50話 ご機嫌斜め
体育祭が終わり、僕達とお姉ちゃんズは校門を出た所で別れた。お姉ちゃんズはこれからスィーツ店で祝周会をするそうだ。僕と瑞希も誘われたが、瑞希の機嫌が非常に悪いため、今回はやめておくことにした。
お姉ちゃんズは必死に瑞希にからかい過ぎたことを謝ったが、瑞希の機嫌は直らない。その八つ当たりは僕のところまで飛び火した。
「だいたい、蒼に隙があるから、こんなことになるのよ」と頬を膨らませて怒っている。そんな顔も可愛いよ。
僕は瑞希の腰に手を回して、抱き寄せて、寄り添って2人で歩く。ここまで寄り添っても瑞希の機嫌は直らない。
マズイことになった。これは今日1日機嫌が直らないかもしれない。夕食抜きとか言われたらどうしよう。
お姉ちゃんズが僕の頬にキスしたことで、僕は一気に目立ってしまった。体育祭が終わった直後のグランドだったのが悪かった。ほとんど全校生にその場面を見られてしまった。瑞希の絶叫もそれに拍車をかけた。今回の体育祭では藤野健也の次に僕が目立ってしまったことになる。明後日から学校に通うのが憂鬱だ。
今はそんなことを考えている暇はない。瑞希の機嫌を直すことが先決だ。それにこれから長い間、瑞希と付き合っていくことになる。瑞希の機嫌を直す方法を、この機会に会得しておく必要がある。これからの平和な生活のためにも。
僕達は家に帰って自分達の部屋で体操服を脱いで、私服に着替えて、体操服を脱衣所へ持っていき、洗濯機の中へ入れておく。
そしてリビングのソファに隣同士で座った。
「瑞希、今回の件は悪かったよ。僕も体育祭で少し舞い上がってたんだ。瑞希のことを大事にしなかったこと、謝るから機嫌を直してよ」
「私は、蒼の彼女にもなりたいけど、お姉ちゃんも続けたいの。蒼のお世話をするのは私だもん。美咲、楓、恵梨香、凛になんか、蒼のお姉ちゃんになってほしくない。私が蒼を甘やかすの。蒼のことは全部、私がするの」
あー、まるで駄々っ子だ。自分が何で機嫌が悪くなったのかもわからなくなっている様子だね。これは困った。
僕は自分の膝の上に瑞希を寝かせて、膝枕をして背中をさする。まだ頬を膨らませている。僕は黙って背中をなで続ける。
「瑞希は僕にとって、瑞希でもあるし、瑞希姉ちゃんでもあるよ。だから、他のお姉ちゃんを欲しいとは思ってないから。瑞希さえいてくれたら、僕は幸せだよ」
「最近の蒼って口が上手くなったね。そんなこと言って、美咲達に頬にキスされていた時、喜んでたじゃない」
それは男の本能というものです。可愛い女子高生の先輩4人から、頬にキスをされたら、男子だったら誰でも喜ぶと思う。これは不可抗力で・・・・・・そんなことを言っても瑞希の機嫌を損ねるだけだし、黙っておこう。
「恵梨香と楓の頬にキスするなんて信じられない。私がいるのに、2人にキスするなら、その分を私にいっぱいキスして」
あーそれは恵梨香姉ちゃんのいたずらに乗ってしまったとうか、少し調子に乗ったというか・・・・・・反省します。
瑞希は僕の股間に顔を埋めて、顔をこすりつける。その動きは危険だからやめてほしい。刺激が強すぎます。
僕は瑞希の頭をソファに静かに置いて、ソファから立って避難する。どうしたら機嫌を直してもらえるんだろう。
そうだ、琴葉ちゃんも肩揉みをしたら、気持ち良さそうにしてたじゃないか。瑞希にもマッサージをしてあげよう。
「今日のことは反省してます。だからこれから瑞希にご奉仕します。瑞希はそのまま力を抜いて寝ていてね」
瑞希は不貞腐れてソファに寝たまま動こうとしない。これは好都合だ。僕は瑞希の脚のほうへ周る。そして瑞希のふくらはぎを揉んでいく。
「そこ痛い。痛い。もっと優しくして」
おっと、瑞希からクレームの声が上がる。僕は瑞希の言うように指と手の力を抜いて、ふくらはぎをマッサージする。今度は気持ちが良いようで、瑞希は目をつむっている。僕は段々とマッサージの箇所を太腿へ移していく。
すると「んっ」という声が瑞希から洩れる。そして瑞希はうつ伏せになった。僕はお尻を親指で押していく。
「お尻痛い。お尻痛い」と瑞希が呟く。僕は少し親指の力を抜いて押していく。足のとお尻との付け根の部分を丁寧に押すと「そこ痛い。すっごく痛い」と瑞希が叫ぶ。僕は丁寧にコリをほぐしていく。
お尻と腰の付け根を押すと瑞希が悲鳴をあげた。かなり痛そうだ。それだけコリがあるという証拠だろう。腰の周りを中心に、背骨に添って親指で押していく。そして背骨を中心に背中を上のほうへコリをほぐしていく。
肩甲骨の周りのコリを解していると、瑞希の顔が気持ち良さそうになってきた。呼吸も深くなっていく。そして肩を親指で力いっぱいに押す。瑞希は痛がりもしないで気持ち良い顔をしている。僕の顔から汗が滴り落ちる。
