ハッピーエンドその間違いについて
結局、なにか喚き散らして男は逃げてしまった。
ユウキは何も言わずそんな男を見送って
虚ろな目のまま、俺の横を通り過ぎようとする。
慌てて俺はユウキの手を掴んだ
「何処行くんだよ?」
ユウキは目を合わせず、冷たく言い放つ
「ここじゃない何処かだよ?」
怯みそうになるが喋ってくれたことに少し安心する。
無視されるのが一番キツかっただろう。
…幸いユウキは、クリスマスに予定は無いらしい
「なんかご飯食べない?」
彼女が虚空を見据えてるとき
ずっと何を話そうと考えていた
どうやって言おうと悩んでいた
でも、ユウキを見れば自然と言葉は出てきてしまって
だから、これは俺の本心なんだろう
朝からユウキを探して、何も食べてない
給水だけはしたから飲まず食わずって言えないのが残念だけど
「お腹空いたからさ」
目を合わせようとしないユウキに問いかける。
彼女は何かを堪えるように吐き捨てる
「じゃあ貴方が…」
「私を殺してくれるの?」
「ヤダ」
俺は即答した。
「てかさ、俺言ったじゃん?」
「なにかして欲しいなら、ちゃんと目を見て」
「名前を呼んでお願いしろって?」
キャラでも無い俺様キャラとか、マジ痛々しいわ俺
彼女はゆっくりとこちらを向いて
泣きそうな顔でそれでも必死に笑いながら
俺の名前を呼ぶ
「ねぇちあき?」
「何だよ、ユウキ」
ちゃんと聞こう
「私を……」
彼女の目から涙がこぼれ落ちる
ボロボロと泣き出し震える声で伝えようする。
「ころしてちょうだい?」
もう驚きはしない、それでも
それが彼女の望みなら、俺は喜んで彼女を殺そうと思う
二階に併設されたホームセンターでありとあらゆる工具を買い込んで彼女を殺そう
屋上から突き落としてもいい
練炭で、首吊りで、車で轢いて、密室トリックを駆使して
どんな要望にだって答えてあげられる。
捕まったって、たとえ死刑になったってどうでもいいと
そんなふうに言い切れる。
でも、そんなものは
望むまでも無く
そんなものはやって来ると俺は知っている
俺じゃない誰かが
性悪で底意地の悪い
神様ってやつが出来るって知っているから
だから俺はこう言うのだ。
「却下です」
彼女は目を見開いて
「なんで?」
「だって、ユウキ笑ってないから」
「ちゃんと前言ったと思うけど?」
俺は笑う
いつか言った、俺たちだけが知る言葉をなぞるように
「それにさ、そんなものはユウキに必要ってだけで」
「不幸なユウキですらいつか貰える当たり前だから、…だから」
「違うもん選べよ?」
くだらなくて、つまらなくて
それで俺だけにしかあげられない
他の誰にも貰いたくない
ユウキが自分で言っていた
そんな特別をほしがっている
子供のように泣きながら、縋るように俺に抱きつく
ユウキは呟いた
「ねぇ…チアキ?」
確かめるように、怖がるように
「それならせめて、私に…」
それでも顔を上げ、俺の目を見て
「わたしにハッピーエンドをちょうだい?」
そう、初めから間違えていたのだ
彼女が欲してたのは
幸せな最後で
ハッピーエンドなんてルビを振ったのは
俺だった
初めから食い違って何もかも間違えていた
それでも彼女は願いを口にした
それが本当かどうかは分からなくて
嘘なのかもしれないけど
彼女はその先をなぞる
「それなのに、私は何もあげられないけれど」
そんな事どうでも良かった
だって俺があげる物だって他人から見たらゴミみたいで
下らなくて、ろくでもなくて
高価な物じゃない、それでもユウキは特別と笑ってくれた
俺を認めてくれるとそう言った。
だから彼女が、自分で価値のないと言うソレを…
心をくれるというのなら
十分だった。
「そんな安っぽくて、くだらない物でいいなら」
強がりだと知っている
三億円あっても手に入らないことも分かってる
それでも俺は笑って
「俺がプレゼントしてやるよ」
ちゃんと俺の目を見て、名前を読んでユウキは欲したのだ
王子様でも神様でもなく他の誰でもなく俺に願ったのだ
笑えてたか、と言うと微妙だったが
嬉しいときにも涙は出るなんて
誤魔化しておこう
世界を救うのも、悪の組織と戦うのも、異世界転生も、ハーレムもお姫様と踊るのも
取り敢えず、他のかっこいい主人公に任せるとして
神の祝福も、勇者の血筋も、封印された右目も
持ち合わせてなくて
そんな皆さんより、ありとあらゆる物が欠落してて
嘘つきで格好良くなくて
それでも強い俺は
せめてユウキだけは幸せに出来るように
足掻いてやろう




