少女の日常
ー あぁ神様どうか
少女は願う。
今日は早く終わってくれて良かった
乱れた着衣を直しながら少女は思う。
今日は良い日なのかもしれないと
二日ぶりに与えられた食事を前にして少女は考える。
今日は4回しか殴られなかったし、食事も貰えた
いい日といって差し支えないだろう。
皿や箸なんてものはなく、床の上の新聞紙に無造作にぶちまけられた食事…
もはや食事というにはあまりにも酷いソレを、躊躇なく手づかみで食べる。
殴れたせいなのか、調理されているかすら、何時の物なのかも怪しいものを身体が受け付けないのか、猛烈な吐き気を覚える。
少女は吐き気を堪えながら必死に口に運ぶ。
昔、嘔吐してしまい気を失うまで殴られ続けた事を思い出してしてしまった。
その後、まだ食事が残っているなんて言われ、ソレが無くなるまで口に運び続けた。
あの時は辛かった。
どうして、内容物は変わらないはずなのに、一度自分の口から出てしまったというだけで、あんなに嫌悪感を覚えてしまうんだろう。
そんな事を考えていると余計に吐き気を感じる。
それを堪え、食べ終えた少女は床に這いつくばり新聞紙を舐める。
少しでも残っていれば、また殴られてしまう
舐め取る少女の首輪からチリンと鈴が鳴った。
悪趣味な首輪に繋がる鎖を、その先に打ち付けられた楔を忌々しげに見つめる。
少女に与えられた部屋は広くないものの、少女はその部屋の中すらも自由に動けない。
ドアや窓には近づけないのだ、鎖がそこまで届かないように作られている。
まぁ近づいたところで、どちらも開きはしない
食べ終えてやることの無くなった少女は考える。
いつからこんな生活なのだろう。
いつまで、こんな生活なのだろうとは考えないようにした。
物心ついた時には、すでに首輪が付いていて。
母がいた頃は、読み書きや言葉を良く教えてくれていた。
だけど、いつからか母は居なくなってしまった
死んでしまったのか、逃げたのかは分からない。
それから父親がくれたのは部屋と、暴力だけで
それが私に与えられた全てだった。
鎖をめいいっぱい引っ張り、クローゼットに手を掛ける。
中には、沢山の本が入っていた。
漢字が読めないからあまり多くの本は、読めないけれど
それだけが唯一の私の楽しみだ。
中でもシンデレラは、昔からずっと気に入っていた。
虐げられていた少女が王子さまに見初められ、王子さまはシンデレラを探し、結ばれる。
でも考えてしまうのだ
物語は王子さまがシンデレラを見つけておしまいになる。
その後、シンデレラは、幸せに暮らしたのだろうか?と
ちゃんと幸せになれたのであれば、物語をそんなところで終わらせてしまう必要は無い。
だから、シンデレラにとって一番幸せだった所を終わりにしたんじゃ無いかって思ってしまうのだ。
永遠に続く幸せなんて無い。
言い換えれば終わってしまうからこそ幸せなのだ。
王子さまはシンデレラに愛想を尽かすかもしれないし、違う人を好きになって捨てられてしまうかもしれない。
それでも、一瞬でも幸せだと思えたのなら、羨ましいと思ってしまう。
私にはそんな一瞬すらも訪れてはくれないのだろう。
不意にドアが開く音がした。
少女は、本に夢中で足音に気が付かなかったのだ。
少女の鳩尾にの爪先がめり込む
吹き飛んだ少女の首に繋がれた鎖が音を立てた。
そのまま少女に近づいて
その手は、少女が整えたばかりの服を脱がし始めた。
…あぁ早く終わって欲しい。
永遠に続く幸せは無いのに、永遠に続く不幸は有るのだ。
それならこの世界は地獄と呼んで差し支えないだろう。
先程から続く、吐き気を堪える。
大丈夫、お腹に命を宿すことだけはもう、二度と無いのだ。
ただ気持ち悪いだけ
そして、こんな薄汚れてしまった私を王子さまは探しに来るばずがない
無意識のうちに言葉が漏れだしていた。
だから、神様どうか…
早く私を殺してください。
それが、私の幸せなのです。