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65話 月明りの夜

 瑞希と僕は夕飯を食べた後、お風呂に入ることになった。2階の部屋に行ってパジャマを取り出して、1階の脱衣所へ向かう。洗濯機の中へ制服を突っ込もうとすると、赤い三角形の布地があった。今日の瑞希のパンティは赤だったのか。僕の頭の中で妄想が広がる。なんてエッチなんだろう。



 思わず、赤い布を取り上げようと無意識に手が動くが、理性でなんとか抑え込んで、制服を洗濯物の中へ突っ込む。そして僕は裸になると風呂場へと入っていった。いいお湯だった。きちんとトリートメントもコンディショナーも使う。顔を洗う時は洗顔ソープだ。これで髪と体は完璧だ。そして湯舟に浸かって今日の疲れを癒す。



 喫茶店のウェイターとはいえ、始終立ちっぱなしで、お客様の視線を感じていなくてはいけない。結構、精神にくるもんだ。僕は湯舟に入ってゆっくりと体をほぐしていく。お湯が気持ちいい。今度、入浴剤でも買ってこようかな。



 僕は風呂場から出てバスタオルで体を拭いて、パジャマに着替える。「2階で勉強しているから、瑞希もお風呂に入ってね」と声をかけて、2階の自分の部屋へ行き、机の前に座る。瑞希だけに受験勉強をやらせるわけにはいかない。僕も瑞希と同じ大学に入るためには、少しでも良い成績をとっておかないと。



 僕は真剣に参考書に取り組んでいく。わからない所は参考書に書き込まれた瑞希の要点を読んでいく。それだけでもずいぶんと勉強がはかどる。



 部屋の扉が開いて、瑞希が部屋の中へと入って来た。なんと純白のネグリジェだった。僕は思わず噴き出した。確かに似合っているけど、可愛いけど、セクシー過ぎると思う。僕は今日、寝ることができるんだろうか。



 瑞希は部屋の隅に置いてある、パイプ椅子を持って、僕の隣に座る。僕はネグリジェが気になって、勉強どころではない。



「そのネグリジェどうしたの? 可愛くてきれいでセクシーだけど、1人で買いにいった訳じゃないよね」


「当たり前よ。私1人だと恥ずかしいじゃない。今日の帰りに美咲達とモールに寄って、皆でネグリジェを買ったのよ。みんなも蒼ちゃんに見せるって張り切ってたわよ」



 ある意味パラダイスになると思うけど、僕の頭に今、詰め込んでいる勉強の記憶が全てパーになりそうだよ。皆で何を考えてるの。



「だって、美咲達はせっかく買っても見せる人がいないって文句ばっかり言うんだもん。仕方がないわよ」



 それで瑞希も許したんですか? 以前とずいぶん性格が変わりましたね。僕の危機はかわりませんが。とりあえずこのことは今は無視しておこう。勉強のほうが大事だ。



 僕は勉強に集中して、なるべく瑞希を見ないようにする。それにしても瑞希から石鹸とシャンプーの良い香りがする。この香りには弱い。気持ちよくなってくる。



 それでも僕は勉強を続ける。わからない所があれば、すぐに瑞希が教えてくれる。丁寧な解説付きだ。勉強が嘘ようにはかどる。瑞希が教えてくれたからこそ、学年順位17位になれたんだなと痛感する。



 時間はあっとう言う間に過ぎた。既に時間は夜の10時になっている。これから就寝しないと、夜中に起きて受験勉強をしている瑞希にも負担があかかる。



 2人で部屋の電気を消して、間接照明だけにして、ベッドの中へ入る。僕としては瑞希の着ていたパジャマも肌触りが良くて気に入っていたんだけどな。ネグリジェだと、抱き寄せていいものか、胸がドキドキする。



 瑞希が僕の首に手を回してギュッと抱き着いてきた。そして耳元でささやく『腰を持ってギュッとして』僕は言われるがままに、腰に手を回してギュッと抱きしめる。パジャマの時より腰回りが細くなったように感じる。とても女性らしく感じる。背中をさすると布1枚であることを実感して緊張する。



