ユウキ
いつの間にか泣き疲れて寝てしまったのか
気が付いたら夜が明けていた。
私の隣にチアキの姿は無く、また涙が溢れてしまいそうになる
昨日のことを思い出す。
多分彼は、ココには戻っては来ないだろう。
服を探し、外に出る準備をする
ふと鏡に映った自分を見て、嫌気が差した。
体中に付けられた傷跡
もう消えることのない、不幸の烙印
それは、あの家を出てから何個増えたのだろう
チアキは私に嘘つきと言った
そんな事言われなくても自分が一番知っている。
私は彼にたくさんの嘘をついた
私の全部をあげるなんて
何も知らないだなんて
……幸せな最後が欲しいだなんて
そんな嘘をついて彼を騙したのだ。
私にあげられるものなんて何も無くて
この世界は、残酷だって気が付いていて
ハッピーエンドなんて無くって
かぼちゃの馬車も、ドレスも、ガラスの靴も
その物語すら全部嘘だって知っていたのに
彼を騙し続けていたのだ
そして、そんな嘘すら付き続けられなかった私が
誰よりも嫌いだった。
私はクローゼットを開く
その中には私の服ばかりが沢山あって
どれもが、体を隠してくれる長いものばかりな事に
そんな彼の優しさに
いまさら気がついて
それを考えないように適当なワンピースに袖を通して
クローゼットを閉じた。
白のワンピースが、私に似合っているのかよく分からない
でもチアキはよく似合ってるなんて言っていた。
私は好みってものが無い
どんな服を着ても、どんな格好をしても
それを、可愛いだとか、キレイだとか
そんな事を思うことが無くて
ただ、相手の気に入る格好をして、少しでも媚を売って
愛されようとする
まるで着せ替え人形みたいだ。
リビングに出て
机の上に置いたままの2つのキーケース
深い赤のそれを手に取り外に出る。
私は初めて、自分の名前の入った、私だけの物を貰った。
数え切れないくらいの人と過ごして
初めて貰ったのだ。
それを貰ってしまった時に、私は後悔した
どうして、そんなもの無いなんて思っていた幸せが
そうやって、諦められる筈だった幻想が
ホントにあるなんて事に
生きることを諦められなくなりそうな
彼の言葉に、笑顔に、涙に
出会ってからの全てを私は呪ったのだ。
なんで今更そんな夢を見させるんだろう
私はそんな事望んでないのに
だから私は、私が普通に死ぬ為に必要な証明をしようとしたのだ。
彼も、今までの最低な人達となにも変わらない
自分の快楽だけを求めて、私を嬲って
名前を知らないまま、私を消費して
そして、要らなくなったら、当たり前のように捨てる
そんな最低で、私にとっての普通
そうだと思いたかったから、彼と交わろうとした。
結局、その目論見は失敗してしまった
私の嘘は露見して、彼を傷つけて
ただ一つ、本当にあった幸せすら私は無くなって
唯一の魔法は解けてしまった
だから私はシンデレラのように、幸せなお城から逃げるしかない
私が汚れていて
私が嘘つきで
何も無い灰被りだと彼は気が付いてしまったから
0時の鐘がなる前に逃げれば良かったのに
そこが暖かすぎて、忘れてしまった
靴を履いて外に出る。
これは物語じゃなくて
私がよく知る、残酷な現実だから
だから、彼は私を探すことは無いのだろう
だって私はガラスの靴すらない
不幸な少女なのだから
冷たい風が頬を撫でる
こんな寒空の下、誰を待つわけでもなく外に居続けるのは
暖かさを知ってしまった私には出来そうになかった。
…コートの中には、この前チアキにプレゼントを買った
そのお金の残りが入っていた。
取り敢えず何か食べよう
私はチアキと食べて一番美味しかったものを思い浮かべて
そこに向かった。
隣に誰もいないから話すこともできず、否応なく
私の最初を、自分を魔法使いだなんていう
神様に出会った時を思い出してしまう。
初めて外に出たときもこんな寒さで
行く宛もなくて、それでも
それでもこんな世界に少しだけ期待をしていたのが
懐かしく思える。




