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73話 三者面談

 学期末テストが終わった。廊下の掲示板に成績表が張り出される。香織が学年トップ芽衣が2位だった。僕は学年15位、瑛太が学年29位となった。蓮は毎日の過酷な勉強の結果、平均点を取ることができ、涙を流して喜んでいた。がんばれよ蓮。また成績が落ちたらマーくんとタッくんが待ってるからね。



 そして三者面談の日がやってきた。僕は両親がいないので身元保証人の雅之おじさんと瑞枝おばさんが出席してくれることになった。



 ダル先生からは、授業態度も悪い点もなく、提出物もきちんと提出されているので問題なし。成績も学年15位なので、大学受験に向けて頑張ってほしいという温かいお言葉をいただいた。雅之おじさんも瑞枝おばさんも、教室を出た瞬間、僕の頭をなでて喜んでいる。



 同じ日に瑞希の三者面談があった。なぜか、僕も瑞希の三者面談に付き合うことになった。これは雅之おじさんと瑞枝おばさんが担任の先生に、僕も一緒に居ることを強引にねじ込んで現実となった。



 瑞希の担任の三坂先生は何度も高校3年生の担任をしているベテランの先生らしい。眼鏡の奥には鋭い目が隠れている。しかし、僕を見てフワリと女性らしい笑顔を見せてくれている。



 瑞希は教室での勉強態度に問題もなく、提出物もきちり提出されており、提出物も全て成績100点、そのうえ成績は高校1年生の時から学年トップを走っているという。



 三坂先生の話によれば、瑞希自身が本気を出せば、都会の有名大学を受験することも、国公立の大学を受験することも十分可能だと説明してくれている。



 普通なら喜ばしいところなのに、瑞希の顔が優れない。三坂先生は一生懸命に上位の大学を目指すように説得しているが、瑞希は話を聞いていないようだ。



 瑞希の顔を見て雅之おじさんも瑞枝おばさんも困っている。そして2人で僕の顔をみる。三坂先生も最後には困った顔をして僕のほうを見る。ここで僕は何かを言わないといけないんだろうか。



 雅之おじさんが僕に語りかける。



「申し訳ないんだけど、蒼ちゃんの意見も聞かせてくれないかな?」



 瑞希が僕の顔を見る。そして何かに怯えたように体を震わせている。



「僕・・・・・・瑞希は・・・・・・都会の大学に行ったほうが・・・・・・瑞希のためになると思う・・・・・・」



 瑞希の目から涙が溢れだして、頬を伝ってポタポタと涙が零れる。



「私は・・・・・・蒼の近くにいたい・・・・・・蒼のお世話をしたい・・・・・・一緒に大学受験をしたい・・・・・・離れたくない」



 三坂先生ははじめて瑞希の本音を聞いて絶句している。まさか受験しないつもりでいたなんて、予想外だったからだ。三坂先生は瑞希を説得しようとする。



「今でも現役で十分に有名大学を合格できるだけの実力もあるのに、わざわざ浪人する必要はないわ。現役で大学に合格するのと、浪人して大学に合格するのでは、社会に出た時に大差がつく可能性もあるのよ。自分の人生を捨てる気なの。私はそんなことを認めることはできないわ」



 三坂先生は瑞希の意見を真っ向から反対する。瑞希は泣き崩れる。



 雅之おじさんと瑞枝おばさんが優しく瑞希の背中をさすっている。



「私、大学には行きます。でも来年の受験はイヤ。再来年に蒼と一緒に受験がしたいの。一緒の大学に入りたいの。一緒に大学生活をしたいの。私のワガママかもしれない。でも私の人生だもん。そんなにワガママなことを言ってますか?」


「瑞希さん、あなたはワガママを言っています。だって誰でもあなたみたいに有名大学や国公立大学を自由に選べるわけじゃないのよ。あなたは才能にも周りの環境にも恵まれているから。だから自分がワガママを言ってる自覚が少ないのよ。私はあなたがワガママを言ってるとしか言えないわ」



