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座談会にて

「私に幸せな最後(ハッピーエンド)を頂戴」

彼女にそう言われた後の事は正直あまり覚えていない。

記憶を辿れば、その後、自称神である

アヤメが、滞りなく葬儀を執り行ったはず。

葬儀が終わったあとのロビーで

東雲さんに声を掛けられた。

「どう?チアキ、私に幸せな最後をくれる?」

真っ直ぐ俺を見据える紅い瞳から、目をそらし、東雲さんに質問する。

「幸せな最後って何だろ?」

東雲さんは困ったような顔で

「それは私にもわからないわ、だって私は幸せがなにか良く分からないから」

彼女本人すら分からないことを、他人が

ましてやさっき知り合ったばかりの俺が、理解出来るはずがない。

出来るか分からないことを約束は出来ないと

断ろうとした刹那

アヤメが俺と東雲さんの間に割り込んでくる。

東雲さんの方に向き、アヤメは

「急にそんな事を言われても、チアキ様だってお困りになってしまいます。」

そう嗜め(たしなめ)る。

東雲さんは、ばつが悪そうに謝る。

それを確認したアヤメは俺の方に向き直り

「隣の部屋にお茶を用意させて頂きました、立ち話もなんですから、続きはそちらで」

確かにこのロビーは冷える

促されるまま隣の部屋へ向かった。

あまり大きくないその部屋は、すでに暖房で暖められており、中央の古いながらも良く手入れの行き届いた机には湯気をあげるティーポットが置かれていた。

俺と東雲さんが席につくと、アヤメはティーポットから紅茶を注ぐ。

「ダージリンです、ミルクや砂糖はお好みでどうぞ」

紅茶を注ぎ終えるとアヤメは

「スコーンをお持ちしますので少々お待ち下さい」

と部屋から出ていった。


東雲さんは机に用意されていた砂糖とミルクを全て紅茶に入れ、かき混ぜ続けている。

東雲さんが使ってしまったので、必然ストレートで飲むしかない

俺も、冷める前にとカップに口をつけた

紅茶の良し悪しなんて、普段は午後の紅茶位しか飲まないから分からないが、冷えた体を温めてくれる。

東雲さんも混ぜるのに飽きたのか口をつけた

「すごく甘いわ」

まぁそうだろう、あれだけ砂糖とミルクを入れたのだから

東雲さんはカップを差し出してくる。

何だろうと思っていると、机の上にある俺のカップを奪い取った

そのカップに口をつけ「おいしい」と顔を緩ませる。

間接キスという事実を考えないように、東雲さんに質問した。

「ストレートの紅茶がおいしいと思うなら、なんで砂糖とミルクをいれたの?」

東雲さんは当然の事のように言いはなった。


()()()()()()()()()()なんて当たり前でしょう?」


確かに出されたものを残さないというのはマナーとして間違ってはいないが、

用意された砂糖やミルクを残したところで、誰も文句を言わないだろう。

好みで使ってくれと、アヤメも言っていた。

それに、そこまでマナーを気にするのであれば、俺のカップを奪い取るのは変だ。

そんな事を考えているとドアが開いて、アヤメが部屋に入る。

手には焼きたてのよい香りするスコーンが乗ったティースタンドが握られていた。

手慣れたようすでスタンドを置いたアヤメに、耳打ちする

「スコーンは、ジャムとクロテッドクリームだけでいい、()()()()使()()()()()()()で、二つに分けて頼む」

このままでは、焼きたての美味しそうなスコーンがサワークリームとジャムにまみれ食べられなくなってしまう

机の上の、空の砂糖入れと俺のカップの中身を見て状況を察したアヤメは

「かしこまりました」と配膳を進める

お茶会の準備が整いアヤメが言った。

「ちょっとした余興をご用意させていただきました」

アヤメの手には、ビデオテープが握られていた。


久々に見たよ、ビデオテープ。

部屋のすみに置いてあるデッキつきのテレビにビデオを入れ、アヤメは再生ボタンを押す。

ノイズ混じりの井戸かなんかが写されるのでないかと身構えたが、写し出されたのは「少女の日常」と書かれた古めかしいタイトルだった。

「チアキさまに、彼女の事をもっと良く知っていただこうと思いまして」

照明が薄暗くなる。

「彼女への返答は、見終わってからで結構です」

「どうぞごゆっくり鑑賞下さい」

そう言われるということは、これは彼女についてのビデオなんだろう。

いつの間にか俺のカップには、新しい紅茶が注がれている。

俺は古めかしいテレビに目を向けた。







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