54話 心を癒す
藤野家から帰ってきた僕達は、今回の一連の流れを雅之おじさんと瑞枝おばさんに説明をし、香織のお母さんの配慮で、全て解決したことを伝えた。
明日香は元気を取り戻して、明日から中学校へ通うという。雅之おじさんも瑞枝おばさんも喜んで、今日は瑞希の家で、皆で夕飯を食べることになった。夕飯は焼肉だった。雅之おじさんが奮発したようだ。
僕と瑞希はお腹がいっぱいになるまで焼肉を食べて、久しぶりの大人数での食事は楽しかった。
明日香は始終笑顔で、焼き肉を頬張って食べている。安心したのだろう。食べ終わってすぐにリビングのソファで寝息を立てはじめた。
僕と瑞希は雅之おじさんと瑞枝おばさんにお礼を言って、僕の家に帰った。リビングのソファに座ると、瑞希がぐったりともたれかかってくる。藤野家では始終、緊張していたもんな。疲れるのも無理ないや。
僕達はパジャマに着替えて、早めの就寝をすることにした。僕も疲れているので、今日は勉強は無理だ。
2人でベッドに入ると瑞希が可愛い顔をして僕を見つめてくる。
「今日は藤野家に行った時、とても怖かった。健也の顔を見た時、気絶しちゃうかと思った。でも、蒼が助けてくれた。蒼、助けてくれてありがとう」
瑞希が僕の額にキスをする。そして首に手を回して僕をギュッと抱きしめる。僕も腰に手を回して、瑞希をギュッと抱きしめた。
「僕も怖かったけど、瑞希と明日香を守らなくちゃって、必死で頑張った。自分でもよくやったと思う。もうクタクタだよ」
僕は瑞希の頬にキスをする。
「あんな一家が現実にあるなんて、それだけでも恐怖だわ。蒼に助けられて本当に良かった」
瑞希が僕の耳を甘噛みする。こそばゆい。僕は瑞希の耳元でささやく。
『香織のお母さんが味方をしてくれてるんだから、もう僕達の邪魔をする者はいないよ』
瑞希が僕と鼻が触れ合う位置で、僕を見つめる。きれいな瞳に吸い込まれそうだ。
「最近、蒼、少し変わったような気がする。今回は私も明日香ちゃんも蒼に助けてもらったし。前も蒼に助けてもらった。最近の蒼って、男らしくなってきたような気がする」
「なよなよしていて、ひ弱な僕のほうが良かったかな?」
瑞希が首を横に振る。そして上目遣いで僕をみる、その潤んだ瞳に弱いんだよね。
「最近、私思うんだけど、蒼を取ろうとする女子が多いような気がする」
「そんなの気のせいだよ。僕は瑞希のものだ。だから安心して」
瑞希が不安そうに瞳が僕を見つめる。
「蒼が恰好よくなると、他の女子に取られるんじゃないかって、最近不安で仕方ないの。2年3組の女子の間でも人気が高くなっていそうだし、美咲、楓、恵梨香、凛のこともあるし、いっぱい不安なの」
瑞希が僕の胸に飛び込んでくると、僕のパジャマのボタンが2つ外れて、僕の鎖骨が露わになった。
「蒼の鎖骨ってとってもきれい。女の子みたい。少し触っていてもいい」
鎖骨ぐらいなら構わないだろう。僕は「いいよ」と気軽にこたえる。すると瑞希は布団の中に潜って、指先で鎖骨を触りだした。こそばゆい。そして瑞希が僕の鎖骨に添って、キスをしていく。なんだかすごくエロいことをされているような気がする。
布団の中から瑞希が小さい声で語りかけてくる。
「蒼は私の宝物でいいの?」
「うん。僕は瑞希の宝物だと嬉しいな」
「ありがとう。蒼は私の宝物。だから蒼の体は私のものね」
何か不穏な言葉を聞いたような気もするが、僕も精神力がボロボロだ。限界に近い。気にしていられない。
瑞希は僕の鎖骨にキスの雨を降らせる。時々、急に吸われて痛かったけど、それも慣れてくると気持ちがいい。僕は目をつむり、気持ちよさに身を任せる。するとすぐに睡魔に襲われた。
