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68話 輝く舞台

  文化祭の当日がやってきた。



 僕達のクラスはファッションショーの舞台と化していた。教室の教壇の奥には男女別の更衣室まで設けられ、教壇のあった場所には「化粧直し」の個室まで作られている。教室の後ろのドアの近くには大型ミキサーが置かれ、莉子がマイクのテストをしている。



 演劇部から借りてきた遮光カーテンが敷かれて、自然光が全く入ってこない。部屋の4隅の上には大型スピーカーが設置され、色とりどりの照明が教室を照らし出している。



 もちろん、ファッションショーに使う舞台も演劇部から借りてきたものだ。



 僕達、選手は入念に舞台の上で歩く練習をしている。本番では真正面から照明が当たって、歩く距離がわからなくなるらしい。僕達は歩数を数えながら練習をする。他クラスからの参加者も歩行訓練に参加していく。



 すでにコスプレっぽい恰好をした生徒も何人か見られる。



 まだファッションショーは始まっていないのに、大勢のお客が集まってきている。僕達の高校では文化祭の時だけは一般入場が許されている。



 本当は僕達のクラス全員も時間を分けて、自由時間に少しずつ分けたいのだが、下準備が多すぎて、自由時間がない状態だ。



 それでも午後3時からの開場なので、各自、交代しながら自由に学校内を行動する。僕は3年6組に行った。3年6組はコスプレ喫茶だった。



 僕が教室に入ると、それぞれに動物のキャラクターをしたお姉ちゃん達が出迎えてくれた。凛姉ちゃんがキリンの役だった。楓姉ちゃんは牛の役だった。なぜかわかるような気がする。美咲姉ちゃんは山猫だ。恵梨香姉ちゃんはライオンの役だった。肉食そのままじゃん。瑞希はなぜか人魚の役で、体の下が魚になっているので接客するのが無理で、窓際の席ですまし顔で座っていた。人魚の姿も可愛いよ。



 僕はアイスティーを頼んだ。山猫役の美咲姉ちゃんがアイスティーを持ってきてくれる。



 普通ウェイトレスを撮影する時は料金が発生するらしいが、お姉ちゃん達は僕のスマホを取り上げて、色々な写真を撮ってもくれた。もちろん瑞希の写真もいっぱいある。



 運動場へ行くと体育部が焼きそば、フランクフルト、お好み焼き、クレープなど色々な食べ物を作っていた。



 僕は焼きそばとフランクフルトを頼んで、簡易テーブルに座ってそれを食べる。そういえば昼過ぎなのに、何も食べていなかった。



 運動部の食べ物を物色していると雅之おじさんと瑞枝おばさんと明日香に会った。明日香はフランクフルトを口にくわえて上機嫌だ。



「今年の文化祭は凝ってるね。これから瑞希の教室に行くんだけど、いかないか?」雅之おじさんが誘ってくる。


「僕はもう行ってきました。瑞希、人魚の恰好してきれいでしたよ。見てきてください。」



 明日香が僕に服を見せてくる。よく見ると僕のお気に入りのMA-1じゃないか。家から盗ってきたな。スキニーパンツにパーカーが明日香のマッシュショートヘアに良く似合っている。



「私もこれで、ファッションショーに出るからね」



 明日香、お前は自分のことをもっと自覚したほうがいいぞ。美少女なんだよ。可愛いんだよ。ファッションショーに出たら目立っちゃうよ。



「お兄ちゃんと歩くからいいもんね」



 どうやら僕と一緒に歩きたいらしい。



「今回だけだからね」とくぎを刺す。



 雅之おじさんと瑞枝おばさんと明日香と分かれて、文化部へ歩いていると、葵さんと弥生さんとばったり会った。



「こんにちは葵さん、弥生さん」


「葵さん、先日はマーくんとタッくんの髪の毛、ありがとうございます。2人共、滅茶苦茶に似合ってました」


「そうね短髪の子は短髪だから工夫は余りできなかったけど、金髪の長髪くんはやりがいがあったわ。ウルフヘアーが良く似合って、イケメンに変身した時は、葵さんも思わずドキッとしたわよ。面白かったわ。ありがとう」



