帰り道
結局、喫茶店を出る頃には夜の九時を回っていた
ユウキの手にはお土産用の紙箱が握られている。
「食べきれなかったねー」
ユウキは俺に笑いかけた
食べ切れる筈無いよね
だって2ホール分だよ?
明らかに一日の摂取カロリーを振り切っているどころか
一年間で食べるケーキの総量すらオーバーしてるから
しかもユウキ、最後の方切り分け9:1位だったからね?
「一口食べて残り全部俺に寄こしたヤツに言われたくないね」
ユウキは頬を膨らませ
「そもそも、チアキが適当になんて言ったのが悪い」
否定できない
でも、一番悪いのマスターじゃね?
だって会計一万円超えてたぜ?
「でも、明日もチアキとはんぶんこ出来るね?」
ユウキは嬉しそうに笑う
目まぐるしく変わる表情に、俺は目を奪われる。
バス停から歩く街は、とっくにクリスマスの装いで
至るところに電飾や、ツリーが飾られている。
「みんな、ピカピカ光る木置いてるね?」
「もうすぐ、クリスマスだからな?」
ユウキは不思議そうな顔をして聞き返す。
「くりすます?」
「そう、クリスマス」
「なんの日なの?」
「なんの日なんだろうね?」
正直、よく知らない
子供の頃は、サンタが来る日だった。
毎年靴下を用意して、プレゼントを待っていた
いつからか、サンタは来なくなって
その日からクリスマスは、ただの平日だ。
何なら建国記念日とかの方がありがたいまである
休みになるし
「なんの日か分からないけど、みんな楽しく祝ってるよ」
そのみんなに俺は入ってないけどな
「恋人と、友達と、家族と大切な誰かと過ごして」
「みんなでケーキ食べたり、チキン食べたりする」
「そっか、じゃあ私には関係ない日だね」
哀しそうにユウキは笑う。
……言葉に詰まる、息苦しくなる
もう少し、言い方を考えれば良かった
たしかに俺とユウキの関係はそのどれでも無くて
ユウキにはそのどれもが無いのだ。
「ごめん謝る」
「俺はユウキの恋人じゃなくて、友達じゃなくて、家族じゃない」
分かりきった当たり前の事を言う。
「うん、分かってる」
まるで怒られた犬のように、しょげているユウキ
あー可愛い、ほんとにイジメたくなる。
だけど、これ以上は可哀想だ
「でも、そのどれでも無くても、俺の大切な人だから」
「一緒に祝おうよ、クリスマス」
妥当な結論だ、別にそのどれに当てはまらなくても
多分、今の俺は他の誰よりもユウキと過ごしたいと
そう思っている。
ユウキは顔をほころばせ、俺に抱きついてきた。
「いいの?」
「他に過ごしたいひといない?」
残念な事に、過ごしたくない奴ならいっぱい居るんだけどな
アヤメとかね
「うん、居ない」
「じゃあ、チアキのクリスマス、私が予約ね?」
「かしこまりました」
俺はユウキに笑いかけた。
今までの俺だったら言えただろうか?
傷つけないように、壊れ物を扱うように
一生懸命、ありとあらゆる梱包で包んで
ユウキが傷付かないように
俺が壊れないように
当たり障りのない言葉で、他人の様な言葉で彼女をなだめていたと思う
もう、アパートは目の前で
そこに帰ることを当たり前のように
俺はドアを開けた。




