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審判の時

会場に入る。

相手が姿を見せれば、割れんばかりの歓声

何なの?勇者なの?

先程までのすべての雑念を捨て、スイッチを入れるように呟く

「イケメンには負けない」

…雑念しかなかった。


だがしかし、試合のコートの前に立てば、そんな全てすらも消え去る。

互いに礼を交わし、開始位置に立った

結局、試合前考えた結果

やる事は一つしかない


相手は中段の構えと呼ぶには、やや高めの構え

身長差だろうか?

試合開始の合図

フライングギリギリの速さで飛び出し、間合いを詰める。

長期戦は無理だと、そう判断した

判定勝ちは手段であって目的では無い

ギャンブルだろうが、それしか勝ちの目が無いなら

切り札を初手に切る。

地力が違いすぎるのだ

鋭い発声と共に、広く空いている胴ではなく、小手を狙う。

俺では、胴には届かない

踏み込みがあと一歩足らない

僅かでも、胴より手前にある小手を撃ち抜こうとした。

小さな的に当てる練習は、今年ずっとしてきたのだ。

そんな俺をあざ笑うかの如く、相手は前に踏み出そうとしていたはずの体を翻し

ー  不意に相手の竹刀が消える


面を付けて狭くなった視界

俺の視界の外から放たれた鮮やかな引き面

ソレを最小限の動きで避ける


知ってるよ、何度も見たからな?

去年からずっと見ていた。


面以外(他の所に)でも喰らうわけにはいかない。

コイツの剣は、一撃必殺と言える

たとえ、有効箇所を捉えなくても、一本を取られる可能性があるのだ

人の目では、しっかりと当たったのかどうか捉えきれない

それを間違えない為に三人の審判がいるが、

自信に満ち溢れたその一撃が

捉えきれない閃光のような斬撃が

人の判断を惑わせる。

そういうものだとよく知っている。

決勝の審判は、今までの試合を見てるとかなり正確なジャッジを下している。


その点だけは、救いだ。


当たらないことは、想定して居なかった筈なのに

彼の竹刀は面を打ち込んだかのような位置で止まり

すぐに構えに戻る。

空振りしてなお、隙が見えない


…よく練習してらっしゃる事で

素振りの意味をキチンと理解して行っているのだろう。

まぁ、ここに立っている以上練習していない訳が無いのは知っている。

ただ、基礎練習を

毎日の繰り返しの意味を考え、理解して

自分の為に行える奴はあんまり居ないだろう。


相手が間合いを詰めてくる。

その踏み込みは、イメージしていたより、…速い

どこに打ち込まれるのか見切れない俺は

すべての部位をガードする、三点防御の構えを取る


瞬間、逆胴を薙ごうとする竹刀

ソレをギリギリのところで躱す。


これも、予想通り


ただこんなにも早く使わされたこと


何よりも、予想してなお、ギリギリでしか躱せない力量差

普段絶対に使わない逆胴なんて技まで、高過ぎる精度に

もはや舌を巻くしかない。



三点防御は諸刃の剣なのだ


ルールの上で、この構えは「いたずらな時間の浪費」なんて理由で、反則を貰いかねない。

そんな危うい防御


ただ防御法として間違ってないから、そのまま構えを続けなければ、反則とはならない


とはいえ、それに頼れば判定勝ちが難しくなる

消極的に見える、その姿勢は好まれないのだ。

解ってはいるが、今の一撃は見切れなかった

三点防御で唯一空いている

逆胴一本に絞らなければ間違えなく取られていた。


紙一重の打ち合いが続く

何度も肝を冷やしながら、攻防を繰り返す。


試合時間、その残りは一分を切る。


今までの打ち合いで、お互いに有効打は無い。


そろそろ、焦る時間だろ?


来い、動いてこい


焦りは、剣を鈍らせる

当たり前に出来ていたことすら出来なくなる。


そうで無ければ、勝ち目はないのだ



打ち込まれた竹刀それを自分の竹刀で受け

つばぜり合いになる。

当たりの強さに、距離を取りたくなるが

自分から外すことは、出来ない。


これ以上消極的だと思われては反則を取られる


体重移動で、力点をずらす。


流石にバランス崩さないよね?

ふっと競り合いの圧が消えて、瞬間、引き胴が飛んでくる。

うん、知ってた。


それを見る前に、もう相手の間合いより近く飛び込む。


こちらも引いていては、勝負を捨てたような物だ

勝負をかけるならここしかない


ギリギリまで近づき、面を狙う

相手の面に触れる寸前

相手の足先は、円を描き

ギリギリの所で避けられる。


相手はお返しとばかりに小手を狙った一撃を放つ

それを受け止めたが

相手に押し戻されて距離を取られる。

もう時間がない。

バランスを崩したように、俺の構えが下がる

一気に間合いを詰めた相手の竹刀が俺の頭上へ掲げられ振り下ろされようと…

誰もが勝利を確信したであろう、その刹那

俺の竹刀は、

()()()()()()()()()()()()()()


審判の旗は上がらない。


試合の終わりを告げるブザーが鳴り、お互いもとの位置へ戻る。


手応えはあった


しかし、逆小手は通常、中段の構えでは決まることが無い。


上段構えの時でしか、この技は有効とは認められないのだ。

ただ、俺はこの技だけを今年ずっと練習し続けた。


正直、審判次第とも言える曖昧な切り札。

それだけが唯一の勝機だった。


ギャンブルにしても分が悪いのは知っている。

それでも、こいつになら負けて良いなんて思わないから、必死に足掻いた


結局、勝利の女神も幸運の女神も俺に微笑まなかったのだ。


まぁ、女神様もどうせならイケメンが良いだろう


判定になってしまえば、俺の負けだ。

荒くなった息を整える


さぁ分かりきった判定を、残酷な宣告を待つとしよう。


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