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66話 送り道

 学校から帰ってきて、私服に着替えて、瑞希に「バイトに行ってきます」と言って家を出る。路地を取って大通りに出て、駅に向かって歩いていき、喫茶店に着く。



 店の中にはマーくんとタッくんが座っていて、どんよりとした雰囲気が流れている。



 2人にどうしたのかと聞くと、僕と芽衣が休んでいる間、マーくんとタッくんが僕達の代わりにティッシュ配りやホール周りをしたのだが、マーくんとタッくんの厳つさに、店の客は逃げてしまい、思うように売り上げが上がらなかったそうだ。



 マーくんとタッくんに接客業なんて似合うはずがない。まず金髪にピアスの髪の毛をなんとかしてくるしかないだろう。でもマーくんは金髪の短髪だから処置なしだね。残念だけど。



 2人の相手もしているのも面倒なので、僕はティッシュの紙袋を6つ持って、ティッシュ配りのため駅前に行き、大通りの人が多く屯している場所でティッシュを配っていく。



 マーくんとタッくんがティッシュ配りを手伝っているが、段々と目が吊り上がってきて怖い。そんな怖い顔だったら、誰もティッシュなんてもらってくれないよ。



 僕は順調にティッシュを減らしていき、時々、見たことのあるお姉さん達に「こんにちは」と挨拶をしながら、ティッシュを配っていく。



 学校帰りの女子高生達も顔見知りなったので「こんにちは」と声をかけてくれる。僕も「こんにちは」と声をかけてティッシュを配っている。僕の周りでは皆が和気あいあいとしてる。



 マーくんとタッくんはどんよりとしたまま、駅の階段に2人で座っている。厳めしい顔をして通行人を怯えさせていないだけマシだ。そのまま落ち込んでもらっておこう。



 僕はマーくんとタッくんの分までティッシュを配っていく。OL風のお姉さんが「今度、一緒に遊ぼうね」と言ってティッシュをもらってくれる。「高校生をからかってはダメですよ」と笑ってOL風のお姉さんに手を振る。1時間半ほどでティッシュはなくなった。



「マーくん、タッくん、ティッシュ配り終わったよ。お店に帰ろうか」


「納得できねー。なんで蒼大のティッシュばかりもらわれていくのが納得できねー!」


「だって、仕方がないよ。マーくんは短髪の金髪にピアスでしょ。タッくんは長髪の金髪にピアスでしょ。どっちも厳ついもん。誰もティッシュを貰ってくれないと思うよ。ティッシュ配りをするんだったら、もう少し、髪の毛をどうにかしたほうがいいよ。厳ついよ」


「俺達、ちょっと髪の毛を切ってくるわ」と言って、駅の階段から立ち上がった。


「モールの中の2階に美容室があって、そこの葵さんに相談すれば、きれいな髪形にしてくれると思うよ」



 財布から割引券を2枚取り出して、ティッシュと一緒に渡す。



「蒼大の知り合いって言ってくれたら、、親身になってくれると思うから、必ず、僕の名前を出してね。僕の名前でわからないって言われたら、瑞希姉ちゃんの名前を出してくれたらいいいからね」


「「おう」」



 2人はモールのほうへ消えていった。2人共、モールへ行くのはいいけど、お金持ってるんだろうか。後から葵さんに請求されるのはイヤだよ。


 僕はティッシュを入れた袋を畳んで、1つの紙袋の中へ入れて喫茶店へ戻る。



 喫茶店では芽衣が大忙しにホールを回っている。僕がティッシュ配りから戻ってくると、芽衣が「ホール周りをお願い」と声をかけてきた。芽衣は僕の持っていた、紙袋を持ってカウンターの奥へ消えていった。



 店の中はケーキのショーケースが2つも増えていた。お客様達が嬉しそうにショーケースでケーキを選んで注文していく。一時潰れかけていたような店に見えない。今も満席で大繁盛だ。



 店は夜の8時まで満員だった。今までこんなことはなった。僕もマスターも驚いている。芽衣も帰るに帰れない。



 僕は瑞希に事情を説明して、今日は遅くなると言って電話を切った。芽衣もご両親へ連絡をしている。



 店の扉が開く音がした。入ってきたのはマーくんとタッくんだ。、マーくんは短髪ヘアーがきれいになってピアスも外されている。タッくんもウルフヘアーになり色も黒くなっている。2人共様になっている。



