58話 苦しい言い訳
瑞希と僕とお姉ちゃんズは、僕の家に行くために歩道を歩いている。お姉ちゃんズは初めて僕の家に訪れることもあって、興奮して皆で嬉しそうに騒いでいる。
瑞希が不安そうな顔で僕を見る。
”蒼、ごめんなさい。私の軽率な行動で、こんなことになちゃって”
僕は瑞希の頭を撫でる。
”瑞希の責任じゃないよ。お姉ちゃん達を僕も止められない”
瑞希は首を横に振る。
”絶対に隠し通せないよ”
僕は真剣な眼差しを向ける。
”それでも隠し通すんだ。バレたらヤバい”
瑞希が涙目をコクリと頷く。
”頑張るけど、絶対にバレるよ”
僕もコクリと頷く。
”ですよね~”
僕と瑞希は大きくため息を吐いた。美咲姉ちゃんがジト目で僕達を見る。
「あのさ、2人で甘い空間を作るのはいいけど、皆が周りにいることも忘れないでよね、お二人さん」
別に甘い空間を作っていたわけじゃないよ。緊急事態だから相談してたんだよ。とにかくどうにかバレないようにしないといけない。
僕は背中からイヤな汗が流れるのを感じながら必死に笑顔を作る。
「ねえ、瑞希、お姉ちゃん達が正式に瑞希の代役をしてくれること、雅之おじさんに報告しておいたほうがいいんじゃないかな?」
「そうよね。家も隣だし、皆、蒼の家に行く前に、私の家に寄っていかない? 蒼の妹もいるから楽しいわよ」
恵梨香姉ちゃんが不思議そうな顔をしてみる。
「それっておかしくない? 蒼ちゃんの家があるのに、なぜ、蒼ちゃんの妹が、瑞希の家に住んでるの? それってやっぱりおかしいよ」
瑞希、明日香のこと言っちゃダメでしょう。それはおかしく思われるよ。瑞希がアワアワと手を振っている。相当に焦っているようだ。
「明日香ちゃん、まだ中学生だから、保護者が近くにいたほうがいいということになって、私の親が保護者の代わりをしてるのよ。だから、私の親が保護者なの。おかしくないでしょう。」
「そう言われたら、おかしくないような気もするけど、なんか、ごまかされたような気がするな」
恵梨香姉ちゃんがジト目で瑞希を見ている。あれは絶対に疑われてる目だ。
「明日香ちゃん、蒼に似ていて、中学でも人気の美少女なのよ。皆、会ってみたくない? 今ならすぐに会えるよ。可愛いよ。女の子だから、いくらでもお触りOKだよ」
瑞希、明日香を生贄にするつもりだね。でも、今は緊急事態だから仕方がない。よく言った、瑞希。
「んー、瑞希の家は蒼ちゃんの家の隣だから、これからもよく、蒼ちゃんの家に行くから今はいいかな。早く蒼ちゃんの家を見てみたいし」
楓姉ちゃんが瑞希の提案をバッサリと切り捨てた。皆も頷いている。
楓姉ちゃん、そんなに僕の家を見たいんだ。この調子だと、僕の家の隅から隅まで、観察されそうだ。危険だ。なんとか回避したい。
凛姉ちゃんがにっこりと笑う。
「男の子の独り暮らしの家に行くなんて初めてだな。少し興奮する。どうせ蒼ちゃんのことだから、きちんと片付けしていると思うけど、掃除などもしないといけないだろうし、色々手伝うことがあるだろうな」
瑞希が毎日、掃除、片付けをしているからきれいなものです。瑞希は目を白黒している。
「私が毎日のように掃除や片付けしてきたから、蒼の家はきれいだよ」
美咲姉ちゃんがニヤニヤ笑う。
「瑞希はわかってないね。蒼ちゃんは独り暮らしなんだよ。部屋にどんなお宝が隠してあるか。気になるじゃない?」
