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70話 マーくんの復活

 恵梨香姉ちゃんとタッくんが付き合い始めて1週間が経った。どうせ恵梨香姉ちゃんのことだから、すぐに飽きてしまうだろうと思っていたが、意外にも、まだタッくんと付き合っているとお姉ちゃん達が不思議がっている。



 やはり顔か。イケメンがいいのか? 恵梨香姉ちゃん、そんなにイケメン好きだったかな?



「恵梨香姉ちゃん? そんなにイケメン好きだった?」と聞くと、恵梨香姉ちゃんは首を横に振る。「タッくんってただのイケメンじゃないんだよ。すっごく恥ずかしがり屋で、少し寡黙で、あんまり話してくれないんだよ」



 それのどこにモテる要素があるんだろうか? イケメンの根暗といわれているような気もするけど?



「私ってよくしゃべるじゃない。それをきちんと聞いていてくれるの。そしてね、合わせて頷いてくれるの。その寡黙さが、私には丁度いいっていうか。気が合ってるのよ、私達」と恵梨香姉ちゃんが惚気る。



 お姉ちゃん達は甘いモノを食べ過ぎたような顔をしている。これは相当惚気を聞かされているな。瑞希、指輪に語りかけてないで、少しは恵梨香姉ちゃんの話を聞いてあげようよ。傍からみたら危ない人だよ。



 放課後になったので3年6組の教室へ瑞希を迎えに来ていた。最近では僕のほうから迎えにくることのほうが多い。お姉ちゃん達が僕に会いたがるからだ。教室に団体で来られても困る。



 恵梨香姉ちゃんのタッくん話は続く。あの日から毎日のように会ってるようだ。



 美咲姉ちゃんがいたずらっぽい笑みをもらせて、恵梨香姉ちゃんに聞く。



「恵梨香のことだからキスぐらいはすませたんだよね?」すると恵梨香姉ちゃんが急にモジモジし始めた。



「私はいいのよ。体も心も準備OKよ。でもタッくんが奥手で、まだ腕を絡めて寄り添って歩けるようになったくらいかな。彼、凄いシャイなの。照れ屋で、可愛いの。すぐ顔が真っ赤になちゃって、顔を背けちゃうんだよ」



 恵梨香姉ちゃん、あなたと比べたら、誰でもシャイだと思う。肉食系すぎるんだよ。瑞希が真似しなくて良かった。



「でも今週中にはキスしてみせるわ。私にメロメロにさせないと、瑞希達に追いつけないんだから」



 別に僕達に追いつく必要はないと思う。それに僕達そんなにキスしてないと思うよ。数えるのはやめるけど。



「そろそろバイトに行く時間だから、僕、直接バイト先へ行くね」



 お姉ちゃん達と瑞希と分かれて、僕一人校舎をでて路地を歩いて大通りへ向かう。そしてバイト先の喫茶店へ行くと芽衣が困り顔で店の中にいた。



 喫茶店の中に入って、エプロンをつけた僕は芽衣に声をかける。



「お疲れさま、今日も早いね。困った顔をしてどうしたの?」



「タッくんに彼女ができてから、あの筋肉達磨、カウンターの奥でまだシクシク泣いてるんだよ。辛気臭いから早くティッシュ配りへ連れて行って。あんなに泣かれたら、私だって嫌になるわよ」



 そんなに怒らないであげてほしい。生まれてからの幼馴染のタッくんに彼女ができたんだから、マーくんとしてもショックだと思うんだよ。少しくらい女々しくなっても仕方ないと思う。



「よりによって、私に彼女になってくれって土下座までするのよ。私、そんな男子って好きじゃないわ。それに筋肉達磨なら堂々としていてほしいわ」



 どこかに筋肉が好きっていう女性も現れるよ。マーくん、僕はマーくんの味方だからね。一緒にティッシュ配りに行こう。



 マーくんと僕は駅前の人通りに多い所でティシュ配りをする。いつもティシュを配る時間帯も場所も決まっているので、結構、常連さんが多くなっている。皆に挨拶をしながらティッシュを配っていく。いつもの女子大生のお姉さん達だ。駅から出てきた。僕に手を振ってくれている。僕も手を振りかえす。すると女子大生のお姉さんの1人が歩いてきた。



「蒼ちゃん、お姉さん達とデートしてくれるつもりになったかな? 待ってるんだけどな」



「僕は彼女がいるのですみません。実は僕の近くで座っている。あの大柄の高校生が1人身でして、誰か、良い女子を紹介してあげてもらえないですか? 最近、落ち込んでいて困ってるんです」



「蒼ちゃんが一緒に遊んでくれるっていうなら、お姉さん達も1人くらい余計なのが付いて来ても文句は言わないわよ。蒼ちゃんが一緒に遊びに行くが条件ね」



 瑞希がいなければ喜んで女子大生のお姉さんの後ろに付いていくんだけど、後でバレた時に言い訳もできない。それにマーくんのこと余計な1人と言ってるということは、初めからマーくんには脈はないな。



「お姉さん達と遊ぶのは次の機会にしたいと思います。今日も貧乏暇なしでバイトの最中なので、お姉さん、すみません。また誘ってください」



 僕はペコリと頭を下げた。すると女子大生のお姉さんが僕の頭を優しくなでる。



「蒼ちゃんに謝られると、仕方ないって思っちゃう。母性本能をくすぐられるのよね。またね、蒼ちゃん」



 女子大生のお姉さんはそう言いながら女子大生の団体へ戻ると、みんなで駅を去っていった。



 それからもティシュ配りをしながら、マーくんに女子ができるように声をかけるが、どれも良い返事がない。マーくんを見るとティシュも配らずに、駅の階段に座ったまま、魂が抜けたようになっている。かなりの重傷だ。



