本当は照り焼きが良かった
ショッピングモールのフードコート
その中の奥まった席を確保する。
「マックとかでいいかな?」
「まっく?」
東雲さんは、首をかしげる
「ハンバーガーだよ」
「それは、美味しい?」
人に勧められるほど美味しいかと聞かれると、どうかとは思う
大体、マック食べたことない人ってあんまり居ないだろうから、改めて他人に紹介する機会が無い。
「美味しいっていうか、まぁ嫌いな人は少ないって感じ」
価格もこなれていて、何処にでもあって、いつ食べても同じような味
好きな食べ物にはわざわざ入れないけど、よく食べてる気がする。
「つまり、美味しくないの?」
両極端な奴だな、アンケートだったら美味しい、美味しくないの間には、まぁ美味しいだとか、どちらかと言えば美味しいとか、どちらでもないとか、そんな感じの選択肢あるでしょ?
まぁ美味しいと、どちらかと言えば美味しいの違いは俺にもわからん。
「んー、俺は好きだよ?マック」
「東雲さんが好きかどうか分からないから、食べてみようか?」
結局のところ、美味しいかどうかなんて食べてみるまでわからないのだ。
会計を済ませ、席に戻る
適当なセットを2つ買った。
「どっち食べる?」
東雲さんは考え込んでしまう
「じゃあこっち」
照り焼きのハンバーガーを指差した。
トレイを東雲さんの前に置く。
「いただきます」
俺は手を合わせる、そんな俺を見て東雲さんはきょとんとしていた。
「それは何?」
「食べる前の礼儀作法だよ、ご飯になってくれた命に感謝するだったっけな?」
習慣でやってるから、そんな事を毎回意識してるわけでは無い
東雲さんはじっとトレイを見つめ
「そんな事を考えたこと、無かった」
と呟いた。
「いままで、私が食べていたのも、何かの命だった」
「だから、残してはいけないのね」
葬儀場で見せられたビデオを思い出す。
彼女は、暴力を振るわれない為に「食べ物を残さなかった」
何で、残してはいけなかったのか誰も、教えはしなかったのだ
何かの命と呟いた時
彼女は、とても悲しそうな顔をしていた
東雲さんは手を合わせ、
祈りを捧げるように目を瞑り、知らずのうちに奪ってしまっていた命を慈しむような声音で
「いただきます」と包み紙を開け、ハンバーガーを頬張った。
モグモグと咀嚼し終える
「…美味しい」
そんな東雲さんを見て、もう一度手を合わせ直す。
「いただきます」
今度はしっかりと、俺も、その意味を噛み締める
食べ慣れたハンバーガーだったが、その味は、いつもよりちょっとだけ美味しい気がした。
すべてを食べきったあと、俺は言った
「東雲さん、食べ終わったら」
「ご馳走さまって言うんだ」
俺は、手を合わせてみせる
「これは?」
「これは一生懸命、美味しく食べられるように作ってくれた人に感謝するって事」
「うん、分かった」
東雲さんは手を合わせ、「ごちそうさまでした」と叫んだ。
いきなりの事に面食らう、何故?
そんな俺をよそに東雲さんは、心配そうな顔で俺に聞く
「ねぇチアキ?作ってくれた人聞こえたかな?」
思わず笑ってしまった。
「大丈夫だと思うぞ、そんだけ大きい声で言ったから、聞こえてるさ」
トレイを片付けようとすると、
「ごちそうさまでした言わないのは悪い子」
と指を指される。
……確かに言ってない
東雲さんは、楽しそうに
「ちゃんと聞こえるよーにだよ?」なんて言ってくる
そんな馬鹿みたいなこと出来ない、と言いたい所だが
言ってることが正論なだけに反論の余地はない
それに、確かに、作った人に感謝するというのなら、聞こえるように言うべきだ。
俺も、あらんかぎりの声で叫んだ
「ごちそうさまでした!」
周りの人が一瞬こちらを見るが、すぐに目を背ける。
いつぶりにこんな大声を出したのだろう
つい、馬鹿らしくて声を出して笑ってしまった




