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72話 蓮の悲劇

 蓮が僕に泣きついてきた。僕のズボンを掴んで必死だ。顔には頬に涙を流している。鼻水も出ている。本当に必死の顔だ。



「どうしたの? 蓮らしくないじゃないか。僕を頼ってくるなんて珍しい」


「ダル先生に言われたんだよ。今度の期末考査で赤点を取ったら、留年が決まるかもしれないって。頼むよ。俺に勉強を教えてくれよ」


「それだったら芽衣に頼めばいいじゃないか。芽衣は学年ベスト3位だよ。蓮も教わるのは芽衣のほうがいいだろう。芽衣は蓮の好みだし、優しいし、頼んだから教えてくれると思うけど?」



 蓮が必死に首を横に振る。



「この前の桃花と由梨の件でまだ、芽衣は怒ってるんだ。だから教えてくれないんだよ。だから男に教えてもらうのはイヤだけど、仕方なく蒼大を頼ってるんじゃないか」



 ん、その言い方、まだまだ余裕ありそうじゃん。僕は隣の咲良を見る。咲良は両手でバッテンをしている。



「蓮より点数の良い人間なら沢山いるじゃん。隣の咲良だって、今は平均点以上っは取ってるよ。咲良に教えてもらえばいいじゃん。確か蓮、芽衣の前は咲良のことが良かったんだよね」



 咲良が僕を睨みつける。



「どうして蒼は私に話を振るのかな。私、蓮に勉強を教えるなんてイヤよ。自分だけでも精一杯なのに」



 咲良は蓮を見て、顔を逸らせた。そうだ瑛太がいるじゃん。瑛太は学年30位近くに毎回いるくらい頭がいい。瑛太に任せたい。



「瑛太に頼めよ。蓮、瑛太と仲良いじゃん」


「瑛太の奴、最近、崎沢結花と付き合ったの知ってるだろう。崎沢と仲良く図書館デートするんだってよ。だから俺は邪魔だって言いやがった」



 なんとか蓮を誰かに押し付けたい。だって蓮に勉強を教えるのって、すごく大変だと思う。



「悠はどうなの?」


「悠が莉子とベッタリなのは、お前も知ってるだろう。絶対に莉子が俺に勉強なんて教えてくれるはずないじゃん。もう蒼大しか頼る所がないんだよ。頼むよ」



 僕に頼ると言われても昼休憩は瑞希とのお昼のお弁当の時間だし、放課後はすぐにバイトに行かないといけないし、瑞希と同棲していること、バレたら色々とまずいし、蓮の奴は口が軽いから危険だし、蓮に勉強を教えたくない。どうしよう。



「どこで勉強するつもりなの?」


「蒼大の家」



 即刻、拒否だね。話にならない。僕と瑞希の同棲がバレるじゃないか。そんな危険を冒せるはずがない。



「蓮には言ってなかったけど、放課後はすぐにバイトが入ってるんだよ。だから勉強を教えるは無理だよ」


「そこを何とかしてくれよ」



 んー、誰かに押し付けたい。女子できれいで、学年成績がよくて、蓮のことを面倒みないといけない立場の女子はいないかな・・・・・・いた!1人だけいた藤野香織だ。生徒会長だから断れないだろう。香織も美女だしな。



「わかった。1人、心当たりがあるから、今からちょっと聞いてくる」



 僕は自分の席を立つと、教室を出て隣の2年4組の教室へ入っていく。すると教室の真ん中の席に座ってる藤野香織を見つけた。友達としゃべっているようだ。本当なら邪魔をしたくないんだけど・・・・・・



 僕は香織の席の近くに立つ。香織が振り向いて、僕を見て驚いている。



「蒼大、何しに来たの? 私に会いに来てくれたなら嬉しいんだけど」


「ごめん。香織、1つ頼みがあるんだけど・・・・・・僕の友達の蓮なんだけど・・・・・・知ってるかな?」


「知ってるわよ。2年生で1番軽薄な男子で有名な3組の蓮でしょう。名前くらいは知ってるわ」



 蓮って2年生で1番軽薄で有名なんだ。そんな有名人にはなりたくないな。



「その蓮なんだけど、今度の期末テストで赤点を取ると留年する可能性が出てきたらしいんだよ。僕は毎日、バイトだしさ。教えることができないんだ。だから香織に頼みたいんだけど、お願いできるかな?」


