表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/78

空気すら有料

次々と運ばれてくる料理の数々

そのどれもが、名前すらよく分からない。

ユウキは、配膳のたびに店員さんに

「これはなに?」と聞いている。


まぁ俺に聞かれても、分からないし、店員さんも快く解説してくれてるから、特に不便は無いんだけれども

その度に、後ろの二人がクスクス笑ってるのが、気に食わない。


分からないものを分からないまま、食べるよりよっぽどマシだと思うんですけどね?


目の前に運ばれてきた料理に目を向ける。

オマール海老の何とか風、何とかを添えて的な名前だった。

見た目的な事を言わせてもらえば、高そうだなぁと思うくらいで、どこら辺が海老なのか問いたいルックスをしてる。

ナイフとフォークでぎこちなく切り分け、口に運ぶ。

海老って聞いてたから、何となくエビっぽい味がする気がする。

美味しいかと聞かれると、まあ美味しい

ただ金額を考えると、どうなんだろうね?


ユウキを見てみれば、慣れないフォークとナイフに悪戦苦闘している。

皿の周りはソースなんかが飛び散って悲惨と言う他ない。


店選びを間違えてしまったのだと、正直思う。

俺だって自分の料理をお行儀よく食べるのに必死で、味なんてよく分かってないのが、本当のところだ。


それ以上に、ユウキに恥をかかせてしまっているという事が何よりも心苦しい。


後ろのカップルはもちろん、配膳に来るウエイターさんですら苦笑いしてしまっている。

まるで、

「お前達みたいなのが、来る店ではない」

そう言われているような、アウェイな空気

まぁホームな空気なんて、遭遇したことないけどな。


そんな所に、自分勝手な自己満足でこの少女を誘ってしまった事に、その愚かさに無性に腹がたった。


ユウキはナイフとフォークで食べるのを諦めたのか、手づかみで料理を食べ始めた。

「ヤバくね、ついに手で食べ始めたわ」

「マジ?、それはやばいねー」


…さっきから何分も、写真を撮ってsnsの更新に励んで、一向に料理に手を付けない奴もマナー的には大差ないと思うんですけどね?

それでいて、なんか冷めてね?だの

評判の割に大したこと無いだの

笑い話にもならない。


まぁ、世の中声のデカい奴と、大多数とか呼ばれてる謎の組織に属してる組員たちが権力握ってるからね、しょうがない


「私、トイレ行ってくるー」

後ろの馬鹿Àが俺達のテーブルの前を通り過ぎた。

目を合わせないように、下を向いていると

「あれ?小暮くんじゃん?」


なんて声が聞こえた。

俺の知り合いに、こんな馬鹿居たっけな?と顔を上げる。

明るめに脱色した髪

化粧は控えめで、清楚系とは言えないけど、綺麗系って感じ

……誰だコイツ?

さっばり分からん。

「ごめんなさい、どなたでしたっけ?」

「あー椎名奏(しいなかなで)って言ったら伝わる?」

彼女は俺の返答に、呆れ顔を隠そうともせず、答える。


名前を聞いた事を後悔した。


確かに、言われてみれば多少、面影を残しているかもしれない。

中学生の時は、化粧なんてして無かったから全然気が付かなかったけど。


「…久々だね、元気にしてた?」

気まずさを誤魔化そうと、口を開いてみたもののろくな言葉が出てこない。


彼女は、俺とユウキを値踏みするように、順番に眺めて言葉を返す。

「それ、彼女?」


それというのは、椎名には目もくれず、黙々と海老を食べているユウキの事だろう

あー、彼女では無いんだけども、何なんだろうね?

この関係


友達?

違う気がする


依頼主?

まぁ、間違ってはない


俺が言葉に詰まっていると、ユウキが口を開く

「チアキは貴女の何なのかしら?」

底冷えするような声でユウキが問う。

「貴女、チアキにも、私にも全然興味無いでしょう?」

真っ直ぐな目で、椎名を見る

椎名は悪びれる様子もなく

「あー怒らせちゃった?」

「大丈夫、全然興味ないよ?」

「ただ、こんな身の丈に合わないお店に居るから、ちょっとからかっただけで」

ズカズカと言いたいことを言ってくれる

分かってるわそんな事


「ていうか、小暮ってチアキって名前だったんだ、ウケるね?」


椎名は俺を見る。


まるで汚物を見るような目だった

「小暮ってさ、私の事好きだったんでしょ?」

その言葉に、愕然とする。

俺は彼女にそんな事言った覚えは無い。


「あははっ、ビックリしてるね?」


そんな俺を見て、彼女はほくそ笑む

「ホントだったんだ、マジウケる」


「私、強い男の子が好きー」

彼女は小馬鹿にするように

中学生の時、俺の全てだった言葉を口にする。

「そんな言葉を真に受けて頑張って」

「全国大会で恥まで晒して」


「ごめんねー、そこまでしたのに好きにならなくて?」

彼女は心底楽しそうに、言い捨てた。


叶わない恋だと

分かっていたから、傷つかないと、そう思っていた。

でも、そんな事は無くて

その言葉は耳の中でこだまする。

アヤメの言っていた通り

俺は何処かで期待していたのだ。

もしかしたらと思って、捨てられないまま

もう、どうして好きになったのかも思い出せないのに

それが好きかどうかすら分からないのに。


それなのに、その言葉は酷く鋭い痛みを持って

俺を刺すのだ。



彼女が立ち去ったあと

すっかり冷めてしまった皿に手を付ける。

もう、それは

砂を噛むようにザラザラとして

なんの味もしなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