僕の部屋で物色するつもりだ。これはヤバい。変な本は持っていないけど、何を発見されるかわからない。部屋には入れたくない。美咲姉ちゃん、そんなにいたずらっ子みたいな目をしないで。怖いから。
僕達とお姉ちゃんズが騒いでいる間に家に着いた。瑞希が自然な動きで鍵を開けて、玄関へ入る。その行動を見て、お姉ちゃんズが驚いている。
「瑞希、手慣れてるわね。なぜ蒼ちゃんの家の鍵を持ってるのかな? それに自分の家に帰ってきたみたいだったよ」
凛姉ちゃんからツッコミが入る。今の瑞希の行動は誰でもツッコミたくなるよね。ウカツだよ、瑞希。
「あー、私、毎日蒼の家に掃除に来てるから、父さんと母さんから合い鍵を預かってるだけよ」
凛姉ちゃんが疑いの視線を向ける。とにかく玄関へ入ろう。僕達は家の中へ入る。お姉ちゃんズをリビングへ通して、リビングのソファに座ってもらう。
「へえ、蒼ちゃんの家って、建物自体は古いけど、中はきれいなのね。瑞希が掃除と片づけをしてるから、部屋はきれいだわ。埃一つない。快適ね。それに芳香剤の匂いでいい香りがする。まるで女子が住んでるみたい」
楓姉ちゃんが僕の家の感想を言う。はいそうです。だって瑞希の家でもあるからね。
「僕、制服を着替えないといけないから、お姉ちゃん達はリビングにいてね。瑞希もリビングで一緒にくつろいでいてよ」
口早に瑞希に言って、瑞希の行動を止める。瑞希、今、2階の自分の部屋へ行こうとしてたよね。皆の前では瑞希の部屋はないことになってるんだから、バレるような行動はやめようね。今日は制服姿でいてください。
自分の部屋に入って、制服を着替えて私服になる。そして部屋の中に瑞希の痕跡がないか確かめる。よし何もないな。これだったら何とかなる。
僕は2階から降りて、脱衣所へ行く。そして風呂場と脱衣所にバレる品がないか調べる。あった。瑞希の歯ブラシ、これはマズイ。風呂場にもトリートメントとコンディショナーがあった。洗顔ソープもヤバそうだ。僕はそれをかき集めて、洗濯機を開けて、その中に放り投げる。その上に汚れてた洗濯物を入れて、上から見えないようにする。完璧だ。
瑞希が皆にアイスティーを出している。そして僕の分のアイスティーをリビングのテーブルの上に置いた。その瞬間に僕は噴き出した。なぜ皆のコップはお客様用で瑞希と僕のコップはペアなんだよ。それってバラしてるのも一緒じゃん。瑞希、隠す気あるのか。
美咲姉ちゃんが僕と瑞希のカップを見ている。
「なぜ、瑞希用のカップがあるのかな? ここ蒼ちゃんの家だよね?」
「ん、それは私が毎日、掃除や洗濯に来てるからだよ。自然でしょ。何もおかしくないわよ」
おかしくないけど、言い訳が苦しいよ。自然なようで自然じゃない。美咲姉ちゃんの目が段々と疑いの目になってるよ。
「まー、蒼ちゃんと瑞希は仲がいいから、瑞希の物があっても不思議じゃないけどね、でもペアって、あなた達、まだ付き合ってないんでしょ。なんだか順番が違うような気がするんだけど」
恵梨香姉ちゃんがアイスティーを飲みながら、上目遣いで疑いの目を向けてくる。言うこと、全て当たっています。恵梨香姉ちゃんの目も疑いの色が濃くなってきた。
凛姉ちゃんと楓姉ちゃんが視線を合わせて頷いている。2人が何も言わずに台所へ行く。そちらには何も変な物は置いてないはずだけど、食器棚を見るのはやめてー。ヤバすぎる。
凛姉ちゃんが口を覆っている。楓姉ちゃんが食器棚からペアの茶碗とペアのお皿などをテーブルに出してくる。恵梨香姉ちゃんがテーブルに走っていく。美咲姉ちゃんが視線で”これは何かな?”と聞いている。