「俺達が後は代わってやるよ。」



 マーくんとタッくんの2人はエプロンを着けると、接客を始めた。カウンターの奥ではマスターが嬉しそうに笑っている。



 僕達はエプロンを脱いでカウンターの奥へ片付ける。そして店を出た。芽衣が信号を渡って帰っていこうとする。僕は後を追って「送って帰るよ」と声をかけた。初めは戸惑っていた芽衣も、照れながら「よろしく」と言う。



 信号を渡って、路地へ入り、真っすぐに進んでいく。僕達の家の近くのように入り組んだ路地ではない。真っすぐに続く1本道で外灯も多い。新しい住宅地なのだろう。



 僕はスマホを取り出して、瑞希に連絡をして芽衣を送っていることを説明する。途中で僕と芽衣が電話を替わって瑞希と電話で話をする。瑞希の承諾を得たので電話を切った。



「ゴメンね。送ってもらって、こんな時間になるとは思わなかったー」


「それは僕も同じだよ。まさかこの時間まで、お店が満員になるとは思わなかったよ」



 あのケーキのショーケースを思い出す。



「あのケーキって芽衣が全部作ってるの?」


「何、馬鹿なことを言ってるのよ。ケーキを作るのに何時間かかると思ってるの?」



 そうかケーキを作るのって時間がかかるんだ。いったいどれくらいかかるんだろう? 3時間くらいだろうか?



「昔ながらのケーキはマスターが作ってるわ。まだマスターが作り方を覚えてないケーキは卸屋から買ってきてるのよ。それでも少しは儲けがあるんですって。マスター「いつか私が全部作ります」と言って、張り切っていたわ」



 そうだったんだ。まさかケーキの卸屋があるとは思わなかった。



 僕は芽衣とブラブラと手を振りながら、道を歩いている。芽衣がふと僕の顔を見る。



「蒼大、前に私が蒼大に好意を抱いているという話をしたことを覚えているかな?」


「ああ、覚えているぞ。僕をからかっていた時の言葉だろう。覚えているよ。」


「相変わらず、失礼な男。人が真剣に言ってるのに冗談で聞き流すなんて」



 冗談じゃなかったんだ。それだと今も僕のことが好きなのか? 僕は無言になる。



「今でも蒼大のことは気に入っている。はっきり言って好きよ。しかし、瑞希先輩と付き合ってることも知ってるわ。莉子の話だと、ずいぶんと親密みたいだし」



 莉子、なぜそこで莉子の名前が出る。莉子、何も知らないはずだよね。なんで妄想を芽衣に語ってるの。



「私は蒼大のこと大好きだけど、彼女になりたいと思ってないの。どちらかと言えば親友になりたいかな。男子の親友って今までいないの」



 確かに男女間では成り立たないとう説と成り立つと説があるけど、どっちなんだろうか?



「私ね。本当は友達が少ないのよ。学年成績も3位でしょう。同じように勉強を教え合う友達もいなくて、教室の中でも頭いいって見られちゃうし、寄ってくるのは私の胸目当ての男子ばっかりで、いい加減、嫌になってたのよね。そんな時に蒼大が転校してきたの。はじめは咲良と引っ付けようとしてたんだけど、失敗に終わちゃったね」



 咲良の話を、今はしないでほしい。心が痛い。咲良が良い子だ。振ったのは僕の勝手な都合だ。僕は苦い顔をする。



「別に咲良を振ったことで蒼大を責めるつもりはないわ。だって蒼大には瑞希先輩がいたんだもの。仕方がないじゃない。蓮だったら2股しようとしてたかもね」



 芽衣の中で蓮の評価って最下層だな。



「だから、私は私と対等に話をしてくれる、少し頭のキレの良い蒼大みたいなタイプと親友になりたいの。わかった?」



「ああ、そういうことなら嬉しいよ。僕も芽衣によく相談して助けてもらってるし、親友は大歓迎だよ」



「良かった。これで成立ね。私のことは今まで通りに芽衣って呼んでね。私は蒼って呼ぶから」



 その呼び方、学校で波紋を呼ばないだろうか。主に咲良のいる前では危険なような気がする。



「私が適当に咲良に言っておくから心配しないで。ここが私の家よ」



 芽衣の家を見ると2建ての現在風の大きな建物だった。セキュリティーも付いている。



「私、家の中に入るから、今日は送ってくれてありがとうね」



 芽衣は手を振って、家の中へと入っていった。それにしても大きな家だな。



 僕は路地を真っすぐと大通りへ帰る。そして大通りの信号を渡って、ゆっくりと歩いていると、突然、僕の腕に腕を巻かれた。瑞希だ。僕にもたれかかって、にっこりと笑っている。待っていてくれたんだ。



 僕は何も言わず、瑞希の額にキスをした。2人寄り添って暗い路地を歩いていく。

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