82話 春の風
卒業式が終わり、僕が春休みに入ると、瑞希が都会へと引っ越ししていった。僕も一緒に瑞希についていくつもりだったが、瑞希から「別れが辛くなる、蒼を家に帰したくなくなる」と言われ、雅之おじさんにも説得され、僕は瑞希と一緒に都会のマンションへ行くのを諦めて、家の玄関で瑞希と別れた。
雅之おじさんは気を利かして、玄関の外で待っていてくれた。僕と瑞希はお互いに抱き合って、何度も互いに見つめ合い、互いに求め合うように唇を重ねた。
「このままキスしていたら、都会に行きたくなくなっちゃう」と瑞希が言い出したので、僕はもっとキスをしていたかったが、グッと我慢して、瑞希を見送ることにした。雅之おじさんの運転する車の助手席に乗って、瑞希は都会へと旅立っていった。
笑っちゃうくらいに、あっけない別れだった。僕はリビングに座って茫然とする。しばらくすると明日香が家にやってきて、僕の顔を見て額に手を当てて、首を横に振っている。
「今日から瑞希お姉ちゃんがいなくなったばかりなのに、もうそんなに落ち込んでるの。そんな感じで、春休みが終わって、新学期になって、蒼お兄ちゃん、学校に行けるの? 大丈夫なの? しっかりしてよ!」
明日香が僕のことを励ましてくれているのはわかるけど、頭の中に何も残らない。瑞希の笑顔だけが走馬燈のように僕の頭の中をかけめぐる。
「明日から元気になるから、今はそっとしておいてくれないか」
僕はそれだけ言うのが精一杯だった、明日香は呆れ顔になって「何かあったら隣の家に来てね」と言い残して、家を出て行った。
とても家の中が広い。こんなに広い家だっただろうか。そしてなんて静かで寂しい家なんだ。どこにも明かりもなく、温かさもない。僕はどうやってこの家で暮らしていくんだろうか。どうやって暮らしていけばいいんだろうか。
とにかく寝よう。寝て起きれば、瑞希が優しく微笑んで起こしてくれるかもしれない。僕はフラフラと2階へ上がり、自分の部屋に入ってパジャマに着替えて、ベッドの中に潜って体を丸めた。ベッドには瑞希の残り香が残っていて、涙が出そうになった。でもその残り香に包まれて、僕は深い眠りについた。
◆
新学期を迎えた。明日香が新しく高校1年生として僕達の高校へ入学してきた。1年5組だ。僕は3年生になり3年2組となり、担任の先生が三坂先生となった。莉子、悠、瑛太、咲良とは別のクラスになった。僕と同じクラスになったのは芽衣、香織、蓮の3人だ。
瑞希がいなくなってから昼食は学食で取るようになった。芽衣は「瑞希先輩に蒼のことを頼まれているから」と言って、時々お弁当を作ってきてくれた。そして学食で一緒にお弁当を食べた。校庭の中庭は僕と瑞希にとって特別な場所だったので、いくら芽衣でも中庭で2人で一緒にお弁当を広げることができなかった。
喫茶店のバイトは続けた。芽衣と2人でバイトをする。バイトをしている間、瑞希のことを忘れられるから。夕飯は瑞枝おばさんが大体は作ってくれていたが、時々、楓姉ちゃんが家に来てくれて、夕飯を作ってくれて一緒に食べた。そして僕の勉強を楓姉ちゃんがサポートして教えてくれた。芽衣にも楓姉ちゃんにも感謝するしかなかった。
他のお姉ちゃん達も暇があれば、僕に会いに来てくれて、僕に勉強を教えてくれて、その代わりに家に泊まって帰っていった。お姉ちゃん達は僕の様子を見て、心配で仕方がないようだった。
2年の3学期の学期末テストで学年19位まで成績を落としていた僕だったが、楓姉ちゃんのサポートと、芽衣のサポートで3年生の中間テストでは学年ベスト10まで成績を伸ばすことができた。毎日、瑞希から連絡をもらっていた。瑞希の声を聞けて嬉しいが、会えないことが切なかった。2週間に1回、または3週間に1回の割合で瑞希は家に戻ってきてくれていた。その時ばかりは、僕も笑顔が絶えなかった。
