その箱の中身は
家に帰ってからもユウキはクリスマスについて俺に聞き続けた。
プレゼントを貰えること
サンタさんの存在
そのどれもに目を輝かせ、はしゃぎ疲れて眠ってしまった。
時間を見ようと、スマホに目をやる
新着メール1件と表示が出ていた。
このLINE全盛期においてメールで連絡取ってくるやつは一人しか心当たりがない、姉貴だ。
メールを開いてみると
「エボラ出血熱って、病院から連絡あったけど意識戻った〜?」
なんてメールだった。
エボラ出血熱なんて言い訳するなんて馬鹿じゃねぇの
あの神様
何が、上手い事やっときますだよ
そもそも、どんな病気かすらよく知らないわ
それに姉貴も姉貴で、元気〜?みたいな感じで意識戻ったか聞いてんじゃねぇよ…死にかけって事だかんねソレ?
取り敢えずポチポチと
「まだエボラが収まらないけど峠は超えたよ」
なんて返しておいた。
姉貴、ちょっと抜けてるから問題ないはず
俺はリビングに向かう、まだ23時だから起きてんだろ。
スマホのアドレス帳からアヤメを探し…いやアヤメしか登録されて無いんだけどね?
こう言っといたらアドレス帳に一杯登録されてるみたく聞こえるという高等テクだ。
自分のスマホですら、昔のらくらくフォンで足りる件数しか登録がない。
つーかなんだったら一個ボタン余るね。
ガラケーの時、アドレス帳一杯だから誰か消すわとか言ってたやついたけど、フリーダイアルかなんか登録してるの?
それに機種変更行くたびに「データ消えちゃったんですね?」なんて聞くのはやめてほしい、察せよ。
…まぁいい
これ以上は悲しくなるだけだし
アヤメに電話を掛ける
「あー…おはようございます」
明らかに寝起きであろうアヤメが電話に出た
「悪い、寝てたのか」
「ホントですよ、モーニングコールが貴方なんて最悪の気分です」
起きてすらいなかった。
「前言撤回だ、働けよクソニート」
「はいはい、でなんの用事ですか?」
面倒くさそうにアヤメは聞く
「いくつか聞きたいことがある」
「どうぞ」
「まず、エボラ熱ってなんだよ?もっとマシな言い訳あっただろ」
wiki先生に聞いたら、感染者の半分以上死んでるわ感染症リスクレベル4だとか、バイトハザードとか物騒な単語が並んでたんですけど?
もう、学校で病原菌扱い確定じゃん、元々似たようなもんなのは気にしない事にした
「いや、別に何でも良かったんですけどねー」
「まぁ面会謝絶で入院で、出停となると、それくらいしか無かったんで」
「それに入れ込みすぎて心中とかされた時の言い訳としてもバッチリです」
心中ね、穏やかじゃない。
「…俺がユウキを殺すと?」
「可能性の話ですよ、惚れちゃって、私に殺されるくらいなら自分が…なんて思わないとも限らないじゃないですか?」
「それは貴方に限らず、彼女もですけど」
確かにもう死んでしまうとなれば無いとは言い切れない。
「いや、買い被りすぎだろ」
そんなふうに鼻で笑った
俺はそんな事をする度胸も覚悟も有りはしない
それに彼女にそんなふうに思われる訳がない
「精々、お前から逃げようとするくらいが精一杯だよ」
アヤメは呆れたように
「ずいぶんと情けない王子様ですね?」
そんな皮肉を言う
「というか、お前はユウキが一週間後に死ぬって言ってたよな?」
「ええ、そう言いましたけど」
「それならユウキは、例えば俺が殺そうとしても死なないんじゃないのか?」
コイツが神様というのを今更疑いはしない
それが神の裁定だというのなら、覆らないのではないか?
たとえ俺がどんなに足掻こうとも
「定められた運命が有るなんてそんなロマンティックな事思ってるんですか?」
面白そうにアヤメは聞き返す。
「残念ながら、決まった運命なんて無いですよ」
「もし、そんな物があったら私の行いはそれに背くことになってしまいます」
確かに運命があるとするのなら、アヤメはそれを捻じ曲げまくっている
神の特権と言われてしまえばそれまでだったが、そうではないらしい
ちぃ分かった。
案外、神様って万能じゃないって事ね
「最後の質問だ、俺がユウキを幸せにできるとお前は思ってるのか?」
幸せになんてなれないとアヤメは言った
ならば俺が頑張って幸せにするしか無いと
アヤメは少し考え
「シュレディンガーの猫ってご存知ですか?」
…まぁ知ってる、放射能の満たされた箱に入った猫が生きてるか、死んでるかは見てみるまで分からないってヤツだろ
「知ってるよ、それがどうした?」
「貴方は、箱の中の猫は生きてると思われます?」
「多分、死んでるだろ」
普通に考えれば死んでる、その死体を見てないから生きてるなんて、詭弁に他ならない。
「それと同じですよ、どう見たって不幸にしか見えなくても」
「見る人次第ではもしかしたら幸福だなんて思うかもしれないじゃないですか?」
「だからこの質問に答えは出ないと?」
シュレディンガーの猫の答えが出ないように
「そうですね、だって貴方達は私から見たらどう見ても不幸にしか見えないですけど」
「貴方は彼女の安っぽい言葉に救われたんでしょう?」
「何も変わらないのに、幸せなんて勘違いしたんでしょう?」
彼女の煽るような言葉に俺はもう言い返そうとは思わない。
そんなことを言うアヤメは万能でもなければ絶対でもないのだから。
「そうかもね」
勘違いだと言われても構わない、結局のところ出来ることをやるしかないだけだと言うのは変わらなかった
彼女が俺に幻想を抱いているというのなら、それを本当にする努力だけはしよう
彼女を裏切らないよう、最善を尽くそう。
それは三億円の為なんかじゃなくて
彼女のお願いだからでもなくて
もう一度、自分を信じていいと思える為に
自分で頑張ったなんて自己満足の為に
「ちなみに俺がユウキのお願い叶えられなかったらなんかペナルティーあるの?」
「最後の質問じゃ無かったんですか?」
「いや、契約の書類も無いのに、聞いてないのは不味いだろ?」
「無いですよ、三億円払い損ってだけです」
それだけ聞ければ十分だ
「まぁせいぜい頑張るわ」
聞きたいことだけ聞いて俺は電話を切った。
神様に願いを叶える力が無いのならこれ以上話す理由なんて無い
あらすじを変更しました
もしよろしければ目を通してやってください。
残すところあと一日の今年ではありますが
皆さん、良いお年をお過ごしください。