 弥生さんがニヤニヤと笑って僕を見る。



「今日ファションショーで、この間の服を着るんでしょう。今日は楽しみにして見てるから。カメラも持ってきたし、良いのが写ったら店に飾るからね」


「楽しみにしてるわよ」と葵さんが言って、2人は僕と離れた。僕が教室へ戻ると琴葉ちゃんがにっこりと微笑んで僕のことを待っていた。



 ファションショーが始まるまで1時間以上前だ。まだ早いと思うが、琴葉ちゃんは喜々としてメイク道具を持っている。そしてパイプ椅子に座っているダル先生に化粧を始めた。これには生徒全員が驚いた。



「今日は2年3組の催し物だもの。担任の先生が化粧しなくてどうするのよ。ちゃんと衣装も持ってきたわ」



 ダル先生が顔を真っ赤にして静かに琴葉ちゃんのメイクを受けている。これは珍しい。絶対に暴れだすと思ってたのに。ウィッグまでつけている。琴葉ちゃんがどこで手に入れたのかわからない服装を持って、ダル先生は男子更衣室へと入っていった。



 着替えていた男子生徒の笑い声が聞こえる。相当に酷いものなのだろう。



 琴葉ちゃんが僕をパイプ椅子に座らせると、丁寧に入念にメイクを施していく。ハートマークのカラコンも入れられた。僕は自分の荷物が入ったボストンバックを持って男子更衣室へ入っていく。



 僕が女装に着替えていると、男子更衣室から「抱きしめさせてくれ」と本気の声がこだまする。琴葉ちゃんが更衣室の外から注意する。



「いくら蒼ちゃんが可愛くても男子よ。見失わないように!」



 教室の中で洋楽なのか、ハウスなのか、よくわからないが大音量で音楽が流れはじめ、教室内の照明が全て消され、間接照明が色な場所を映し出す。そして舞台の前の照明が光り輝いて、舞台を浮かびあがらせる。



 午後3時になり、莉子がマイクで「ファッションショーのはじまりです」と告げる。教室に中にはカメラを持った生徒がなだれ込んできた。廊下側の窓は開け放たれて、生徒達が身を乗り出して見ている。



「トップバッターは私達の担任、ダル先生です「テーマが〇〇のおばちゃん」」



 ダル先生がショーの舞台に姿を表した。全身ヒョウ柄の服を着て、シャツの真ん中には虎の似顔絵がドアップでプリントされている。手には手持ち袋を持っていて、大根やらキュウリなどの野菜が詰め込まれている。



 ダル先生は舞台の端まで歩くとくるりと回りウィンクをした。多くの男子生徒が「オェ」と声をあげている。



 次にはそれぞれの衣装を着た女子達が華やかに舞台の上を踊っている。芽衣や咲良も可愛い。



「次は男子の部です。物を投げないようにしてください」と莉子が大声でアナウンスする。



 男子学生が女子の制服で舞台を踊っていく。カメラを持っている男子学生達からは「帰れー」「消えろー」というブーイングが起きる。男子学生が舞台から降りると僕の番だ。



 僕は首にマフラーをして、手にも手袋をして、冬服の女子の制服で現れる。もちろん琴葉ちゃんのメイクはばっちりだ。



 途端にブーイングが止み、シャッターを切る音だけが聞こえる。僕は舞台の端まで歩て2回ターンして決めポーズをすると、廊下のほうで見ていた瑞希おばさんと雅之おじさんの口から感嘆の言葉が出る。



 僕は急いで、舞台から降りて、制服を着替えて、カーディガンに白のV字のニットにスキニーデニムとブーツに履き替えて、舞台に出る。すると、舞台横から明日香の声が聞こえた。僕は明日香を舞台の上に乗せる。明日香の服装はパーカーにスキニージーンズを履き、上からMA-1を羽織っている。