瑞希の額から冷や汗が噴き出している。
「それね。蒼、1人で夕食なんて可哀そうでしょう。だから一緒にここで、私が一緒に食べることにしていたの。だから食器が必要で。2人で買い物に行ったから、自然とペアになっちゃった」
瑞希、ナイス、その言い訳なら成り立つな。咄嗟の頭の回転は流石です。僕だったら慌ててたよ。
「フーン、なるほど、瑞希はこの家で、毎日のように2人で夕食をしていたわけね。まるで奥さんね。まるで同棲してるみたいとも言えるけど」
恵梨香姉ちゃんが2階へ走って、僕の部屋へ入っていく。僕は必死で追いかける。
「勝手に僕の部屋へ入らないでー!」
恵梨香姉ちゃんは僕の部屋に入って、色々と観察する目で見ている。
「へえー片付いた部屋ね。それに良い匂い。男の子の部屋とは思えないわね」
そう言いながら、僕の部屋の窓の鍵を開けて、窓を開けた。あー洗濯物がー! 恵梨香姉ちゃんが嬉しそうにバスタオルに包んでいる洗濯物へ手を伸ばす。そしてバスタオルを開けた途端、瑞希のパンティとブラジャーを発見する。恵梨香姉ちゃんは目を吊り上げて、瑞希のブラジャーとパンティを手に取って、僕に迫って来る。
「これは何かな? 蒼ちゃん。女装趣味でもあったのかな? サイズ的には瑞希のものだと思うんだけど、なぜ、蒼ちゃんの家に瑞希の洗濯物があるんだろう?」
「それはね。瑞希に洗濯してもらっているからだよ。だから僕は何が干してあるか、知らないんだ」
苦しい言い訳に冷や汗が背中に流れる。恵梨香姉ちゃんの視線が”絶対に信じない”と言っている。たぶん、恵梨香姉ちゃんの立場に僕もいたら、信じないだろう。
「キャーーーーー!」
楓姉ちゃんの悲鳴が聞こえた。すぐ近くだ。マズイ。僕は部屋を出て廊下に出る。恵梨香姉ちゃんも付いてくる。楓姉ちゃんが僕の隣の部屋、つまり瑞希の部屋を指差して固まっている。完全にアウトだ。バレた。
「蒼ちゃんの部屋に行こうと思って、部屋を間違えて開けたら、女の子の部屋があったんだけど、蒼ちゃんどういうこと?」
「あーそれは明日香の部屋だよ。一応、妹の部屋だからね。あんまりジロジロと見ないであげてくれるかな」
恵梨香姉ちゃんが目を吊り上げて僕に迫って来る。
「さっき、明日香ちゃんは瑞希の家に預けられてるって言ってなかったかな?」
「一応、ここは明日香の家でもあるから、荷物はこの家に置いてあるんだよ」
僕と恵梨香姉ちゃんが言い合いをしている間に、楓姉ちゃんが瑞希の部屋に入っていく。やめてー。入らないんでー。
楓姉ちゃんが部屋から大学入試の参考書を持って出てきた。
「これ明日香ちゃんの部屋だよね。なぜ、大学入試の問題集があるの? それもいっぱいあったよ。明日香ちゃん、まだ中学生だよね。それに問題集に書かれている文字、全部、瑞希の文字なんだけど・・・・・・」
後から視線を感じて振り返ると、腕を組んだ、凛姉ちゃんと美咲姉ちゃんがいる。その後ろでは瑞希が涙を溜めている。これで完全に詰みだ。
美咲姉ちゃんが何も言わず、怒った顔で僕の部屋へ入っていく。今度は何を探し出してくるつもりだろう。しばらくして美咲姉ちゃんが廊下に戻ってきた。目は完全に怒っている。
「ねー蒼ちゃん、なぜ蒼ちゃんのベッドから瑞希の匂いがプンプンするのかな? 今度はどういう言い訳する気かな?」
もう言い訳は通じそうにない。全てを話すしかないだろう。
僕と瑞希はお姉ちゃんズにリビングへ連行されるのだった。