 瑞希が僕の顔を見る。涙で頬を濡らしながら僕の顔を見る。



「蒼、私、ワガママ言ってるの? 蒼の近くにいることがワガママになるの? 蒼と一緒に受験をしたいということがワガママになっちゃうの?」


「・・・・・・」



 雅之おじさんと瑞枝おばさんが僕を見る。その目には”はっきりと言ってやってくれ”と語っている。僕の口はさっきからカラカラに乾いている。本当なら言いたくない。本当なら一緒にいたい・・・・・・本当なら・・・・・・



 でも、雅之おじさんも瑞枝おばさんも三坂先生も、僕に言ってほしい言葉は、僕の思いとは違う言葉。



 苦しい。逃げたい。こんなこと瑞希に言いたくない。本当は抱きしめてあげたい。癒してあげたい。でも・・・・・・



「瑞希は都会の大学を、来年に受験したほうがいい。再来年、僕も同じ大学を受験するから・・・・・・」


「蒼・・・・・・私がいなくなって1人になれるの? 私がいなくなってもかまわないの? 1年も会わなくても大丈夫だっていうの? 私がいなくなっても寂しくないっていうの?」



 瑞希、僕が瑞希なしで暮らしていけないことを1番よく知ってるのは瑞希じゃないか。瑞希がいなくなったら心に穴が開いたようになって動けなくなるだろう。そのことを1番知ってるのは瑞希じゃないか。皆からすれば、たった1年かもしれない。でも僕にとって瑞希に会えない1年は一生に匹敵するかもしれない。それぐらい永遠に長い。瑞希がいなくなったら寂しくて夜も眠れなくなることを知ってるのは瑞希じゃないか。瑞希は僕のことを全部知っているだろう・・・・・・でも僕はこう答えるために、ここに呼ばれて、座らされているんだ。



「・・・・・・」



 瑞希は教室を飛び出して廊下を走っていった。瑞枝おばさんが後を追う。雅之おじさんが深々と僕に頭を下げる。三坂先生も頭を下げている。



「蒼ちゃん、よく言ってくれた。ありがとう。一番きついことを君に頼んでしまって、私は親失格かもしれない。しかし、瑞希を説得するためには、蒼ちゃんの言葉が必要だった。ありがとう」


「私からもお礼を言わせてほしいわ。瑞希さんは才能溢れた女性。彼女の将来を曇らせたくない。彼女の将来を考えてくれて、本当にありがとう。空野蒼大くん」



 礼なんか言わないでほしい。礼なんかいらない。僕は自分の本当の気持ちを瑞希に言いたい。伝えたい。本当は離したくない。行かせたくない。ずっと傍にいてほしい。1秒も離れたくないんだよ。



 いつの間にか、僕は泣いていたらしい。目から涙が溢れ頬を伝って、ポタポタと顎から零れている。僕は唇が切れるほど、かみしめて何も言わなかった。その場で何も言わずに堪えるしかなかった。



 僕が泣きやむまで雅之おじさんも三坂先生も黙って待っていてくれた。



「お願いがあります。高校3年生になって、僕が受験をする時、瑞希と同じ大学を受験させてください。これから受験まで一生懸命に勉強します。だからお願いします。瑞希と同じ大学の受験をさせてください」



 雅之おじさんが優しく微笑む。



「私は最初からそのつもりだった。だから瑞希には自分の最大限の実力を発揮しないと合格できないような大学には行かせないと思っていた。大学は瑞希が決めればいいと思っている。来年、受験をして大学にさえ行ってくれるのであれば、おじさんは何も言うことはない」



 三坂先生が僕に質問する。



「君の成績は今、どれくらいなんだい?」


「期末テストは学年15位でした。瑞希に教えてもらってですけど」


「2年生の段階で、学年15位か。君も優秀だね。それであれば、今年から受験対策をすれば、瑞希さんと同じ大学を受験することは可能よ。私も君のことを最大限、応援することを約束するわ。1年間色々と大変だろうけど、瑞希さんのために耐えてあげてくれるかな?」


