貴女は誰?
注文したピザを食べ終えた俺は、ちょっとした不安に駆られ、スマホを取り出し、フレンチと検索する。
出てきた画像の料理は、名前こそ分からないがピザやパスタの類いでは無いであろうという事に安堵した。
流石に、二日連続でピザは嫌だ。
フレンチって言われたところで、どんな食べ物を提供する店なのか全く知らないからな。
俺の中で、ピザ=お洒落みたいなイメージが消えないせいで、もしかしたらイタリアンというカテゴリのフレンチって料理ジャンル、もしくは料理そのものの名前という線も捨てきれなかった。
フレンチトーストとか、フレンチクルーラーとかあるし、イメージだけで言うなら甘いものって感じ?
スマホをソファーに放り投げる。
机に置いてあるノートを開き、ボールペンを取り出した。
熱心に漢字ドリルの書き取りをしていたユウキが寄ってくる。
「書くの?」
「うん、書いてく」
俺は、
(いちにちめ、よる、うし、なまえ、くろげわぎゅう)
と書いた。
次はページの中段位に
(ふつかめ、ひる、とり、なまえ、ファミチキ)
と書く
今夜のピザは、マルゲリータとクワトロチーズだったので、ここに書かれる被害者は居ない。
まるでデスノートだな、これ
「何でこんなに隙間、開いてるの?」
ユウキは俺に聞く
「いや、ユウキが書くって言ったから」
机の上の漢字ドリルを見て、思わず苦笑いしてしまう。
帰ってきてからご飯の時以外ずっとやっていたとはいえ、もう半分くらいまで進んでいる。
「難しい漢字は入ってないから、辞書使って調べて書いてみな」
「うん、ありがと」
ユウキが一生懸命辞書とにらめっこする。
そんなユウキを見てふと思った。
こんなに、この少女の立ち振舞いや言葉遣いはこんなに幼かっただろうか?
「あのさ?初めて会った時って、もっと年相応というか…大人っぽい感じだった気がするんだけど」
時々、そんな風に感じる事もあるが
今のユウキは、それこそ小学生みたいだった
「んー?」
ユウキはいたずらっぽく笑い、何かを口にしかけていたが
不意に、出会った時のような口調に戻る。
「貴方には教えてあげない」
「貴方だって、秘密が有る」
「私だって、あってもいいと思わない?」
妖しげに笑う
「私だけ言うのは、不公平よね?」
「だから教えてあげない」
そして何処か、甘えるような声で
「それとも」
「こっちの方が貴方の好みだったかしら?」
本当に人が変わったかのような立ち振舞いに、背筋が寒くなる。
何も言えない俺を見つめ続けていた目線が外れ
ふっと、操り糸が切れたようにユウキは優しく笑う。
「私が怖い?」
少女は、俺に手を伸ばす
逃げることも、近づくことも出来なかった。
「でも…いつか」
少女の手は俺に届かない。
行き場を失ったその手は、何に触れるでもなく
宙をさまよう
ー それはまるで
何かに、すがろうとする赤子のように見えた。




