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最低の契約

「チアキ?大丈夫?」

店から出てしばらく歩いていたのだろう。

見覚えのない景色が広がっていた


到底歩いて帰れる距離では無いのに、何故歩いていたのかそれすらも分からなかった。

「えっと、今日はごめんね?」

とりあえずユウキに頭を下げる。

「恥ずかしい思いさせちゃったね」


良かれと思ってやった事とはいえ

勝手な思い込みでユウキに恥をかかせてしまった。

それに、自分の事に手一杯で

フォローも、謝ることも忘れていた。

そんな自分の情けなさに涙が出そうになる。


多分、浮かれていたのだと思う。

女の子と仲良く、オシャレなレストランでご飯を食べる

そんな事、今まで無かったから、勘違いしてしまったのだ。

椎名の言葉を思い出す。

「それ、彼女?」

その問いに、今ならしっかりと答えられただろう。

友達でもなく、ましてや恋人でもない


  ー ただの被害者と加害者だと

そう、答えられた筈だ。

俺とアヤメが共犯者なら、俺とユウキの関係は

それが、正しいはずなのに

ユウキの言葉に、日常に見えるこの生活に

勘違いしていたのだ


愚かと言う他ない

身勝手に彼女を振り回し、傷つけるなら

それは、彼女が捨てたかった不幸(父親)と何が違うのだろう。


頭を下げ続ける俺を、ユウキは優しく抱きしめる。

「チアキ、私はそんな事聞いてないよ?」

「私が聞ききたいのは、チアキが大丈夫かどうかだよ?」


その言葉に俺は

大丈夫って口を動かそうとする、俺は平気って笑おうとする。

そんな、意地さえ


「チアキ、いま嘘つきの顔してる」


それすら、彼女は許さない


大丈夫じゃない、泣き出しそうだ、そんな事は俺が一番よく知っている。

それでも、泣くわけにはいかないのだ。

だって、俺は加害者で

だって、彼女は被害者なのだから。


彼女は優しく問う

「チアキは椎名さんが好きだったの?」


もう、俺は抗えなかった。


「……そうだね」


「そのために、一生懸命強くなったの?」


「うん、そうだよ」


「いっぱい傷ついた、それでも良かった」


「それでも、彼女がそんな俺を」


「そんな俺でも、好きって言ってくれれば、それで良かった」


「そっか」


「チアキは、優しくて、強いんだね?」


前にも、こんな会話をした気がする


彼女は俺をいい人だと言った。


まだ、そんな時間は経ってないはずなのに、もう大分昔のことのように思い出せない。

あのとき俺は、なんと答えたのだろう


「優しくはないさ、臆病なだけだ」


「強くもない」


だってそうだ

こんなにも簡単に涙が溢れてしまうのだ。


一度泣いてしまえば、もう止めることは出来なかった。


嗚咽を上げ、泣きじゃくる俺を

こんな、他愛もない不幸を受け止めきれない俺を

ユウキはただ、あやすように抱きしめ続け、言葉を紡ぐ。

「ううん、チアキは優しいよ?」

「だって、私と一緒に居てくれる」


「私が何もわからなくて、馬鹿で」

「一緒にいるだけで人に笑われてしまうのに」

「私のせいで、恥ずかしい思いをいっぱいするのに」

「それでも、嫌な顔せずに一緒に居て」

「私の事、考えてくれる」


「それはきっと、優しいんだよ?」


彼女の言葉は、優しい嘘で


その言葉は、大切な何かを間違えていると知っている。


…だってこれは契約なのだ。


身の毛もよだつ様な、最低の契約


それでも、そうと知っていても


彼女も

俺も

(すが)るしか無いのだ


この寒空の下震えながら

凍えないために 


その、全てを嘘で塗り固めた関係に。



クリスマス?

ただの平日ですよね?

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