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答え合わせ

ユウキは驚いた顔をしたまま固まっていた。

「何、王子様でも迎えに来たと思った?」

俺は息を整え笑いながら、ユウキに言う

ユウキは唇を震わせ、顔を歪める

文句だろうか?ごめんあとで聞くわ

「残念ながら、俺でした」


ユウキは何かを言おうと、言葉を探すように――


「テメェ、何訳わかんねぇこと言ってんだオラァ!」

やたらトゲトゲした服を着た男が逆上した

…いや、聞けば分かると思うんですけど?


恋愛関係でもない俺が、まるで少女漫画のイケメン気取ったようなセリフ吐いてるっていう痛々しい状況くらい

お前が蚊帳の外って事くらい、瞬時に理解しろよ


つーか何でお前そんなトゲトゲしてんの?

何なの?ハリネズミ、マジリスペクトなの?

それともあべしの方だった?

そんな事を考えていると

俺の新しい人類としての素質のおかげなのか

ヘッジホッグ先輩は理解が及んだように

「あぁ、この女の元カレ」

全然分かってなかった

人類の革新はまだ先だった。


想像力豊か過ぎだろコイツ

俺と彼女を見てそう思うとか、そのサングラス黒い板なの?

どう見たって釣り合ってないだろ?

かたや、可憐で麗しい女の子、しかもエロい

かたや、汗だくで寝巻きのようなパーカーの俺

見て分かれよ

中二病感満載のトゲトゲレザーマンも付き合えないって事くらい


どいつもこいつもイライラする


頭悪そうなヒャッハー先輩も

さっきから置物みたいに黙ってるユウキも

カッコよく登場出来なかった俺も

わかったような顔してる、誰も彼も


ウザい、みんな死ねばいい

孫に囲まれ、安らかな最後を迎えればいい


…ヒャッハー先輩だけはゲジ眉に秘孔突かれて苦しんで?どうぞ

やっとユウキが言葉を発した。

あまりに沈黙してるからネオジオかと思ったわ

「何しに来たの?」


「いや、部屋の鍵無いと入れない」

ペアルックでプレゼントしたもの机の上に忘れるとか

誰だよ、そんな最低なやつ

ユウキはため息をつきながらトゲ男から離れ

俺に鍵を差し出す。

俺はそのキーケースごと

彼女の手を取り、思いっきり駆け出した

ユウキの足はもつれる

それでも彼女は足を止めず走っている

取り敢えず一安心と思った刹那

トゲ男は叫んだ

「ソイツを止めろ!」

瞬間、思わぬ方向からの強い衝撃に俺はバランスを崩し倒れる。

何?ファンネルそれともファングの方だろうか?

視線を上げると、そんな近未来的思考武装とはかけ離れた

ピアスまみれの男が立っていた。

「ずいぶんと舐めたマネしてくれたな?」

後ろからゆっくりとトゲ男が迫ってくる。

その手には鈍く光る刃物が握られていて

若くもないのにキレやすいとか、カルシウム足りてないんじゃね?とか

お前の腰のトゲトゲ財布の方が殺傷力高そうとか

そんなふうに頭の中で強がるのが精いっぱいの絶体絶命のピンチを迎えていた。

咄嗟にユウキを隠すように背中側に押しやる

辺りはあまり人影はなく、通報してくれるなんて思うのは楽観が過ぎていて、都合よく正義の味方が現れないのは知っている。

完全に詰んだ、せめてユウキに貰った竹刀でもあればいい勝負できたかも知れない

あれどっかのヒットマンの時雨金時でしょ?

たとえ、そうだったとしても勝てないだろうとは思うけど

何も無い今よりはよっぽどマシだろう

こんなことなら、剣道じゃなくて虚刀流やっとくべきだったわ

トゲ男は舌なめずりをしながら

「マジでこの世の地獄を見せてやるよ?」

「切り刻んで、嬲ってメチャメチャにしてやる」

「死にたいって泣き叫ぶまでいたぶって、殺してやる」

男の目は血走り、あらぬ方向を見ていて

それが嘘では無いと俺に告げている。

この先を想像して身体が震える


かっこ悪いな、俺

弱くて可憐な少女すら救えず、こんな所で無駄に死ぬのだ

だったらアヤメに未来を売ってしまって、彼女を買い戻せば良かった

みっともなく、あと三日でもいいから一緒にいたいなんて思わなければ良かったのだ。

俺は泣きそうになる、それでも彼女は強いというのだから

せめて笑おう、そう思って後ろを向いた。



――俺の目に映る彼女は知らない顔をしていて


彼女の目は、仄暗く何も見据えていないで

その顔はどんな表情も携えては居なくて

ただ薄く笑い、彼女は立った

ゆっくりと刃物を持つ男に近づいていく

「教えて?」

その声は、冷たく

()()()()()()()()()()()

怒りを孕みながら

「聞かせて?」

()()()()()()()()()()()()()()()()

彼女は刃物を通り過ぎて男に抱きつく

「ねぇ?」

()()()()()()()()()()()()()()()

凄惨な響きを持って囁きかける

「殺して?」

甘美なことのように、恋い焦がれていたかのように

「私を殺して?」


俺はそれに恐怖した

先程の想像なんかよりも

男の言葉なんかよりも

その華奢な少女に、彼女の言葉に


多分、それは男も同じだったようで

男は後ずさる

それと同じだけ少女は迫る

「ねぇ?」

「教えて」

「それが地獄ならここは何処なの?」

彼女のうわ言のような問いは続いて

「聞かせて?」

「ねぇ」




「答えて?」

満面の笑みで彼女は笑った



逃げ出したかった、みっともなく喚き散らしたかった

目を背けたかった、耳を塞ぎたかった

それでも俺は堪える

ちゃんと少女(ユウキ)を見続ける

ちゃんと彼女(ユウキ)の言葉を聞き続ける

逃げもした、喚きもした

目を背けた、耳を塞いだ


そして、そのどれもを俺は後悔した。


彼女を知らずにいた事を後悔した。


だから今度は、ちゃんと最後まで

俺の知るユウキの先にある、彼女まで知ろうと

そう思ってここに来たのだから。

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