けられたのだから、上出来だろう
俺は静かに玄関を開けて、リビングに竹刀ケースを戻す
最初に見たときは、驚きしかなかったこの部屋も
五日も過ごしてしまえば慣れてしまって
ユウキのノートや、辞典なんかが増えたこの場所は
もうただの入れ物では無くて
俺達が退去したあとはどうするんだろうと
そんな、終わったあとの事ばかりが頭をよぎってしまった
そんな思いを振り払うように、ドアを開け
そっと寝室へ入っる
俺が家を出た時のまま、まるで時間が止まっていたかの如く
ユウキは安らかな寝息を立てていて
そこだけを切り取ってしまえば
不幸だとか、幸福だとか、契約だとか
そんな事さえ忘れて、ただ歳相応に見えて
ユウキのそんな姿を見てしまった事に
まるで配られる前のテスト
その答案を盗み見てしまった様な
そんな、罪悪感に苛まれる。
それはハッピーエンドのその先に他ならなくて
そんな彼女の表情を見るべきは
間違いなく俺じゃ無いはすで
ユウキに布団をかけ直し彼女を眺める
それでもユウキに恋をしてしまったのだ。
物語で見るそれは、蕩けるように甘く映るけれど
多分、それは甘味料でごまかされて、着色料で色づいて
綺麗に形作られて、パッケージに入ってる偽物で
アダムとイヴが食べた禁断の果実こそが、恋と呼ぶそれだと思う
彼らが追放されたのは、言いつけを破ったからだろうか?
無垢を失ったからだろうか?
そうでは無いのだ
そんなのはただの建前で
時間をかけて、手間をかけて
甘くなるように願い、育てたそれを
横から奪い取ったから、彼らは楽園から追放されたのだ。
アダムとイヴは
そのりんごが甘かったから
美味しい物だと勘違いした愚か者で
それを作る苦しみも苦さも知らないで
甘さだけを享受しようとするそんな奴が
居ていい場所ではないと分かっている
りんごすべてが甘くはないと
実らない物も
酸っぱく実る物があると知っている
それでも、そんな甘さを知ってしまった
もっと欲しいと願ってしまった
だから楽園を失った後に
俺が植えるその木に実るそれが
不揃いでも虫食いだらけでもいいから
どうか甘いものでありますように




