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56話 恋の分岐点ー瑞希side

千堂瑞希視点です。

 いったい私はどうしちゃったんだろう。何が不安で泣いているのだろう。もう心が滅茶苦茶でわからない。



 琴葉ちゃんが靴箱の所へ来てくれて、私を介抱してくれて保健室まで連れてきてくれた。本当にありがとうと思う。だってあの状態で授業なんて受けられなかったから。



 それにしても最近の私はおかしい。すぐ泣いてしまう。昔の私はこうではなかった。少なくともすぐに泣く子ではなかった。



 生徒会長をしている時は、凛々しく、清楚で誰にでも、愛想がよく、人前では優しく笑って、品位のある行動をして、皆の手本になるように頑張ってきた。その結果、学校でも優秀な生徒会長として先生達に褒められ、生徒達から慕われる存在だった。



 それなのに蒼が転校してきてから、私の歯車が狂いだした。そのことで蒼を嫌いになったりできない。全て自分の責任だから。それに情緒不安定になっているのは私の心だから。



 蒼との生活はどこまでも甘く、どこまでも優しく、どこまでも楽しく、私はその生活に溺れてしまった。そのせいで、蒼がいなくなったら、生きていけないとさえ思うようになってしまった。そのことから、私は嫉妬深くなってしまったんだと思う。



 今日の朝の出来事も、家から校門まで2人寄り添って、2人で甘い空間の中で癒されて、私は幸せに満ちていた。そこで美咲、恵梨香、楓、凛が乱入してきて、私と蒼をからかっただけだ。それだけのことなのに、蒼を取られる。蒼と奪われると思って、パニックになって泣き出したのは私だ。



 今までの私なら甘い空間にどっぷり浸かろうとせず、節度を考えて、校門の近くで腕を絡めて登校するような暴挙にでるようなことは絶対になっかった。常に他人の目や常識と照らし合わせて、甘い空間に溺れることなんてなかった。変わったのは私。



 蒼は「僕は瑞希のモノだよ。そして瑞希は僕のモノだよ」と言ってくれていたのに、勝手に感情が暴走してパニックを起こしたのは私。



 今、保健室のベッドで寝ていて、1人で考えていると自分の感情の幼稚さが、はっきりとわかってイヤになってくる。



 昨日もそうだ。ベッドに寝ていた蒼を誰にも渡したくなくて、蒼が眠っている間に蒼の鎖骨や胸元、首筋にキスマークをつけて、自分のモノと皆にアピールしたくなったのは私。



 そして蒼にキスマークを付けられている時に、自分が蒼のモノだと確信が持てて、幸せに浸っていたのは私のほう。蒼は私に誘われて、誘惑されて、私にキスマークをつけただけ。



 おかしいのは私、いったいどうしちゃったんだろう。自分でも自分の行動がおかしいことはわかっている。



 藤野健也の家に行った時から、早く私は蒼のモノになりたくなった。だって蒼のモノになれば藤野健也に付きまとわれる恐怖から解放されるから。そして蒼を私のモノにしたくなった。蒼を私のモノにすれば、藤野健也が私に近づくことがないから。その心が芽生えてから、私の行動は段々とおかしくなり、私の感情もおかしくなってきている。




 藤野家に行ってから、変な方向へ思考が働いて、変な思考が私の中に芽生え、私は感情を今まで以上に押さえられなくなった。今の私は冷静じゃない。こんなの私らしくない。いったいどうしたんだろう。



 わかっていることは、蒼が恋しい。蒼がいないと太陽が沈んで暗闇の世界に迷い込んだようだ。私の心が晴れることはない。しかし、蒼がいれば、常春の温かさの中で優しさと甘さに包まれて私は安心できる。私はその中で安心して、蒼に甘えて、蒼を愛して暮らしていけるのに。



 今の私は、少しでも蒼の近くに女性が近づくと、自分が捨てられるのではないかと思ってしまって、心に穴が開いたようになって。氷の世界を1人で裸足て歩いているような孤独と寂しさを覚える。それがほんの一瞬のことなのに、そんな気持ちに支配される。



 蒼が私を捨てるはずがないとわかっているのに、そんなことを考えてしまう。そして寂しくて蒼を独り占めしたくなる。そのことで、蒼に近づいてくる女子、それが私の友達であっても、蒼を取られるような気がして、心に余裕がなくなる。それが今の私。