 2人でジェンダーレスの恰好だ。僕達2人は兄妹なので、とても顔がよく似ている。その2人が舞台の上を手を繋いで歩いていく。



 教室内と廊下側の窓がからシャッター音の嵐が聞こえる。皆、真剣だ。



 窓から見ていた葵さんと弥生さんからは「可愛い」「キレイよー」と言って大はしゃぎをしている。僕達2人は舞台の上を2回も歩き回って、大いにお客さん達を盛り上がらせた。そして舞台から降りる。一般の部の始まりだ。



 男子の衣裳部屋には真っ白のアルマーニにスーツを着た藤野健也が爽やかに笑っていた。靴も白だ。



「今回の主役の座は僕できまりだ。君に邪魔はさせないさ」



 キラリと光る歯がムカつく。



 舞台の上には薔薇の絨毯が敷き詰められていて、その上を藤野健也が投げキッスををしながら歩いていく。そして時々変なポーズを決めてはウィンクをする。女子生徒達の中から「健也様ー」「キャー素敵ー」「恰好いいー」という声が聞こえる。僕から見ればただの変態だ。



 藤野健也が敷き詰めた薔薇の掃除は誰がすることになるだろう? そんなことを考えながら藤野健也の独り舞台を観察していた。



 それから、続々と一般生徒のファッションショーは続く。琴葉ちゃんから男子更衣室へ来るように呼ばれた。僕は今着ている服を大急ぎで脱ぎ捨てていく。琴葉ちゃんが僕のボストンバックへ整頓して片付けてくれている。



 次の僕の服は黒一色の燕尾服に白い手袋だ。こんな服、いつ用意したんだろう。そして琴葉ちゃんがボストンバックの一番下に隠していた、僕が買って置いた指輪ケースをポケットの中へ入れる。そして優しくにっこりと笑った。



「今日、最後のショーとなりました。照明を全て白に変更。カーテンは全部全開にして」と莉子の指示が飛ぶ。



 舞台裏で、瑞希と目が合った。瑞希は純白のウェディングドレスを身にまとっていた。



 燕尾服を着た僕が瑞希をエスコートして、舞台を1周する。誰もカメラのシャッターを押す者はいなかった。舞台を1周して戻ると琴葉ちゃんが神父の恰好をして立っていた。



「蒼大ちゃん、あなたはここにいる瑞希ちゃんを、 病める時も、健やかなる時も、 富める時も、貧しき時も、敬い、慈しむ事を誓いますか? 」


「はい、誓います」


「瑞希ちゃんあなたはここにいる蒼ちゃんを病める時も、健やかなる時も、 富める時も、貧しき時も、 慈しむ事を誓いますか?」


「はい、誓います」



 琴葉ちゃんは小さな声で「指輪を指に差してあげて」と言う。僕はポケットから指輪ケースを出して、瑞希の左手クスり指に指輪を差した。ピッタリだ。



「誓いの口づけを」



 僕達2人は皆が見ている舞台の真ん中で長いキスをした。



 瑞希はキスが終わると「嬉しい」と言って涙を流し、涙が頬を伝って零れる。それを琴葉ちゃんがハンカチを持って顔を拭いてあげている。



「ファッションショーを最後まで盛り上げてくれた2人に大きな拍手をお願いします」と莉子が叫ぶ。



 すると教室の中、窓から身を乗り出している者、廊下にいる生徒から大歓声が起こった。



 僕は指輪を渡せたことに一安心したが、すぐに瑞希が抱き着いてきたので、僕は瑞希の腰に手を回して瑞希をギュッと抱き寄せた。



 皆からは「お幸せにー」「おめでとうー「素敵ー」などの大歓声が収まることがなかった。2年3組のファッションショーは大歓声のうちに幕を閉じた。



 藤野健也が舞台に上がってくると瑞希と僕を指さした。



「今日は見事だったよ。僕から見ても今回は完敗だ。来年、皆また会おう」



 そういって、舞台の上で見ている皆に大きく手を振った。



 以前から僕と瑞希が付き合えている噂は横行していたが、これがキッカケで全生徒公認のカップルとなった。

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