こんなにマッサージが肉体労働だとは思わなかった。整骨院の人やマッサージ師の人って肉体労働だったんだな。知らなかった。
僕はかなりの時間をかけて腰、背中、肩のコリをほぐしていく。それから瑞希の手の平を持って、親指で可愛い手を親指で押していく。すると瑞希は目をパチリと開けて「いたーい。痛すぎる」と叫ぶ。僕は押す力を緩めて、丁寧に押していく。そういえば手にはいっぱいのツボがあったんだよな。そんなに痛いとは思わなった。
手の平が終わったので手首から腕を5つの指で掴んで押していく。瑞希は気持ち良さそうに目を伏せている。最後に首を優しく押していく。はじめは痛がっていた瑞希だったが、途中から寝息に変わった。
全身のマッサージを終えた時には、瑞希はスースーと寝息を立てて、気持ち良さそうに眠っている。
僕は体から汗を拭きだしていた。こんなに汗をかくとは思わたなかったな。瑞希も寝ているし、今のうちにシャワーでも浴びてこよう。
2階の自分の部屋へ行って、着替えを持って、脱衣所にいく。体育祭でドロドロになっていたので、体を洗うのにも丁度いい。僕はシャワーを浴びてスッキリして風呂場を出て、リビングへ行く。まだ瑞希は眠っている。
瑞希を起こさないように注意しながら、頭を持ち上げて、僕は自分の膝の上に瑞希の頭を乗せて、膝枕をする。そして背中を優しくなでる。
近々、瑞希に本当に告白しなくちゃな。きちんとした彼女にしてあげないと、瑞希の精神衛生上よくないと思う。でも、僕は瑞希と名前呼びすると、お姉ちゃんと思えなくなって歯止めが利かなくなる時がある。
だから瑞希には時々でいいから、お姉ちゃんでいてもらう必要がある。お姉ちゃんと思えば、今のように歯止めが利くから、彼女だと思うと、瑞希のことが欲しくなってしまうかもしれない。僕達は高校生だ。それはマズイ。
美咲姉ちゃん、楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃんの申し出は、正直に言って嬉しい。きれいで可愛いお姉ちゃんがいっぺんに4人も増えるんだから、普通の男子だったら誰でも喜ぶと思う。だから断りにくい。
4人共、彼女になりたいと言ってるわけじゃないしな~。お姉ちゃんだもんな。僕は高校2年生だし、4人は高校3年生だし、友達というのもおかしい。やっぱりお姉ちゃんになっちゃうよね。瑞希には慣れてもらうしかないかな。瑞希も正式な彼女になったら、考えも変わるだろう。
葵さんもお姉ちゃんみたいなもんだし、琴葉ちゃんもお姉ちゃんみたいなもんだし、瑞希もこの2人には怒ったりしたことないし、お姉ちゃんが増えても、彼女が増えるわけじゃないから、大丈夫だろう。慣れの問題だ。それにあのお姉ちゃんズのことだから、僕のことを飽きる可能性もある。深く考えないでおこう。
僕も少し眠くなってきたな。少し休もう。僕は瑞希の体の上に自分の体を重ねて、眠りに落ちた。
台所からトントントンという音が聞こえる。とても良いリズムでトントントンと音が聞こえてくる。目を覚ますと、瑞希が台所で夕飯の用意をしていた。そっとソファから立ちあがって、瑞希の背後に近寄ると、瑞希がくるりと回転して僕の首に抱き着いて頬にキスをする。そして照れたような笑顔で僕を見る。
良かった。機嫌が直ったようだ。
「蒼が寝ている間に、私、考えたの。皆が蒼にキスしたら、その場所に10倍キスして、皆のキスを消すことにする」
ん?瑞希が、変な方向に考えているような気がするのは僕だけだろうか? それで瑞希の気が済むなら、僕はそれでも構わないけど、根本的な解決にはなってないような気がする。このことは黙っていよう。
瑞希は僕の両頬に10回以上キスをして、満足したように、満面の笑顔を咲かせる。瑞希が喜んでいるから、それが1番だ。
「蒼、さっきは汗だくになるまで、全身をマッサージしてくれてありがとう。受験勉強でかなり体がこっていたの。だから体の色々なところが固くなっていて、初めはとても痛かったけど、最後には気持ちよくて眠っちゃった」
瑞希が舌先を唇から出して、照れた顔をする。すごく可愛い。
「夕飯を食べ終わったら、蒼にも全身マッサージしてあげるね」
お玉を持って、瑞希は機嫌よく宣言をした。
夕食を食べ終わった僕は、2階の自分の部屋のベッドの上で、瑞希から全身マッサージを受けることになった。予想していたよりも、凄く痛い。全身に激痛が走る。窓の外にはきれいな星空が広がっている夜に、僕の絶叫がこだました。
瑞希の機嫌が直って一安心だけど、もっとマッサージを上手くならなくちゃ。今度、本屋で入門書を買ってこよう。僕は、瑞希が大好きだ。