 1人でベッドに寝ていると自分のおかしさがよくわかる。おかしいのは私だ。



 カーテンが開いて、琴葉ちゃんがベッドの近くにやって来る。そして椅子に座った。そしてため息を吐いている。



「少しは頭が冷えたようね。最近の瑞希ちゃんは少し変だと思って、注意してみてたんだけど、ここまでおかしくなっちゃうとは思わなっかったわ。思春期の恋って、やっぱり病気ね。コントロールなんてできないものね」


「琴葉ちゃん、私はどうなっちゃったんですか? 琴葉ちゃんならわかりますよね。教えてください」



 琴葉ちゃんが困ったような顔で私を見る。



「これを私が言って、瑞希ちゃんが納得するとは思えないけど、瑞希ちゃんはもう、蒼ちゃんのお姉ちゃんをすることは無理なの。もう恋に溺れて、蒼ちゃんの優しさに溺れて、以前のようにお姉さんになれなくなったのよ。そして恋と言う嵐に巻き込まれ、小舟の中で必死に蒼ちゃんの名前を叫んでいるのが瑞希ちゃんの本当の姿よ」



 琴葉ちゃんの言葉が私の胸に突き刺さる。お姉ちゃんをしていくのはもう無理なんだ。



 そう思っても、別に落ち込むことはなかった。蒼も成長してきてるし、頼れる男子に変わろうとしている。私は蒼の成長を心から喜んでいる。だって、私も蒼に頼ることができるんもん。そこまで考えてハッと自分の口元を押える。



 私はいつの間にか、蒼に頼るようになっていたんだ。だから蒼がいなくなると暗闇の海の中で、1人小舟の中に取り残されたような孤独感に襲われていたんだ。いつの間にか立場が逆転していた。そのことを私が見落としてしまっていたんだ。



 琴葉ちゃんは言いにくそうに言葉を紡ぐ。



「今に瑞希ちゃんはお姉ちゃんではないの。蒼ちゃんがお兄ちゃんで、蒼ちゃんを慕って、頼っている幼い瑞希ちゃんに戻ってしまったの。それは蒼ちゃんの成長も関係してるし、この間から続いた健也くん絡みの件が大きく拘わってるわ。その中で瑞希ちゃんは蒼ちゃんに助けてもらった。窮地を救ってもらって、それが原因で加速したのね」


「琴葉ちゃん、私はどうしたらいいの。どうしたら昔の瑞希に戻れるの?」


「それは今すぐには無理ね。時間が経てば、少しづつ元に戻ると思うけど、私も精神科医じゃないから、専門的なことはわからないけど・・・・・・それよりも瑞希ちゃんはお姉ちゃんに戻りたいの? 蒼ちゃんの彼女になりたいの? どちらかはっきりさせたほうがいいと思うわ」



 私はベッドの中へ潜り込む。顔を見られたくない。



「蒼のお嫁さんになりたい。蒼の彼女になりたい。蒼の全てが欲しい。蒼に私の全てを求めてほしい」



 琴葉ちゃんが髪の毛を掻いている。



「独り身の私に聞かせないでほしいわね。あたながおかしくなっているのは、蒼ちゃんにメロメロになり過ぎているせいよ。だから自分の感情をコントロールするなんて、冷静で客観的なことを今の瑞希ちゃんには無理ね。どうやったら、そこまで恋ができるのか、私も教えてほしいくらいね」



 私は布団の中から顔を半分だして、琴葉ちゃんに聞く。



「もし、蒼に告白されたら、この恋の病は直るかな?」


「それは無理でしょうね。でも、蒼ちゃんから告白されることで、瑞希ちゃんの心が満たされるのは間違いないわ。でも、その幸せを壊されたり、盗まれたりしないように、嫉妬に狂う可能性が大きいわ。今でさえ仲の良い友達でさえ、信用できなくなっているのに、告白をされたら、もっと嫉妬に身を焦がす可能性が高いわ」



 私は琴葉ちゃんに何も言い返せない。琴葉ちゃんの言葉が真実だとわかっているから。今でも美咲達に嫉妬しているのに、告白されて彼女になれば、私は蒼のことをもっと縛ろうとするだろう。絶対にしてしまう。そして、蒼を奪われないでおこうと思って、蒼と夢中にさせようと思って、私は平気で一線を越えるだろう。



