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74話 メリークリスマス



 三者面談が終わった後日から、僕達は2人しかいないように、家を失くした子犬が寄り添って、寒さを過ごすように、寄り添って学校に登校していた。気づけば12月24日となり冬休みに入った。



 僕と瑞希は2人で相談してクリスマスデートとして日本海への1泊2日の旅行へ行くことにした。



 僕は24日より前の日にモールのジュエリーショップへ行き、小さなダイヤがついた18金のネックレスを買って、今は、コートの中に隠し持っている。もちろん瑞希には内緒だ。バイトで貯めたお金も旅行費とネックレス代で全て無くなったが、何も惜しくなかった。



 長時間、電車に揺られて、2人寄り添って・・・・・・



 瑞希は僕の肩の上に顔を置いて、気持ちよさそうに薄く目を伏せている。そして僕も瑞希の頭の上に顔を乗せて目を伏せている。ゆっくりとした時間が流れる。ホームを行き交う人々がまるで時間を動かしているようだ。



 段々と景色が変わり、雪国の中を電車は通る。これほど本格的な雪を見たのは初めてだ。瑞希も初めてのようで、窓に顔を引っ付けて雪国の世界をジーっと見つめている。瑞希の鼻の先が真っ赤となっている。とても可愛い。



 瑞希のマフラーを巻きなおしてあげる。すると「クシュン」と瑞希が小さくクシャミをする。それがとても可愛い。



 雪国に入ってからモノトーンの世界が続く。まるで別世界の中へ紛れ込んだようだ。いくつもの雪山を越えるために長いトンネルを潜る。トンネルを潜る度に雪の厚さが増していくようだ。窓の外を見ると、どの家も道も4m以上の雪が積もっている。外は横殴りの雪で視界が見えにくそうだ。その中を車が行き交う。



 雪国に棲んでいる人達は運転が上手いな。こんな雪の中を運転できるんだもんな。



 外は大雪なのに電車の中は暖房されていて温かい、でも座っている人数が少ないせいか、車内は静かで、まるで本当に違う世界へ向かっていくような変な気持ちになる。



 でも僕達2人には丁度よい感じがする。だって誰にも邪魔されることもなく、2人寄り添っていられるから。



 前の車両から女の子が走ってきて、その後ろを小さい男の子が走っている。まるで昔の瑞希と僕のようだ。小さい男の子が僕達の前でこけた。僕が助け起こそうとする前に、戻ってきた女の子が男の子を助け起こす。



「私がいないとダメね。翼ちゃんは私がいないとダメなんだから」と女の子が笑う。すると男の子が「僕、亜美姉ちゃんがいないとダメだね」と言って笑う。



 亜美ちゃんと呼ばれた女の子がにっこりと笑って「私がいつでも翼ちゃんを助けてあげるからね。いつまでも翼ちゃんを助けるから、大人になったら結婚しようね」と言う。すると翼ちゃんと呼ばれていた男の子が「うん、僕、亜美ちゃんと大人になったら結婚する」と答える。



 2人の子供はそういうと仲良く手を繋いで前の車両へ戻っていった。



 僕は体を震わせた。思い出した。小学校3年生になって家を引っ越しする日、僕は瑞希と会って、結婚しようと約束したことを思い出す。瑞希も昔を思い出しているようだ。僕は瑞希の頭をなでる。



「今まで忘れていてごめん。思い出した。ずっと想っていてくれたんだね。そしてずっと待ってくれていたんだね」



 瑞希は目をつむると「うん」とだけ答える。それだけで言葉は十分だった。



 確か引っ越しの日、瑞希に会いに行って、瑞希は「いつでも蒼大のことを助けるからね。どんなに離れても蒼大のこと助けに行くから。大人になったら、結婚して一緒に暮らそう」と言ってくれたんだった。そして僕は「うん、僕、お姉ちゃんと結婚する」と答えたんだった。



