Till death do us part
俺はデパートの中で、唯一といっていいクリスマスムードのない店に足を踏み入れる。
店主はちらりとこちらを見て
「修理ですか?」と声をかけた。
「いえ、これをお願いします」
お金と一緒にソレを差し出す。
「かしこまりました、5分程で終わりますのでお待ちください」
何それ、5分で作れるとか超怖い
もうこの人達GPSかなんかで監視したほうが良いんじゃない?
そんな事を考えながら
取り敢えずその場で待った。
言葉通り、5分で作り上げたソレを受け取り、急いで露店に戻る。
「出来てます?」
店主は俺に気づいて、笑いかけてくる。
「バッチリだよ」
「あと多く貰ったからオマケしといた」
出来上がったそれを見て、驚いた
こんな短時間だと言うのに綺麗に手打ちで入れられた俺とユウキの名前
それだけでなく、それぞれにお互いの色のスティッチが刺繍され
裏側にも、アルファベットが打たれてある。
ただ残念ながら、俺は英語読めないんだけどね
困ったように裏面を眺めている俺に
「Till death do us part」
流暢な発音で、彼は言った
…日本語でお願いできないですかね?
「死が二人を分かつまで、だよ」
「結婚式の誓い文句なんかでよく言うだろ?」
確かに、ありきたりな言葉だ。
それでも、俺は恐怖したのだ
ありきたりなその言葉に
そんな事実を忘れかけていた自分に
俺は店主たる、彼を見る
その彼は、悲しそうに微笑んでいる。
「彼女は勉強できないって言ってたね」
「だったら、気が付かれないだろ?」
「君だけが知ってる想いがあるのはいけない事かい?」
そう、俺に笑いかけた
まるで、すべてを見透かされているようで
その気まずさを誤魔化すように、不安を取り除くように
「そんなにバレバレですか?」
そんなふうに笑って言葉を返した。
そんな俺に彼はそれ以上問う事はせず
それを手渡してくる
「君の大切な人なんだろ?早く迎えに行ってあげな?」
スマホを見れば別れてから2時間以上経っている
慌てて受け取り、お礼を言う
「色々有難うございました」
彼は何でもないような事のように
「こちらこそ、プレゼントなのにラッピングとかなくてごめんね」
「どうせすぐ渡すし、別に要らないです。」
「世の中エコ、エコうるさいですからね?」
最後に彼に笑いかけ、店を後にする。
彼は手を振っていた。
腕に沢山巻かれた中で、一つだけある革製の古びたブレスレット
沢山の輝きの中で、光らないそれは
多分、彼の大事なものなのだろう。
俺は足を早めて、待ち合わせ場所に急いだ。




