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神様と凡人その境界について

俺は狙いすましてアヤメの左手を狙う

アヤメはそれをやすやすと手で受け止め、そのまま俺を竹刀ごと()()()()()

宙に浮き、世界が反転する

咄嗟に受け身を取って、それでも地面に叩きつけられる

何だよ、あいつゴリラかよ?

間髪入れず、アヤメは倒れている俺の頭を狙い割り箸を突き刺す

それを紙一重で避けて体を立て直す。

数瞬前まで俺の頭があった場所、その下のコンクリートには

まるで豆腐にでも突き刺したかのように箸がめり込んでいた。


…少しでも勝てるんじゃないかと期待していた俺の甘さが嫌になる

つーか、コンクリぶち抜くとか

その箸、オリハルコン製なの?


これじゃあレーヴァテインくらい持ってないと勝負にならない

アヤメは箸を抜き取り

俺に構えなおす

それならリーチの差でゴリ押すしかないと距離をとった刹那、

俺の髪先が宙に舞った。

ハラハラと落ちる切れた髪

はい、リーチも無理と

見えないとか

どっかのサーヴァントも真っ青な宝具だな、割り箸


首元に向けられた一撃を躱し、懐に飛び込む

どうなってんだか知らないがインファイトならどうだ?

渾身の一撃が入ったと確信した瞬間に

世界から、かき鳴らされるギターの音が止んだ

アヤメの手を見れば俺のスマートフォンが握られ

その耳にはイヤホンが付いていた

暫くしてアヤメは呟く

「いい曲ですね、これ」

アヤメはニヤリと笑って

「まるであなた達みたいで」

別に良いだろうが、感情移入したって

その言葉を無視するように息を吐き

俺はアヤメに斬りかかる

アヤメはそれを箸で受け止め

つばぜり合いの格好になる

アヤメは余裕のある顔を寄せ

「いい加減諦めたらどうでしょう」

「貴方だって大切なデートの前に死にたくないでしょう?」

そんな事を囁きかける


何でも知ったような顔で

何でもできるような声で

そんな嘘っぱちで語ってほしくはない

俺は必死に竹刀を押し込みながら、言葉を返した

「何も出来ない、無能な神なんだろ?」

「だったら黙ってろよ」

お互いの獲物が離れ、俺は更に踏み込み、突きを放つ

喉元を抉るはずだったそれは宙を薙ぎ


次の瞬間、鉄パイプで殴られた様な衝撃を受けて

俺は倒れ込んだ。

割り箸が眼前に向けられている

呆れたように

「殺す気なら、なんでそんな玩具持ってきたんですか?」

「そうすれば手加減してくれるとでも思いました?」

勘違いすんなよ?

俺が持ちうる中で最も強い武器だっただけだ

「精神論なら何とかなると思いました?」

「信念なんて貴方に無いでしょうよ」

「適当に人を好きになって、叶わないと分かれば次に乗換える貴方には」

嘲るように言い捨てる


「うっせぇな、勝手に俺を語るんじゃねぇよ」

「それに俺の信念はシャーペンの芯ぐらい脆かろうと」

「それと同じだけ替えが効くだけだ」

本気でやってそれが駄目になって

違うものを探す事、それのどこが悪いんだよ

「馬鹿なんですね貴方は」

アヤメは俺にスマホを放り投げる

「どんなに足掻いても明後日死ぬんですよ、ユウキは」

そんな事、言われるまでもなく知ってる

「自己満足で彼女を好きになって」

「後悔するだけじゃないですか?」


神のくせに、そんな事も分からないのかと苛立つ

声の限り叫んだ

「そうやってお前達がユウキを特別扱いするから」

誰も彼もが彼女を不幸だと呪うから

「だからユウキは一人なんだろうが!」

「間違ってんだよ俺も、ユウキも、世界も、神さえも」

アヤメを睨みつける

「彼女は特別なのか?」

「当たり前じゃないですか、見て分からないですか?」


見れば、わかるよ

同情して、肩入れして彼女の事を考えて

そんな彼女から奪って、与えて

それでも不幸な、彼女を憐れんでいることくらい

そんな無力な神様だと嘆いてる事くらい


「明後日に死ぬ人間を好きになるのはおかしいか?」


「それはそうでしょう」

「だってそんなの虚しいだけじゃないですか」


「実ったって、散ったって明後日死ぬんですよ?」


俺は笑った

何でもわかるくせに、何も知らない神に吠える

「お前、神様なのになんも知らないな?」

()()()()()()()()()()()()()