 今頃、思い出すなんて僕はどれほど過去を封印してきていたんだろう。一番大事な約束まで、破ってしまうところだった。瑞希が覚えていてくれて、瑞希が僕を守ってくれて、瑞希が導いてくれていたんだな。本当にありがとう。



「日本海の旅館に着いたらさ。小さい頃のやり直しをしないといけないね。もう一度、約束しておきたい」


「私も、もう一度約束したい。だって、私は蒼のお父さんが他界されたのを知っていたのに、蒼を助けることができなかったから」



 もう十分、助けてもらっているよ。そして十分に幸せだ。



 日本海の駅に着いた僕達は電車から出ると大吹雪が歓迎してくれた。この歓迎は受けたくなかった。だって僕達は雪国育ちじゃないから。この大吹雪に耐えることなんてできない。



 駅にタクシーが2台だけ止まっている。僕達はタクシーに乗り込み、キャリーバックをタクシーの後ろへ積んでもらう。旅館の名前を言うと、すごく近い場所にあるらしいけど、吹雪で方角もわからない。運転手に謝って、旅館まで連れていってもらう。運転手の人は大変親切で、吹雪の中を運転しながら、この街の話をしてくれた。



 旅館に着いた僕達は、タクシーの後ろからキャリーバックを取り出して、旅館の中へ入る。旅館のカウンターでチェックインを済ませて、女中さん部屋まで案内してくれる。



 女中さんは20歳前半ぐらいの人で、部屋に入るとすぐにお茶を淹れてくれた。僕と瑞希は手袋とコートとマフラーを取って、ハンガーにかける。部屋は床暖房のようで常に温かい。



 雅之おじさんと瑞枝おばさんに瑞希が連絡をして、無事に旅館に到着したことを報告する。電話は途中で明日香に代わると僕に代われとうるさい。僕がスマホに出るとクリスマスに家にいないと散々、文句を言った後に、必ずお土産を買って来るように迫られた。仕方なく約束する。帰りに何かお土産に買って帰ることにしよう。そうしないと一生恨まれそうだ。



 女中さんが夕飯ができる前に大浴場に行ったらどうかと提案してくれた。僕も瑞希も浴衣に着替えて、大浴場に向かう。大浴場には露天風呂がついていて、露天風呂の周りには雪が積もっていて、空からも雪が舞い落ちて幻想的な雰囲気を醸し出している。



 湯舟の縁にタオルと置いてかけ湯をした後に湯舟に入る。女子風呂から瑞希の声が聞こえてきた。瑞希も露天風呂に入っているみたいだ。女子風呂も今の時間は誰もいないようだね。



「すごいねー雪国、全て雪だらけだよ。空から雪が降ってきて、きれいね」


「そうだね。露天風呂の周りも雪だらけだよ。雪を見ると冬って感じがグッと強くなるね」


「今日、ここに来れて良かった。また、蒼との思い出が増えたから」


「そうだね。瑞希との思い出が増えたね。今度は忘れないように大事にするよ」


「蒼が転校してきてから、毎日が楽しかった。私、全部、覚えてるんだよ。全部、思い出にするの」


「僕の都合の悪いことは忘れてね。そこは覚えてなくていいからね」


「イヤ」



 僕達は男湯と女湯に別れて露天風呂に入っているが、誰もいないことをいいことに、2人で長い間、会話を楽しんだ。もう、のぼせてしまうと瑞希が言うので露天風呂をあがって、大浴場の中に入り、体と髪を洗って、大浴場い浸かってから、脱衣所へ出る。そして浴衣を着て表に出ると、瑞希がマッサージ機に座って、気持ち良さそうに目をつむっている。僕も瑞希の隣のマッサージ機に座って、電源を入れる。これは利く。すごく気持ちがいい。