「私はね瑞希ちゃんも好きだし、蒼ちゃんも好きなの、2人には可愛いカップルになってほしいわ。そのためには瑞希ちゃんが、自分が愛されているという自信を持たないといけないわ。どんなことがあっても蒼ちゃんは瑞希ちゃんとの約束を守って、瑞希ちゃんの元へ帰って来るんだっていう、蒼ちゃんへの信頼が必要よ」



 そうか私は恋に溺れて、蒼を信頼することも、信用することもできなくなっていたのか。それに自分の友人達を信頼、信用することもできなくなっていたのね。心がすごく狭くなっていたんだわ。こんな状態が長く続くようだったら、皆に見捨てられても当然ね。私が間違っていた。美咲達にお姉ちゃんを任せて、蒼をもっと信頼、信用して、私は蒼の彼女になって、そのことに満足して、それ以上、望まなけれ良かったんだ。



「頭の良い、瑞希ちゃんだから、もう気づいたと思うけど、瑞希ちゃんのするべきことは、瑞希ちゃんを愛してくれる人達を信用、信頼することよ。それができるようになれば、段々と元に戻っていくというか、もっと良い女性になっていくわ。今はその分岐点ね」



 そうか今が分岐点なのか。私も変わらないといけないんだ。もっと蒼に尽くすために、もっと蒼を大事にするために、もっと蒼と愛するために、自分を成長させないとダメな時期にきちゃったんだね。



「蒼ちゃんも成長しようと必死なのよ。そして瑞希ちゃんへの愛が暴走しないように、自分で必死にコントロールしているわ。そのことは瑞希ちゃんも理解しているはずよ」



 そうだ。確かに蒼は、自分の感情が暴走しようとする時、私のことを「瑞希姉ちゃん」と言ってコントロールしようとしてる。そして、助けられるだけだった蒼が、私を助けるまでに成長している。私も自分をコントロールして成長しなくちゃ。



 保健室のドアが開いて、蒼が走り込んできた。そしてカーテンを開けて、私を心配そうに見る。

 


 琴葉ちゃんが蒼ににっこり笑って「今は随分と落ち着いてるから、話しても大丈夫よ」と言って、席をどいて、保健室の奥へと歩いていった。琴葉ちゃんの代わりに蒼が座る。



「私、感情がコントロールできなくて、蒼との恋に溺れてしまって、自分を見失ってしまっていたみたい。この間から変なことをしてゴメンね」



 蒼は何のこと? というように首を傾げる。私は小さい声で「キスマーク」というと蒼は顔を真っ赤にして俯いた。可愛い。



「私ね。今日の午後にでも美咲達に会いにいく。そして美咲達に、もうすぐ彼女になるから、お姉ちゃんができないことを伝えるね。でも蒼にはまだ、お姉ちゃんが必要だと思う。そして私には相談できる友達が必要だと思う。だから、美咲達に謝って、蒼のお姉ちゃんになってもらうことにする。そして私は蒼と美咲達を信用、信頼して暮らしていきたい。友達に嫉妬するような女性になりたくないから。私も変わらないといけないんだよ」



 蒼は何も言わずに私の言うことを聞いてくれていた。



「わかったよ。瑞希の好きなようにすればいいと思う。ただ1つ忘れてほしくないのは、僕が愛しているのは瑞希だけだよ。だから変な嫉妬はしないでほしい。もっと愛されてる自信をもってほしい」


「わかった。私が愛しているのも蒼1人だよ。だからこれからは自分のことばかりに集中するのはやめて、蒼のことをいっぱい愛するね。甘えたになっちゃってごめんなさい」


「甘えたの瑞希も新鮮で、僕は好きだったよ」



 蒼はそういって優しく頭を撫でて、笑ってくれた。



 保健室の向こうから琴葉ちゃんが大声を出す。



「瑞希ちゃんはもう少し休んだら、教室に戻すから安心してね。あ~さっきからエアコンをガンガンにしてるのに、保健室の中が暑すぎるわ。熱い熱い。私は独り身なのよ。独り身の私の前でラブラブイチャイチャして、私が寂しくなってきたじゃないのー! 蒼ちゃん、用事が済んだなら教室へ戻りなさいね。もうすぐ休憩時間、終わるわよ」



 蒼は私の額に優しくキスすると保健室から出て行った。私は蒼のことを想って目を瞑った。

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