「誰だって、死ぬんだよ」

「それが早いか、遅いか、決まってるか」

「それだけしか変わらないだろうが?」

「そんなの好きにならない理由に、一緒にいない理由になるもんかよ」

アヤメは目を見開く

唇を震わせ、黙り込む


……勝敗は、引き分けだろうか?

俺は倒れ込んだ

「つーかそんなに強いならお前がユウキ救えよ」

手も足も出なかった

強いなんていうのが周りの勘違いな事を改めて痛感する。

適当言いやがって、馬鹿じゃねえの?


これじゃあ世界は救えない

どっちにしても、ひのきの棒では無理な話だが


倒れ込んだ俺を見下ろすようにアヤメは聞く

あと少しでスカートの中が見えそうだった

「じゃあ貴方はユウキを何だと思ってるんですか?」

「どう思ってるんですか?」

そう言われて、少し考えてみる

「他よりちょっと可愛くて、愛らしくて、頭悪くて」

「王子様なんか探しちゃう、普通の夢見る女の子だろ?」

まぁ、いわく付きで、ちょっと傷が多いけれども

それでプライスダウンというなら喜んでお買い求めしたい。

それだけだった

アヤメはこめかみを抑え溜息をつく

「貴方は彼女の王子様なんですかね?」


「それは知らん、ユウキに聞いてくれ」

「だいたい、神様すら知らん事を俺が知ってるわけ無いだろ」


例え神が実らないと言おうとも、彼女の口から告げられるまでは

諦めるわけにはいかない

そもそも、神様信じてないし

それよりも神様が一人をエゴ贔屓してた事実に泣きそうだった

やっぱり神様も可憐な少女が好きと見える。

まぁ可愛いからねユウキ

俺が神様でもそうしちゃうから諦めた。


俺は身体を起こして、アヤメの目を見る

「だからさ、アヤメにお願いがある」

アヤメは呆れたように

「そんなカッコいいこと言って神頼みですか?」

違うわ、せめて話くらい聞けよ

神なんて居ないって言ってるだろうが

「神様じゃなくて、アヤメに聞いてんだよ」

そんな俺の一言に

彼女はふと、寂しそうに笑い

それは初めて見る、アヤメの表情で

「聞くだけは聞きましょう」


「まずはユウキと俺の交わした契約について」

「それ、クーリングオフは出来ないですよ?」

知ってる、消費者センターに電話する気もない

「俺が貰えるのは、彼女の全て」

「それでいいんだな?」

葬儀場の地面に散らばる札束、それを思い出す

「そうですね、今更そんな物欲しいんですか?」

くれるってんなら喜んでもらう感じ?

「あともう一つ聞かせてほしい」

俺は核心をアヤメに伝える

アヤメは驚き、その後ゴミを見るような顔をして

「貴方、本当に救いようのない馬鹿なんですかね?」

知ってるよ、そんな事

でもそれしか思いつかないんだよ

「出来るのか出来ないのか答えろよ」

アヤメは真剣な顔をして

「やりますよ、それくらい」

「でも、それには足りないです」


 

それだけ聞ければもう用は無かった

「じゃあ足りない分は何とかするわ」

そういって、疲労困憊の身体にムチ打ち、歩き始める

ユウキから貰った竹刀、折れてなくて良かった

そんな事を考えながら、ふと思い出した

「どん兵衛、早く食わないと不味くなるぜ?」

アヤメは慌てふためき蓋を開け、悲痛な表情をする

「箸、使っちゃった…」

そんな呻きを漏らしていた


その姿を見て俺は声を上げて笑う

やっぱり神様なんか、全知全能とは程遠くて

そんな神様より俺の方が多少マシだろう。


俺は共犯者に手を振り、ヨロヨロと家路についた



物語も佳境に突入しました

もう少しばかりお付き合い頂ければ幸いです。



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