「蒼大なら大喜びで教えるけど、蓮なんてイヤよ。軽薄なんでしょう。近寄ってほしくもないわ」


「別にノリは軽いけど、悪い奴じゃないよ。僕の幼馴染でもあるんだよ。頼むよ。教えてやってくれよ。生徒会長だろう。同じ学年で赤点で留年生が出たら、生徒会長としてもイヤだろう?」


「私達、生徒会は、学校で円滑に学生達が暮らせるように補助しているものです。蓮1人が留年しても生徒会の恥にはならないわよ。甘かったわね。蒼大。他を当たってちょうだい」



 こうなったら瑞希に相談するしかないか。瑞希も蓮のことになったら無視できないだろう。香織に礼を言って僕は2年4組を後にして、教室に戻る。すると蓮は僕の椅子に座って待っていた。



「どうだった? なんとかなりそうか?」


「いや、断られた。2年生で1番軽薄な男子とは拘わりたくないって言われた。蓮、その軽薄さ直したほうがいいと思う。結構、評判、広がっているみたいだよ」



 僕だったら、そんな評判をつけられたら、恥ずかしくて学校に来れなくなりそうだ。



「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ。助けてくれよ。蒼大」


「後は瑞希に相談するしかないね。最悪は瑞希に勉強を教えてもらうことになると思う」


「それだけはイヤだ。瑞希姉ちゃんだけは怖い。絶対に殺される。絶対にイヤだ。怒られるに決まってるじゃん」



 やっぱり瑞希に勉強を教わるのはイヤがったか。思った通りだ。どうしよう。お姉ちゃん達にでも相談しようかな。



「わかった。昼休憩中に3年生のお姉ちゃん達に相談してみるよ。でも断られても知らないからね」


「ありがとう蒼大。俺、瑞希姉ちゃん以外なら、年上って結構好きなんだよ。頼むよ」



 勉強を教わるだけだからね。蓮に彼女を紹介するつもりなんかないからね。



 午前中の授業が終わって、昼休憩になった。僕は3年6組の教室へ行く。本当ならお昼のお弁当は校庭の中庭で瑞希と2人きりで食べるんだけど、今日は無理を言って、お姉ちゃん達と一緒に食べることにした。



「めずらしね。蒼ちゃんが私達と一緒にお弁当を食べたがるなんて、今日は何の用事なのかな?」



 さすが美咲姉ちゃん、勘が鋭いね。



「実は僕の幼馴染で蓮って奴がいるんだけど、成績が悪くて、今度、期末テストで赤点を取ると留年する可能性大らしくて、勉強を教えてくれって泣きつかれてて・・・・・・」



 瑞希の目が吊り上がる。やっぱり怒った。



「蓮の奴。勉強を全然してなかったのね。私に頼めばビシビシしごくのに、なぜ私に頼まないの」



 それが怖くて蓮は頼めないんだと思う。だって瑞希、蓮が相手だと容赦なしだもん。



「瑞希に教えてもらうのは怖いって、だから他の人に教えてほしいって言われて、2年生の知り合い全員に聞いて回ったけど断られて、お姉ちゃん達の中で蓮の勉強を教えてもいいって言う人いるかな」


「私ならいいわよ」



 楓姉ちゃんがにっこり笑う。



「楓姉ちゃんは禁止。だって蓮は無類の女好きだから、楓姉ちゃんは危険すぎる。だから僕が許さないダメ」



 瑞希の目の奥に炎が点った。



「蒼、私が蓮に勉強を教えるのはよくて、楓が教えるのはダメってどういうこと。楓のほうが魅力的って言ってるみたいに聞こえるけど。蒼は誰の彼氏だったのかしら。忘れてるなら思い出してもらうけど」