 瑞希は面白そうに僕の顔を見てクスクスと笑う。『蒼が必ずビックリして緊張するよって、美咲が言ってたけど本当だね。反応が新鮮で楽しい』



 瑞希に悪知恵を教えたのは美咲姉ちゃんか。本当に人をからかうのが好きだな。困った癖の人だ。



「蒼は、今の喫茶店のバイトを続けるつもりなの?」


「僕は帰宅部だからね。家にいても勉強するしかないし、お金も貯めてみたかったからも少し続けようかなと思ってる」



 僕は父さんの遺産と保険金を持っているから、お金には苦労していないが、自分で稼いだお金というのは一味違う。自分で稼いだという実感がある。



「柏葉芽衣さんも同じなの?」



「それはわからない。柏葉はマスターの相談役だからね。ケーキのレシピの相談もするだろうし、軽食を作る話も出ているみたいだよ。芽衣のことは芽衣に任せているから、僕ではわからないよ」



「芽衣さんと蒼がくっつくってことはないよね」


「それはあり得ないよ。僕のことを好きだったのは咲良だからね。芽衣はそれを応援していたくらいだから、それはないと思うよ。以前から色々と相談に乗ってもらっているから仲はいいけど、そこまでだね。妬いてるの?」


「ちょっと妬いてる。だって私といない間、芽衣さんに独り占めされるかもしれいないんだよ」



 瑞希さん、マスターの存在を完全に忘れてますよね。ただでさえ影の薄いマスターなのに、存在まで消されるなんて不憫すぎる。それに本当に僕と芽衣がそんな間柄じゃないから安心してほしい。



「蒼は瑞希の大切な宝物なの。失ったら生きていけないんだからね。きちんと理解してね」



 僕も瑞希は大切だ。失ったら心に穴が開くだろう。そのことは誰よりもわかっているつもりだ。だから、そんなことはしない。絶対にしないから安心してほしい。



僕は布団の中へ潜って、瑞希の胸に顔を埋めて眠りについた。いい香りが僕を包む。この香りが一番、落ち着く。僕はすぐに微睡んでいく。



 夜中にトイレに目がさめると、ベッドの隣に瑞希の姿はなかった。自分の部屋で勉強しているのだろう。僕はトイレにいった後に、瑞希の部屋へ入っていく。瑞希は凄い集中力で勉強している。さすが受験生だ。部屋の隅にあったパイプ椅子を瑞希の机の横に置いて、僕も瑞希の問題集を見ていてく。まるでわからない。高校3年生になったら僕もわかるようになるんだろうか。少し不安になってきた。



 瑞希は集中力を途切らせない。問題集をやって、要点をまとめてノートに写して、参考書にマーカーをひいて、注釈文を書き込んでいく。瑞希の参考書は真っ黒だ。さすが受験生の勉強方法だ。ムダがない。



 ウツラウツラした目で瑞希の横顔をジーっと見る。真剣な顔の瑞希もきれいだな。僕はそっとパイプ椅子を片付けると自分の部屋へ戻った。瑞希の勉強の邪魔したくなかった。



 1人でベッドに横になる。ベッドがやけに広く感じる。いつもの良い香りがない。僕は布団をかぶって眠ろうとする。でも、目が冴えて眠れない。困ったもんだ。



 するとベッドの布団が開けられて、瑞希が布団の中へ入って来てくれた。



「1人で眠れなかったんでしょう。蒼はいつまでたっても甘えん坊ね。」そう言いながら、僕の腰に手を回して、瑞希は僕の体を引き寄せる。



「声をかけてくれても良かったのに。蒼が隣で座ってること知ってたよ。いつ話しかけてくるのか待ってたら、自分の部屋に帰っちゃった。私のこと気遣ってくれてありがとう」



 だって、受験生の勉強の邪魔はさすがにできないよ。



「それにしても凄い集中力だったね。何時から勉強してたの?」


「夜中の12時半ごろからだから、約3時間ね。今日はもう終わったよ。一緒に寝よう。」



 僕は瑞希と見つめ合って、うんと頷いた。すると瑞希が唇を合わせてきた。キスっていつも特別に感じるのは僕だけだろうか。僕と瑞希はキスをいつまでも続ける。瑞希の目がウットリとして目が潤んでいる。



「瑞希、今日も色々とありがとう。僕を色々と支えてくれていて僕は嬉しいよ。毎日ありがとう」


「私は蒼といるだけで幸せ。蒼の世話をしているのが幸せなの。だからありがとうは禁止」



 カーテンから洩れる月明りに照らされた僕達2人は抱きしめ合ったまま、何回もキスをした。

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