「蒼、起きて、このまま、ここで寝ていたら風邪ひいちゃうよ」と瑞希から声をかけられる。いつの間にか、うたた寝をしてしまったようだ。僕は涎が出ていないか確かめる。大丈夫だった。2人で手を繋いで自分達の部屋へ戻ると、寝室には1つだけ布団が敷かれていた。それを見て思わず顔を赤くしていると、瑞希がギュッと手を握った。そして「今日も一緒に眠れるね」と照れた笑いを浮かべる。



 家の部屋で一緒にベッドで寝ていた時は意識しないけど、旅館で布団1つだと、何となくムードが違って、恥ずかしい。僕が照れて、顔をまっ赤にしていると、瑞希に「何を想像してるの?」とからかわれてしまった。



 部屋のドアが開き、女中さんが料理を運んできてくれた。山の幸、海の幸がふんだんに使われた豪華な料理だ。2人で食べきれるだろうか。僕達はバ〇リ〇スオレンジで乾杯して、夕飯を食べる。



 夕飯を食べている途中で瑞希のスマホが震える。瑞希がスマホを取ると美咲姉ちゃんからだった。凛姉ちゃんと楓姉ちゃんと集まって、女3人でクリスマス会をしているらしい。瑞希が今、日本海に旅行にきていることを伝えると「子作りはまだ早い」と怒ってきた。別にそんな目的できたわけではない。瑞希が僕にスマホを渡してくるので、スマホに耳を当てると、楓姉ちゃんから「頑張ってね」と妙な励ましをされた。



 美咲姉ちゃん達と会話をして、元旦は皆で集まって初詣に行くことに決まった。その時は恵梨香姉ちゃんも連れて行くと言ってるからマーくんとタッくんも一緒かもしれない。楽しい初詣になりそうだ。美咲姉ちゃんが「2人でクリスマスに旅行なんて、ごちそうさま」と言って電話を切った。



 夕飯を食べ終わって、お腹が満腹になった。瑞希に膝枕をしてもらって布団の上でくつろぐ。とても気持ちがいい。カーテンで隠れて見えないが、雪がシンシンと降っている。僕はいつの間にか瑞希の膝枕の上で寝てしまった。瑞希にクスクスと笑われて目が覚める。



 部屋の明かりは全て消えていて、間接照明が温かく僕達を映し出してくれている。僕はキャリーバックの中からきれいに包装されたジュエリーケースを瑞希に渡した。



「メリークリスマス。瑞希にプレゼント」


「嬉しい。何だろうな」



 瑞希はきれいに包装袋からジュエリーボックスを取り出して中を見る。中には小さなダイヤがついた18金のネックレスが入っていた。瑞希は目を輝かせてネックレスを取り出すと、僕に手渡した。



「蒼がつけて」



 瑞希が髪を持ち上げて、きれいな項を見せる。思わず目を奪われる。ネックレスをつけてあげると、部屋に置かれている三面鏡でネックレスを見て、瑞希が頬をピンク色にさせて喜んでいる。



「実は、私からもプレゼントがあるんだ」



 瑞希は浴衣の袂からジュエリーボックスを取り出した。包装袋からジュエリーボックスを取り出して、中を見ると、僕が前にプレゼントしたプラチナの指輪と同じデザインの指輪が入っていた。瑞希は指輪を持つと僕の薬指につける。サイズピッタリだ。



「実は蒼が寝ている間に指のサイズを測っておいたの」



 瑞希は照れたように自分の指輪を見せる。僕も手をあげて瑞希に指輪を見せる。



「これでペアになったね」



 瑞希が頬をまっ赤にして優しく微笑んだ。



 僕達はそっと唇を重ねて、ギュッと体を強く抱きしめ合って、布団の中に入った。



「そういえば瑞希ともう一度、キチンと約束したかったんだ」


「何?」


「昔の約束を今日、思い出した。僕は瑞希と結婚したい。だからも一度約束しよう。僕が大学に入ったら結婚しよう」


「嬉しい。私も約束する。蒼と結婚する。蒼を幸せにするね。愛してる」



 僕達2人は再び、唇を長く、何度も重ねた。




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