 瑞希、マジで目が怖いよ。僕は瑞希の彼氏です。でも女性としての魅力は瑞希よりも楓姉ちゃんのほうがあると思います。だってロケットだし、エロいし、おっとりしてるし、きれいだし、可愛いし、楓姉ちゃんのほうが勝ち。



「私も楓が勉強を教えるのは無理だと思う。楓の胸は男性にとって凶器よ。その胸を無視して勉強なんてできるはずないわ」



 さすが美咲姉ちゃん、冴えてる。



「私が勉強教えてもいいんだけどなタッくんがどういうかな?」


「蓮はタッくんの幼馴染だよ。だから蓮はタッくんには頭が上がらないはずよ。恵梨香ナイスアイデア」



 瑞希はいたずらっ子のような笑顔を見せている。タッくんが睨んでいる前で勉強するなんて僕もイヤだな。



「わかったわ。放課後に喫茶店に連れてきて。マーくんとタッくんの前だと私にもちょっかい出せないだろうし」



 恵梨香姉ちゃんがにっこりと笑う。



 昼休みが終わって、僕は自分の教室に戻った。案の定、蓮は僕の椅子に座っている。



「どうだった? 3年生のお姉さんが俺に教えてくれることになったか? 期待してたんだよ」


「ああ、放課後に教えてくれるって。僕のバイトしている喫茶店で教えてくれることになったよ。だから放課後に付いて来てね」


「さすが、蒼大、それで3年生のお姉さんは美人か?」


「うん、恵梨香姉ちゃんは美人だと思うよ」



 蓮は小躍りしながら自分の席に戻っていった。隣の席から咲良が心配そうな顔で見てくる。



「蓮には言わなかったけど、恵梨香姉ちゃんには厳つい彼氏がいるからね。彼氏も同伴だから大丈夫だよ。蓮には内緒にしておいて」



 咲良がクスクスと笑っている。僕もニヤッと笑った。



 午後の授業が終わって、放課後になり、僕と瑞希とお姉ちゃん達と蓮で一緒にバイト先の喫茶店へ行った。



 喫茶店に着いた蓮は4人掛けのテーブルに恵梨香姉ちゃんの対面の席に座った。そして勉強を始める。しばらくすると蓮と恵梨香姉ちゃんの隣にマーくんとタッくんが座る。タッくんの目が怖い。



 僕はマーくんとタッくんに蓮が今度の期末テストで赤点を取ったら留年の可能性が大で、勉強を教えてほしいと言ってきたので、恵梨香姉ちゃんが引き受けたことを伝える。するとタッくんが蓮に口を開いた。



「蓮、知らないかもしれないが、恵梨香は俺の彼女だ。お前は俺の幼馴染で、弟みたいなもんだから、勉強をお教わることは許してやる。しかし、次の期末テストで赤点なんて取って、恵梨香に恥をかかせたら、わかってるだろうな」


「蓮、俺達も成績ではお前に誇れるような点数は取ってないけどな、幼馴染の兄貴分の彼女に勉強を教わろうとはいい度胸してるじゃないか。俺とタッくんでお前を監視してやるから、びっしりと勉強しろよ」



 マーくんも蓮を見て凄む。蓮は完全に怯えきっている。



「蒼大、話が違うー!」


「お前が瑞希から勉強を教わるのがイヤで、美人の3年生のお姉さんから勉強を教わりたいって言ったから恵梨香姉ちゃんに頼んだだけだよ。僕は何もウソはついてないよ。頑張れ蓮」



 僕はウソは言ってない。ただ、黙っていただけだ。これは罪じゃないよね。



 この日以降、期末テストが始まるまで、蓮はマーくんとタッくんに監視されて、必死で恵梨香姉ちゃんから勉強を教わる日々が始まった。これだけやれば蓮も少しはテストの点数がよくなるだろう。



 しかし、その余波はマーくんとタッくんにも及んだ。2人も期末テストまで恵梨香姉ちゃんのスパルタ勉強に突き合わされた。マーくんとタッくんが蓮を恨んだことは言うまでもない。

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