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小暮千秋1

端的に言えば

木暮千秋という人間には才能が無かった


自分の代わりの人間なんて履いて捨てるほど居ると思って

生きているのは何時からだろうか?


お金も

容姿も

強さも

優しさでさえも

人生における全てに、自分より優れた人間がごまんといる。


だとすれば、ゲームのように


突然世界を救う事になったとしても


異能力に目覚めて戦いに巻き込まれるとしても


その主人公は自分では無いと理解するのに

あまり時間は必要としなかった。


それなのに

誰もがみんな人生の主人公、なんて言葉が慰めにすらならない嘘だと知っているのに

それでも諦めきれなかった俺は

筆舌に尽くし難く、愚かだったと言える。


きっかけは何だったのだろうか?

思い出しても分からない


決して、空から少女が落ちてきただとか


急に居候として飛び込んできたとか


悪人に追われ傷付いていたとか


そんな鮮烈で、物語のようなきっかけでは無かったことだけは言える。


それでも俺は、少女に恋をした。


少女は誰もが羨む美貌ではなかったし

遊んで暮らせるほど裕福だとか

俺に理由すらわからない恋心を抱いてただとか

前世からの運命だとか

そんな劇的な理由すらなく

恋をしてしまった。


ただ彼女は、人並みに優しくて

人以上に嘘を付くのが上手だったのだと思う。


ある時、剣道の試合を見に来ていた彼女は

なんの才能も無い俺に言ったのだ

「小暮くんって強いんだね?」

と屈託なく笑い

「私、強い男の子が好き」と


練習が辛くなると、いつも思い出す。

そうすると

どうして、俺はこんな所にいるのだろうと思う気持ちはいつの間にか消え去っていた。



ブザーがなり、俺は面を外す。

「10分休憩したら、次は乱取りだからな!」


「はい!!」

皆が一斉に道場の隅へ散る。


毎日繰り返される光景だが、最後の大会前の追い込みで、帯びる熱量は桁違いだった。

「小暮?調子はどうだ?」

顧問が俺に声をかける。

「悪くはないです、今年こそは全国優勝してみせますよ?」

去年の俺の成績はベスト16止まり

大口を叩いていると言われてしまえばそれまでだが

顧問に言われるまでもなく、勝たねばならないと思っている。


俺は彼女とは違う高校に進む事が決まっていた。

彼女が、進学を希望するのは県内で有数の進学校で

この先もずっと剣道の試合なんて、見るかわからない

それならば、今年勝たなければなんの意味も無いのだ


休憩が終わり、乱取りが始まる。


剣道という物は、スポーツとして見れば曖昧なものだと思う。

ゴールネットを揺らせば点が入るわけでもなく。

タイムや記録を競うわけでもない。


一本という言葉がある

それが、剣道における得点と言える


だが、その一本を勝ち取るのに必要と言われるのが

技の他に気迫や発声だというのが、曖昧たる証明だろう。

そもそも、武道が殺し合いを前提とした技術だとするならば

決まった場所以外有効打として認められないというルールすら

よく分からない。


俺は相対している後輩の放つ、面を狙った斬撃を見切り

()()()()()

鈍い痛みに呻きそうになる

有効打でない箇所を打ってしまったからだろう

距離を詰めると、後輩は一度距離を取ろうと下がる。

その一瞬の意識の途切れを見逃さず、気迫のこもった発声と共に小手を打ち抜いた。


乱取りが終わり、整理運動をしながら後輩が俺に声をかけてきた

「小暮センパイ肩大丈夫ですか?」

道着の下を見れば紫色のアザになっていた。

「へーきへーきこんなん、なんでもねぇよ」

剣道をやっていればよくある事だ。

狙った箇所に当てることが出来ず、防具以外の所を叩いてしまう


試合では決して有効と認められないその一撃

だが、実際の殺し合いだったらどうなのだろうか?

いつも思ってしまう


斬撃を受け肩を腫らした俺と

一本を取られながらも、無傷の後輩

どちらが勝者なのかは明白


だからこそ、俺はこの剣道という明確でない()()()()でなら、最強を目指せるのだ。


切られても死なず

発声、姿勢、刃筋どれが欠けても一本を取れず

防具以外を打ってしまえば得点にならない


裏を返せば


痛みに耐える覚悟があり

そのどれか一つでも欠かし

防具を打たせない技術があれば


この、剣道というスポーツは勝てるとも言える。


その当たり前を理解するのに時間を必要とはしなかった。


何故なら


多彩な技も、技術も、気迫すら持ち合わせ無かったからだ。


だから、全国大会に出ていようと


小暮千秋という人間には、才能が無いのだ。


明日、やっとお休みです。

不定休いくない!

皆さん体調に気をつけてくださいまし

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