そんな暮らしが1年続いた。
◆
芽衣と楓姉ちゃんのサポートと、他のお姉ちゃんのサポートと、瑞希のサポートで、成績は学年ベスト10以内を常にキープして、模擬テストでもA判定をもらい、三坂先生にも「これだったら大丈夫よ」と太鼓判をもらうことができた。
僕はセンター試験で、瑞希と同じ大学を受け、見事、合格することができた。センター試験の日は、瑞希も僕の家に戻ってきていて、2人でテストが上手くいったことを大喜びした。それから数日後に合格していることを知った。瑞希は泣いて大喜びをし、僕達は朝までおしゃべりをして過ごした。芽衣とお姉ちゃん達、喫茶店のマスターにも合格したことを伝え、帰郷していたお姉ちゃん達は僕の家に泊まって合格祝いをしてくれた。
それから後に引っ越し業者に来てもらって、瑞希と選定して、都会へ持っていく荷物だけを引っ越し業者に運んでもらった。
そして卒業式を迎え、僕は高校を卒業した。僕の家は明日香が使うと言い張り、雅之おじさんも瑞枝おばさんも明日香の頑固さに負けて、僕が家にいなくなった間、明日香が僕の家を管理することになった。条件として、朝食と夕食は瑞希の家で食べることになった。料理センス0の明日香のことを思えば、そのほうが良かったと思う。
新学期に入ると瑞希は大学2年生、僕は大学1年生として、都会で同棲して暮らしていくことになる。
僕は瑞希と一緒に都会のマンションで一緒に暮らすことになった。今2人で寄り添って、ベランダから公園を見ている。公園の緑が優しく僕達を包む。これから一緒に瑞希と暮らせるんだ。いつも瑞希の笑顔を微笑みを見ることができる。これほど幸せなことはない。瑞希は僕の肩の上に顔を置いて目を伏せて呟いた。
「また、こうして同棲できるって信じてた。1年間、蒼には辛い思いをさせてごめんなさい」
「ううん、いいんだ。辛かったのは瑞希も同じだろう。僕は瑞希の笑顔を見ることができるだけで幸せだよ」
「私も蒼の笑顔が見れるだけで幸せ。今、心が一番、穏やかで温かくて、幸せで一杯だよ」
「僕も同じだよ。これからずっと一緒だ。瑞希の微笑みは僕の宝物だよ。一生失くしたくない。僕の一番大切な宝物だ」
「私も」
ベランダから気持ち良い春を知らせ風が流れ込んで来る。ベランダの前の公園の木々の緑が僕達を優しく包んで、祝ってくれているようだ。僕達はお互いに強く抱きしめ合って長いキスを交わした。
END
これまで「隣の幼馴染のお姉さんが、僕のことを好きだって??」を愛読し、
応援してくださった読者の皆様、おかげで完結まで書ききることができました。
本当に感謝いたします。
お気に入りの読者様はブックマしていただければ幸いです。
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評価にて完結フィーバーになればとても嬉しいです。
この作品を最後までお付き合いくださり、応援してくださった読者の皆様
本当に感謝いたします。瑞希と蒼大の物語は、
私が書くよりも2人に返そうと思います。
これからも2人を温かく見守ってやってください。
大変ありがとうございました。潮ノ海月
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蒼大「瑞希を大事にしていきます。瑞希の笑顔が僕の宝物です。今、幸せです」
瑞希「蒼と一緒に暮らせるようになって、私は今、最高に幸せです」
2人「2人で幸せに暮らしていきます。これからも暖かく私達を見守ってください」