喫茶店
出来るだけゆっくりと歩いた。
それでも、10分も掛からなかった
なんの変哲もない喫茶店、目的地に辿り着く。
俺は、握っていた手を解く。
ドアを開け、店内を覗くとマスターが暇そうに新聞を眺めていた。
ドアに付けられたベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
夕方を過ぎた店内は、誰一人として客はいなかった。
喫茶店という店はいつが繁忙期なんだろう?
そんな所に出入りすることが無いからよく分からない。
マスターは何も言わず、奥のテーブル席を指さす。
俺達は羽織っていたコートを脱いで席に座った。
古びたメニューを手に取り、目を通す
意外とご飯物のメニューも充実している
さっき食べたから要らないけど、どれも美味しそうだった。
「すいません、暖かい紅茶2つと、ケーキを」
カウンターから出てくることなくマスターは聞く
「ケーキは何にします?」
「オススメをいくつか下さい」
長い話になるのだから、多くても構わないだろう。
注文を終えた俺はユウキに向き直る。
「改めて、話そうとするとどっから話せばいいか分からないな」
「じゃあ最初から聞かせて」
「生まれてからってこと?」
「そう」
ハリーポッターばりの超大作になりかねない。
それなのに中身はスカスカでつまらないとか拷問だろソレ
紅茶が運ばれてきた
ユウキは口をつけ、顔を緩める
彼女は、もう砂糖とミルクをありったけ入れるようなことはしない
そのほうが美味しいと
そして、それが許されるのだと知ったから
そんな些細な事だけど、
知ることで人は少しづつ変わるのかもしれない。
だからこそ、ちゃんと話そう。
「そうだな、昔の俺は剣道だったら…」
苦笑いしてしまう
「剣道だったら、誰にも負けない、そんな風に思っていた」
ユウキは、笑いもせず真剣な眼差しで話を聞いている。
そう、確かにそんな風に思っていたのだ。