首にチクッと痛みを感じて目を開けると、瑞希が僕の首にキスをしている。今日の瑞希はおかしい。よほど藤野健也のことが怖かったんだろうと、僕は的外れなことを考えていた。
時々、瑞希が首にキスをしているのに、チクとする痛みがする。僕は今日、藤野家に行った緊張で体中に力が入って、痛くなってるんだと思っていた。
すると瑞希は満面の笑みを湛えて、僕を見て「これで蒼ちゃんは私のモノ、いっぱい印をつけちゃった」と無邪気にいう。僕になんの印をつけたんだろう。僕はベッドからそっと立って、部屋にある姿見で自分の姿を見た。そして、茫然となった。
鎖骨の辺りから胸にかけて、いっぱいのキスマークが付けられている。そして首にも無数のキスマークが。
「瑞希、いたずらもいい加減にしてよ。これだと学校に登校できないよ。鎖骨についてるキスマークはいいけど、首についてるキスマークは取れないよ。どうやって隠せばいいんだ。こんなの見せて歩くなんて恥ずかしいよ」
「だって、蒼の体は瑞希のものでしょう。だから瑞希の印をつけてみたの。蒼が取られないように」
布団から顔を出した瑞希は可愛い顔をして唇から舌先をだして笑っている。これだけ可愛いと怒れない。
ベッドに滑り込むと瑞希の額を人差し指で押す。
「いたずらでも、これは酷いよ。こうなったら僕もやり返すからね」
瑞希は「いいよ。瑞希は蒼のモノだもん」と言ってパジャマのボタンを2つ外す。するときれいな鎖骨が露わになった。思わず見とれていた僕の腰に手を回して、瑞希がギュッと僕を抱き寄せる、そして耳元でささやいた。
『蒼が私の鎖骨が好きなこと知ってるもん。鎖骨ならキスしてもいいよ。胸はダメだからね』
僕の理性が吹き飛んだ。僕は布団に潜り込むと、瑞希の鎖骨にキスをする、とても肌がきめ細かくて、滑らかできれいだ。僕は鎖骨の周辺を丁寧にキスしていく。すると、いたずら心が沸いてきた。僕もキスマークを付けたい。キスをしながら、時々、肌に吸い付く。瑞希から小さな声が聞こえる。結局、僕も夢中になって、瑞希の鎖骨の周辺と胸の上の部分にキスマークをいっぱいつけてしまった。理性が戻った僕は「やってしまった」と後悔する。
すると瑞希が僕の頭に抱き着いてくる。
「とても気持ちよくて、心が蕩けちゃった。蒼、大好き。愛してる」
「僕も瑞希のこと愛してるよ。大好きだ」
2人でずっと見つめ合う
「蒼、私、今、告白してほしい。蒼のものになりたい」
僕も告白したいけど、今、告白すれば、僕達は歯止めが利かなくなるだろう。高校2年生の僕では責任を取れない。そんな責任を取れないことをして、瑞希を傷付けたくない。後、雰囲気に流されて行為がエスカレートするのが怖い。今日は告白はしないほうがいい。
「僕も告白して、早く瑞希を彼女にしたいけど、今日はダメ。歯止めが利かなくなるから。瑞希のことが欲しくなるから、今日はダメ。近々きっちりと告白するから、それまで待っていてほしい」
瑞希は僕の瞳を見つめていたがコクリと頷いてくれた。
「今日の私も変。蒼が欲しくてたまらない。今日、告白されていたら、蒼に全てをあげてもいいって思ってた。でも、それって私達の歳だとまだ早いよね。蒼も私も責任が取れないもの。だから今日は諦める。だから別の日に、きちんと告白してね。絶対に断ったりしないから。蒼、勇気を出してね」
僕はコクリと頷いた。
「私はまだ、藤野健也が怖いの。だから蒼、私を抱っこして、強く抱きしめて、離さないでいて」
僕は言われた通りに瑞希の腰に手を回してギュッと瑞希を抱き寄せる。すると瑞希も、僕の首に手を回してギュッと抱き着いてくる。
ベッドの上の間接照明を消して、僕達2人は不安を消し去るように抱き合って眠りについた。