「あら、蒼ちゃん、久しぶり。まだ喫茶店のバイト、続いてるんだ?」



 顔を振り返ると弥生さんが立っていた。弥生さんは女子大生で、バイトでモールで洋服店の売り子をしていて、僕の服のアドバイザー役をしてくれている気さくなお姉さんだ。洋服店の売り子をしているだけあって、笑顔が可愛い。



「喫茶店のバイト、頑張っていますよ。たまには葵さんと一緒に来てくださいよ」


「よく喫茶店には行ってるわよ。蒼ちゃんと時間帯が合わないだけよ。葵さんにも元気にしてるって伝えておくわ」


「ありがとうございます」


「それよりも、あの暗いのは何?」



 弥生さんは、マーくんを指差して怪訝な顔をしている。



「長年の親友に彼女ができちゃって、それで親友が彼女とばっかり遊んでいるから、いじけて暗くなってるんです」


「筋肉が暗かったら、ただのゴミじゃない。筋肉つけてる男は、無理してでも笑っていてほしいわ」



 なぜか、世の中の筋肉好きな男性が不憫になってきた。筋肉をつけてるっていうだけで、暗くなることもできないのか。可哀そう過ぎる。



「私が、少し遊んで元気をつけさせてあげるわ。私も葵さんと一緒で、人を勇気づけるのは得意なのよ。任せて」



 任せるのはいいですけど・・・・・・マーくんが勘違いして弥生さんにつきまとっても僕の責任じゃないですからね。



 マーくんの近くまで歩いていき、マーくんの耳元で僕がささやく。



『喫茶店の常連さんで女子大生の弥生さんが、マーくんを元気づけてくれるって言ってるけど、マーくんどうする? マーくんが弥生さんと遊びに行くなら、マーくんの分のティッシュは僕が配っておくから、遊んでおいでよ。暗いマーくんなんて、マーくんらしくないよ。弥生さん、優しいから、きっとマーくんの悩み事を聞いてくれるよ。でも惚れちゃあダメだよ。店の常連さんだからね」



 マーくんはガバっと僕のほうを振り返ると、いきなり僕の首を抱きしめた。そして耳ともでささやく



『心の友よ』



 マーくんの心の友はタッくんだから、勝手に僕を参加させないでね。僕はマーくんを立たせて、弥生さんの前へ連れていった。マーくんは既に緊張している。



「私の名前は草薙弥生っていうわ。大学3年生よ。よろしく。君、マスターの息子さんよね。マスターから少しは話を聞いたことがあるわ。あんまり勉強しないで遊んでばっかりって聞いていたけど、そんな暗い顔だったっけ?」



 弥生さんは知っていて、笑いながら話をしている。これでもマーくんの緊張をほぐしてくれようとしてくれているんだろう。



「あの喫茶店の息子で黒木正人と言います。高校3年生です。今日は遊んでくれると聞きました。ありがとうございます」



 そんな固い挨拶ってありなの? こんなマーくん見たことないよ。弥生さんもケラケラと笑っている。



「じゃあ、蒼ちゃん、ちょっと正人くんと遊んでくるわ。ティッシュ配り頑張ってね。正人くんは女子大生とデートできるんだから、そんなに緊張しない。後、暗くしない。女の子にモテないわよ」



 あ、弥生さん、今のマーくんには、今の一言は禁句です。



 弥生さんは明るく手を振って、マーくんと2人で消えていった。僕はひと仕事を終えた気分になった。それから1人でティシュ配りを終えると、喫茶店へ戻る。



 喫茶店はいつものように満席だった。僕はすぐに店の中に入って、紙袋を片付けてホール周りをする。すると芽衣が不思議な顔をして僕を見てくる。



「行きは筋肉も一緒だったじゃない。どうして筋肉がいないの? 暗く、1人で駅でイジケテルの?」



 芽衣、マーくんには辛辣だね。容赦なしだね。そんなに筋肉が嫌いなの? 世の中の筋肉の人に謝ったほうがいいよ。



「駅前で弥生さんと会って、弥生さんがマーくんの相手をしてくれるって言ってたから、弥生さんに預けてきたよ」



「蒼、あんた馬鹿じゃないの。傷心の筋肉が女性に近づいたら、1発でノックアウト、惚れて帰ってくるに決まってるじゃん」



 そこまで単細胞でないと思うけど。



 芽衣は「私、何が起こっても私の責任じゃないから」と言い残してカウンターへ戻っていった。僕はホールの仕事が忙しく、マーくんのことをすぐに忘れた。



 あっという間に時間が過ぎた。マーくんがニコニコ顔で帰ってくる。そしてマーくんはホールに立っている僕に、弥生さんの話ばかりする。いかに可愛いか。いかにきれいかを僕に必死に伝えてくる。ダメだ。完全に惚れてる。うるさい。



 僕はカウンターが忙しそうだよと言って、マーくんをホールから追い出した。すると芽衣が目を吊りあげて、ホールへ歩いてくる。目を見ただけで、何を言われるのかがわかる。全て僕が悪いんです。軽率でした。だから怖い顔はやめてほしいな芽衣。僕は芽衣のおっとりした顔が好きだよ。

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