48話 体育祭 前編
「各クラス入場」というアナウンスが流れ、僕達2年3組は列に並んで入場する。全クラスがグランドに整列した。
校長先生の長い話がはじまる。どうして校長先生ってこんなに話をする時間が長いのだろうか。小学校の時も中学校の時も、校長先生の話だけは長いんだよね。
この暑い中、整列して立っている生徒の身にもなってほしい。あ、生徒代表で藤野健也が台の上に上った。
「今日は正々堂々と勝負をしようじゃないか、皆!健闘を期待する!」
藤野健也は爽やかスマイルで歯をキラリと光らせて、皆に呼びかける。1年生から3年生の多くの女子がきいろい声をあげる。
これ、宣誓するところだよね。皆にウケているようだからいいのかな。
僕達の体育祭が幕をあけた。僕は2年3組と書かれたスペースに座って競技を見る。炎天下の中、グランドで座っているだけでも体力が消耗する。最近の異常気象は激しいな。今日は特に暑くなりそうだ。
「はじめの競技は徒競走です。選手は入場門へ集合してください」というアナウンスが流れる。咲良が僕の近くへやって来た。
「私、徒競走だから、蒼、絶対に見ておいてね。1位で帰ってくるから」
そう言って、僕に手を振って咲良は入場門の後ろへ集合する。そして列を組んで、スタート地点まで行進する。咲良がスタートした。ぐんぐんと飛ばす咲良。案外、足が速かったんだな。フォームも様になってる。
僕は感心して咲良を見ていると咲良がゴール寸前で、僕のほうを見た。バッチリと目が合う。その瞬間にバタンと咲良はこけた。しかし、ゴールテープを手で切っている。こういう場合は1位になるんだろうか。先生達が集まって相談をしている。そして先生達の恩情で咲良は1位なった。しかし、咲良の鼻の頭に擦り傷ができている。
女の子だから顔ぐらいは守ってほしい。あれだけ派手にこけたのに擦り傷程度ですんで良かった。
3年生の徒競走では恵梨香姉ちゃんが出る。恵梨香姉ちゃんって足が速そうだもんな。恵梨香姉ちゃんがスタートダッシュをかける。早い早い。
短パンの外に出していた恵梨香姉ちゃんのウェアが走る度に少し上に上がる。その度に、可愛いおヘソが見える。恵梨香姉ちゃん、徒競走までエロ過ぎだよ。男子がガン見になってるよ。
恵梨香姉ちゃんはそんなこともかまわず1位でゴールテープを切った。僕は思わず立って拍手をする。あ、恵梨香姉ちゃんと目があった。恵梨香姉ちゃんは「1位取ったよー」と大声で叫んでいる。僕は大きく手を振った。
すると恵梨香姉ちゃんが競技が終わった後に2年3組のスペースへやってきてくれた。
「恵梨香姉ちゃん1位、おめでとう。すごく足、速かったね。見てたよ」と僕が答えると、恵梨香姉ちゃん「嬉しい」と僕に抱き着いてきた。2年3組のクラスメイトは驚いた顔で僕達を見ている。恥ずかしい。
「蒼ちゃん、せっかく1位になったんだから、ご褒美ちょうだい」
恵梨香姉ちゃんはにっこり笑って頬を出して人差指で頬を指差す。頬にキスしろということなのだろうか。僕は戸惑ったが、あまりに恵梨香姉ちゃんが嬉しそうなので頬にチュと軽くキスをした。
「やったー。蒼ちゃんのホッペにチューをいただきましたー。瑞希に自慢してやろー」と言って、恵梨香姉ちゃんは僕に手を振りながら自分のクラスに帰っていった。
これはマズイことになった。瑞希が聞いたら、激オコだ。僕は顔面を蒼白になる。そんな僕の両腕を瑛太と蓮が掴んで僕を連行する。蓮はすごく羨ましそうだ。
「いったい今の何なんだよ。3年の美人な先輩じゃないか。なぜ、蒼が知り合いなんだ?」
「それは瑞希姉ちゃんの友達だからだよ。ただそれだけだよ」
瑛太が冷たい目で僕を見る。
「ただの瑞希姉ちゃんの友達の頬にキスするのか。蒼大、瑞希姉ちゃんと付き合ってるって噂は聞いていたけど、それはそれで良かったと思ってたけど、他の3年生女子から可愛がられているのは初耳だ」
「なぜ、お前にばっかり女子が集まってくるんだよ。俺なんて必死に女子に声をかけてるのにさ、未だにきちんとした女子とのお付き合いはないんだぜ」
蓮、それは日頃の蓮の態度が悪いと思うよ。1度に複数の女子に声をかけているせいだと思う。
「次の種目は大縄跳びです。選手の方は入場門へ集まってください」というアナウンスが流れる。
次は大縄跳びが始まった。大縄跳びには莉子が参加する。悠が大声で「莉子、頑張れー」と声援を飛ばしている。この2人はいつまでも初々しくて可愛いカップルだね。
僕達のクラスは途中で誰かの足がひっかって途中で縄が止ってしまった。残念だ。
「次の種目は2人3脚です。参加選手は入場門の後ろに集合してください」とアナウンスがされる。
蓮が急いで入場門へ走っていく。連と並んで出てきたのは芽衣だった。蓮の顔がニヤニヤしている。芽衣は困った顔だ。蓮と芽衣がスタートをする。蓮のにやけ笑いがひどくなる。そして芽衣が恥ずかしそうに走っている。
よく見ると、芽衣のロケットのような胸が蓮の肘に当たっている。あ、蓮がこけた。その上に芽衣も倒れ込む。次々に抜かされていく2人。でも蓮の顔は幸せそうだ。芽衣の大きな胸が背中に当たっているから、芽衣は恥ずかしさで手で顔を隠している。
