足りない物
デパートの中は、どこもかしこもクリスマス商戦真っ盛りだった
迂闊に店に近寄れば、ギラギラした目の店員に捕まり二言目には
「プレゼントお探しですか?」ときたもんだ。
まぁ、今日に限って言えば、その通りなので大変有り難いです。
結局セレクトショップやら雑貨屋やら洋服屋を見たがどれも今ひとつだった
服にしたって、ユウキが大概の物は似合ってしまう可愛さ故に、選びにくい。
俺は諦めてデパートを出て、細い路地に入る。
そこには明らかに許可を得てないであろう、露店がポツンとあった。
扱っているものを見ると、シルバーアクセサリーの他に革細工の小物が置いてある。
物珍しそうに俺が見ていると、二十代後半であろう店主が話しかけてきた。
沢山のアクセサリーを身に着け、マネキン代わりと言わんばかりのルックスに尻込みしそうになる。
「なんか気になるのあるかい?」
発された声は、優しくちょっと安心する
でも、こういうのって買うまで帰れなくなりそうで苦手なんだよな…
「あーちょっと女の子にプレゼント探してて」
「ふーん、どんな女の子なの?」
「あー、なんて言えば良いのかな」
ちょっと考えて、自分で戸惑ってしまった。
身長も、体重も、何ならカップ数だって分かるのに
ユウキがどんな子なのか聞かれると、答えられない。
俺とユウキの関係は明白なのに、ユウキの事をあまりにも知らない
言葉に詰まった俺を見て、店主は笑う
「何考えてるか分かんないけどさ、取り敢えず話し始めてみ?」
そう促され、言葉を探しながら
「その子は、世間知らずで、ちょっと勉強出来なくて、お金とかファッションとかブランド物とかに興味がなくて、よく泣いて、よく笑って、よく食べて」
俺はこの先を言い淀んでしまう。
店主はそれ以上聞かずに
「いい女の子じゃない」
そう言った。
「その子に、無い物とかは?」
「いっぱい有ります」
無い物を数えるより、ある物を数えたほうが早い
彼女に有るのは、少しの服と、使い切れないお金
あとは、体に刻まれた傷だけ
それ以外は何も無くて
それなのに何も望まない、
「何が欲しいんですかね」
本当は知ってる
彼女が望むものを知っている。
「何をあげたら良いんですかね?」
どうしたら彼女は笑ってくれるだろう
彼女を幸せに看取れるのだろう
考え続けてもわからなかった。
「てか、そんなの自分で考えろって話ですよね?」
俺は苦笑いをする。
そうして、立ち去ろうとした俺に店主は声を掛ける。
「君さ、考えすぎだよ?」
俺は足を止めた。
店主は言葉を続ける
「何も考えないのは、良いことではないけれど」
「考えすぎて動けないのは」
「それと同じくらい愚かだよ?」
俺は店主を見る
俺と歳だってそんなに変わらない筈の、そんな彼の言葉は
同じ感情を抱いたことのあるような
そんな重さを持っていて
「望んだものをあげるだけが、いい事なのかな?」
違うと思う。
「高い物だけがプレゼントかい?」
それも違う。
「その人のことを考えて選んだものは、くだらないかい?」
そんな訳はない
たとえどんなに下らないものでもユウキが俺の為に選んでくれたのなら、嬉しいと思う。
店主はネックレスを取り出した
「君にはこれが何に見える?」
繊細な彫刻の施された銀細工のネックレス
それ以上でも、それ以下でもない
「ネックレス、ですかね?」
それでも何か間違いがあるのでは無いかと疑問系になってしまう
もしかしたら、凄く由来がある物かも知れない
もしくは呪われていて一生外せないとか?
素早さとかのステータスが上がるかもしれない。
「そう、ネックレスだ」
店主は、並んだ商品からもう一つ取り出す。
「じゃあ、こうして見ると?」
同じような彫刻は、並べてみると一つの模様を描いていて
それら2つが、対になっている事に気が付く。
「ペアルック、なんですね」
店主は俺に笑いかける
「そうだね、ペアルックだ」
「一つだけで見ても正解は分からない」
「多分君とその彼女も一緒だと思うけどね」
俺も店主に、笑いかけた
「そうかも知れないですけど、付き合ってもない女の子にペアルックを渡すのは、流石に気が引けます」
「別にペアルックの物を渡せなんて言わないさ」
「ただの比喩だよ、時間も、場所も、一緒にいる事で違う風に見える事もあるってだけだよ」
その言葉に、俺は並ぶ商品の中を探す
あったのだ、彼女に必要な物
俺はそれを探す
多分有るはず
沢山の銀細工のアクセサリー、その脇に置いてある革製品の中に見つけた。
それはなんの変哲もない様な物で
決して高価では無いけど
色違いのそれを2つ手に取る
彼女には深い赤色を、俺は茶色を選んだ
彼女には多分、それが一番ふさわしいと思った。
俺は財布からお金を抜き取り店主に押し付ける。
「コレって名前入れられます?」
店主は驚いたような顔をしたがすぐに
「お安い御用だ、20分位くれるかな?」
丁度いい、俺は先程のデパートへ引返す
走り去る俺に店主は問う
「入れる名前はどうするんだい?」
そういえば言ってなかった
俺は振り返り、大声で
「チアキとユウキをカタカナでお願いします」
そう叫んで走り出した。




