緊張すると、くだらない事を考えてしまう
俺は控室で、隣の会場から上がる歓声を聞いていた。
どちらが勝ったのか、見るまでもない結果に静かに目を閉じる
何とか決勝まで辿り着いた。
昨年、俺の敗因だった純粋な技量のなさ。
それを補うために、今年はただ一つだけの技を練習し続けた。
小手である。
付け焼き刃としか言えないし
普通、それ一本で勝ち進むのは不可能に近いが
生憎、普通の剣道じゃない。
それに、俺があまりマークされていない事も幸いした。
決定力不足は相変わらずだが
相手にポイントを取られたときのリカバリ手段として
試合内容で、判定勝ちを望めない時の切り返しとして
切れるカードが増えたこと、それに助けられた場面も多い。
このあと戦う
高坂直人という選手
俺と真反対と言える相手について考える。
恵まれた身長、そこから生み出される圧倒的リーチ
数多くの技を操り、華麗に一本を決めるその姿は
観客を含め、多くの人間を魅了していた。
こんなにも、捻くれた俺ですら
負けたときの言い訳に、正々堂々戦おうかな？
なんてことを思うくらいには圧倒的な強さ。
そんな相手に負けたのなら、なんて思えるくらい清々しい戦い方
剣道が、武道である事を体現した存在。
…別に、俺だって負ける為に戦うわけじゃない
たとえ、主人公にはなれなくとも
誰かの引き立て役を買って出るほど
お人好しでも無ければ
負けて良かったなんて言えるほど
腑抜けた人間でもない。
何時だって、相手が自分より強いと知りながら
みっともなく足掻いている、その事になんの変わりもないのだ。
……そんな、格好良さげなモノローグ入れてみたけど
正直、高身長イケメンに一個くらい勝てるとこあっても良くない？
そのスペックでイケメンとか何なの？
そんだけ強いなら、残りは顔面でバランス取ってくんないと不公平だろ？
そもそも、高身長イケメンが剣道なんて地味スポーツやるなよ？
いい顔でも、面被っちゃえば俺と変わらないからね？
個性失っちゃうからね?
坊主頭、没個性軍団の野球部すら
帽子のツバ一生懸命曲げて個性を主張するのに
剣道で出来るのと言ったら、裾の長さ位？
地味だよ！昭和のツッパリかよ？
あと、柔道？お前は裏切ってんじゃねぇよ？
純白の道着こそがどうたらみたいなかっこいいこと言っといて、国際的に認められ始めたらジャパンブルーなんて訳わからん色の道着作りやがって？
中二病かよ？モテると気づいたら媚び売るスタイルとか恥ずかしくないのかよ
名前も、ＪＵＤＯとか何なの？
ＪＯＪＯ意識してんの？
スタープラチナなの？
無駄、無駄、無駄、無駄!
顔わかんねぇし、キャラの個性出せないし
アニメにしたら2話に一回位、二刀流のキャラ出さないと無理だろ？
それに絶対、すげー長い竹刀持ったやつ出てくるはず
それ、反則だかんね？
マジ審判仕事しろ。
あと六三四、お前らは取り敢えず面かぶれよ？
……取り敢えず言いたい事言って落ち着いた。
散々くだらない事を言ったけど
要約すれば、相手にとって不足なしって事で
どうでしょうか？
俺は、ゆっくりと会場へ向かう
辿り着くまでに、彼女の姿は無い
まだ勝ってないからね？
それは気が早いねなんて
ちょっとした不安をそんな風に誤魔化した。
昔、隣の板張りの上で剣道部が練習していたのをよく見ていました。
その筈なのに、この小説を書くまで、一本を三本先取というルールを知りませんでした。
何が言いたいかと言うと
そんな程度の人間が書いた冗談なので、笑って許してやってほしいということです。