蓮と芽衣はビリでゴールをしたが、蓮はご満悦で手を振っている。クラスメイトの男子からは大きなブーイングが起こる。
次は綱引きだ。僕達のクラスからは大勢の大柄な男子達が入場門に集まっていく。その中に悠もいた。
綱引きが始まった。
一番殿には悠が体に縄を巻いて必死に引っ張っている。「負けたら、お弁当抜きだからねー」と莉子が大声で叫んでいる。相手も必死だ。悠も汗を噴出させて頑張っている。なんとか2年3組が勝った。
悠、莉子のお弁当が食べられて良かったね。
「借り物競争の出場選手は入場門に集まってください」とアナウンス。僕は入場門の集まると、楓姉ちゃんも整列していた。
「楓姉ちゃんも借り物競争なんだね。頑張ろうね」
「1位になると蒼ちゃんから、ホッペにチューしてもらえるって恵梨香から聞いたよ。お姉ちゃん、頑張るね」
恵梨香姉ちゃん、変な噂を広めるのはやめてください。僕が瑞希に怒られます。
僕はスタートラインに立った。スタートの合図がなる。必死に走って、箱の中に手を入れてメモ紙を取る。メモ紙には「胸の大きな女子のハンカチ」と書いてあった。僕は迷わず楓姉ちゃんの元へ走る。
「楓姉ちゃん、僕と一緒に来て」
僕は大急ぎで楓姉ちゃんの手を掴んで走り出す。楓姉ちゃんは驚きながらも付いて来てくれる。僕はゴールのテープを切った。係員が楓姉ちゃんにハンカチの確認をする。楓姉ちゃんは短パンのポケットにハンカチを入れていた。係員の確認を受けて、僕は1位になった。瑞希は手を振っているが、なぜか目が笑っていない。ご機嫌斜めなようだ。
「蒼ちゃん、メモ紙になんて書いてあったの」
楓姉ちゃんが疑いのない純粋な眼差しで僕を見つめる。言えない。「胸の大きな女子のハンカチ」なんて、僕の口からは言えない。どうすればいいだろう。
「スタイルのいい女子のハンカチって書いてあったから、楓姉ちゃんにハンカチを借りたんだ」
僕がウソを言っているとも知らずに、楓姉ちゃんは僕に抱き着いてくる。
「蒼ちゃん、私を選んでくれて、ありがとう」
楓姉ちゃんが純粋に喜んでくれている。僕の心が痛い。でも本当のことは言えない。
次は楓姉ちゃんのスタートの番だ。楓お姉ちゃんは大きな胸を揺らして、箱へと走っていく。そして、箱からメモ紙を取り出すと、僕の元へ走ってきた。
「蒼ちゃん、一緒にきてー」
僕は楓姉ちゃんと手を繋いでゴールする。係員が僕にハンカチを見せるようにいう。短パンのポケットに入っていたハンカチを係員に渡すと「合格」と言われた。楓姉ちゃんも1位になった。
「「可愛い男子のハンカチ」って書いてたから蒼ちゃんに協力してもらったんだよ」
楓姉ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしながら言う。そして僕のほうへ頬を持ってくる。
「はい。私1位だから、蒼ちゃんホッペにチューして」
こんなグランドのど真ん中でホッペにチューしたら、瑞希に殺される。
「それは退場してからでいいかな。楓姉ちゃん。ここだと恥ずかしいから」
楓姉ちゃんも周りを見回して顔を赤らめた。そしてコクリと頷く。退場門から退場してすぐに、僕は楓姉ちゃんの頬にチューをした。
昼休憩が始まった。瑞希が2年3組のスペースへ歩いてきた。
「蒼、お弁当を食べようね。後、お姉ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるから付き合ってくれると嬉しいな」
瑞希の眉がピクピクと動いている。怒っているサインだ。僕は大人しく瑞希に付いて行く。3年6組のスペースでは楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃん、美咲姉ちゃんの4人が手を振って待っていた。僕の座るスペースもある。瑞希も僕の隣に座る。
瑞希がキっと睨んで僕を見据える。
「1位になった人は蒼から頬にチューしてもらえるって、恵梨香から聞いたんだけど本当? 蒼が言い出したの?」
僕は激しく首を横に振る。
「違うよ。恵梨香姉ちゃんが2年3組のスペースまで来て、1位になったからご褒美に頬にキスしてって言ってきたんだ」
恵梨香姉ちゃんがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「だって、ご褒美があったほうが、盛り上がるじゃん。それに頬にチューしてもらったのは私だけじゃないわよ。楓もしてもらったんだから」
瑞希の肩が震えだす。
「蒼、これはどういうことかな?」
「全部、恵梨香姉ちゃんが噂を流したのが原因だよ」
「楓の頬にもチューしたのね」
すごく瑞希が怖い。黒い瘴気が見えるようだ。こんなに怒った瑞希を見たことがない。
「はい」
「どうして、蒼は素直に女子の頬にチューしちゃうのよ。蒼は私の宝物なの。蒼のチューは私だけなの。他の女子はダメ!」
瑞希は絶叫が響きわたった。僕は、瑞希を慌てて抱きしめた。