「はい」



 僕と雅之おじさんは教室を出た。そして廊下で泣いている瑞希と合流する。帰り道は誰1人、話をする者はいなかった。僕と瑞希は家に帰った。



 リビングに2人、隣同士に座っているが、会話はない。僕は何て言えばいいんだろう。抱きしめてあげることもできないのか。それが悔しい。



 瑞希がまた涙を流して頬を濡らしている。僕はポケットからハンカチを出して、優しく涙をに拭う。



「蒼、本音を聞かせて。私がいなくなってもいいの? 1人で寂しくないの? 1年間も私と離れて耐えていられるの? 本当の気持ちを聞かせて欲しい」



 僕は答えていいのか? 答えてはいけないのか? 本当のことを瑞希に打ち明けたい。



「・・・・・・」


「蒼、応えて、逃げないで!」


「僕が瑞希から離れられるか・・・・・・離れられるわけないだろう。僕が1人になって寂しくないかって・・・・・・今でもこんなに寂しいのに・・・・・・寂しいに決まってるだろう。1年間も堪えられるかって・・・・・・1秒でも離れていたくない、離れられないのに、1年も堪えられるわけないだろう。そんなこと瑞希にはわかってるはずだろう」


「それだったら、それだったら、なぜ教室で三坂先生の前であんなことを言ったのよ!」


「それは皆が瑞希の未来を望んでいたからだよ。僕のワガママで瑞希の未来を潰すわけにいかない。だから、あの場で、皆の望むように答えた。今でも間違った答えをしたとは思わない」


「私は1秒でも蒼と離れたら死んじゃうよ。心が死んじゃうよ。1年間も心を死んだまま生きろっていうの。皆、酷いよ。酷過ぎるよ」


「僕も瑞希と離れたら死ぬと思う。心が死ぬと思う。1年間も心を殺したまま生きていくと思う。でも、僕がきちんと受験勉強をして、再来年に瑞希と同じ大学に入学できれば、また一緒に暮らせる。僕にとって瑞希と一緒に暮らせることが幸せだから。幸せが戻ってくる。だから瑞希の未来のために来年に大学受験をしてほしい」


「私は1年も堪えられない。1年も蒼と離れてるなんて我慢できない。1年も離れたら、私、狂っちゃうと思う。それでも来年、大学を受験しないといけないの?」


「・・・・・・僕も1年も堪えられないと思う。我慢できないと思う。1年も離れていたら、僕も狂ってしまうかもしれない。だから会いにいく。・・・・・・瑞希が都会の大学に合格したら、必ず会いにいく。・・・・・・瑞希に会いにいく。・・・・・・そして瑞希に会って、笑顔をもらって、受験勉強を頑張って、必ず瑞希と同じ大学に合格する」



 瑞希は怯えたように体を震わせて、僕の瞳を見つめ続ける。僕も目を逸らすことなく瑞希を見つめる。



「蒼に会いたくなったら、私、会いに来るわよ。もしかすると、そのまま都会に帰らないかもしれないわよ。それでも蒼は大学を受験しなさいっていうの?」


「いつでも僕は瑞希を待ってる。寂しくなったら帰ってくればいい。そして元気になったら都会に帰ったらいい。それは瑞希の自由だよ。僕も瑞希に会えるだけで嬉しいから。でも、来年の大学受験は受けて合格してほしい」


「・・・・・・蒼がそこまでいうなら・・・・・・わかった・・・・・・大学受験は受ける・・・・・・合格する・・・・・・約束するのはそれだけだからね・・・・・・」


「それだけで十分だよ」


「蒼、お願いがあるの。いつも私が抱っこして眠るけど、今日は蒼が私を抱っこして寝てほしい」


「わかった」



 瑞希の頬に涙が伝う。僕の頬にも涙が伝う。2人はまるで吸い寄せられるように抱き合った。



 そして僕達2人は夕食も食べずに2階へのぼっていった。

潮ノ海月でございます。

皆様のおかげで、今日もこの作品を書くことができました。

ありがとうございます。

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これからもよろしくお願いいたします。

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