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47話 体育祭前夜

 夕食を食べ終わって、僕は自分の部屋で机に向かう。そして鞄から勉強道具を取り出して、今日の学校からの宿題をこなしていく。



 実は僕はあまりテレビを見ない。というかテレビを見る癖がない。父さんが生きている時は、父親が帰ってくるとBGMの代わりにテレビの電源を点けて、番組を流していたが、父さんが他界して、父さんの親類の家を転々としている時は、部屋にテレビがなかったので、自然とテレビを見なくなった。



 そのかわり、スマホでネットをよく見るようになった。必要な情報やニュースはネットを見たほうが簡潔で、いつでも情報が手に入るので便利だ。そんなわけでスマホは欠かせないアイテムとなっている。



 僕の性格のせいか、ネットも集中して見ている時期もあれば、ネットを見るのに疲れて全く見なくなる時期もある。今はどちらかというとネットに集中できない時期みたいだ。



 ネットに集中する前に瑞希に集中してしまうから、今の僕は瑞希に夢中といってもいいかもしれない。



 夕食を一緒に食べていても、食べ方が可愛いな、箸の持ち方が可愛いな、指がきれいで可愛いな、笑顔が可愛いな、瑞希の全てが可愛くて仕方がない。



 だから、瑞希に勉強を教えてもらうと、声が可愛いと思ってしまって、最近では勉強に身が入らなくなってしまう。僕はどこかおかしくなってしまったみたいだ。頭が壊れたみたい。



 こんな状態だから、自分1人の時間になるべく、勉強の宿題と予習、復習だけはやっておこうと思う。



 瑞希が2階へのぼってくる足音が聞こえる。僕の部屋のドアが開いた。部屋の隅に置いてある、パイプ椅子を持ってきて、静かに僕の隣に座る。勉強の邪魔をしては悪いと思っているんだろうな。



 瑞希の優しい視線を感じる。それだけで瑞希の優しい雰囲気に包まれたような感じになって、僕は気持ちよさに包まれる。



 僕が勉強でつまずいたり、間違ったりすると瑞希は丁寧にその部分を解説してくれる。以前まではその解説を理解しようと必死だったし、集中もできていたから、頭にスーっと入ってきて、勉強がはかどったが、今は瑞希の声に集中してしまう。



 少し鼻にかかったような甘くて、それでいて清らかに澄んだ声が僕の耳に気持ちいい。



「こら、蒼、私の説明を聞いてるかな。私がせっかく説明しているのに、きちんと勉強に集中して」



 瑞希に怒られた。最近では結構、多い。



「だって、仕方ないじゃないか。瑞希の声が可愛いんだから。そんな可愛い声で説明されたら、瑞希の可愛い声に集中しちゃうよ」



 僕が口を尖らせる。



 すると瑞希は耳まで真っ赤にして体をモジモジさせてつぶやく。



「可愛いなんて言われたら注意できないじゃない。勉強中は可愛いは禁止」



 思わず可愛くなって、瑞希を抱きしめると額を人差し指でトンと押された。



「せっかく実力テストで成績が伸びて、学年で18位になったんだから、同棲した途端に成績が落ちたら、私も蒼もお父さんとお母さんから怒られるよ。最悪、同棲禁止になるかもしれないよ。私と離ればなれになってもいいの」



 そんなのイヤだ。瑞希と離ればなれになるなんて、考えるだけでもイヤだ。僕は激しく首を横に振る。



「私も蒼と、ずーっと同棲したいよ。だから勉強中はイチャイチャは禁止。一緒にお眠する時までお預けね」



 瑞希は僕の頭を優しくなでる。最近はこのやりとりが多いな。でもそれがイヤじゃない。楽しい。



 最近では瑞希が昔使っていた参考書をもらった。すごく書き込みがされていたり、マーカーで線が引かれている。瑞希が必死に勉強していた証だ。その書き込みやマーカーが凄く役立っている。一目で要点がわかるから。



 それでもつまづいたり、理解に時間のかかるところが出てくる。そんなときは瑞希が優しく丁寧に解説してくれる。なるべく勉強に集中するようにして、僕は問題を解いて、暗記することに努める。



 瑞希の解説は非常にわかりやすい。つまづいていた箇所も瞬時に解決される。僕はなるほどと感心して、勉強を進める。



 僕は教科の中でも英語が苦手だ。単語は暗記できるんだけど、文法が難しい。



「蒼、英語は耳で覚える言語なんだよ。だからまず、スムーズに読んでみよう。私がお手本をみせるわね」



 瑞希が英語の参考書の長文を読みあげてくれる。きれいで澄んだ声で滑らかに英文を読む。僕が単語、単語を思い出している間に、瑞希が先へ読み進めていくので、長文の内容がぼんやりとしかわからない。



「蒼が目で見て単語を暗記しようとしてきた結果だよ。それだと長文の問題が出た時につまづいちゃうし、時間がかかり過ぎちゃうわ。耳で単語を覚えようね。だから単語を暗記する時はかならず、声に出していうこと。文法を覚える時も同じよ。耳で覚えていれば、間違っている箇所に違和感を感じるようになるから、そこからはじめましょうね」



 まるで専属の家庭教師だ。



 僕は何度も長文の問題を読む。読みながら考える。そして問題をみて回答を書く。これを繰り返す。初めのうちは、1歩後退したような気がしたが、今ではこちらの方が効率があがるような気がする。さすが瑞希だ。



 あっという間に時間が経っていく。もう夜の10時だ。僕の勉強タイムは終わり。



 僕と瑞希の就寝時間だ。瑞希は朝からお弁当を作っているし、僕が熟睡してから受験勉強をしているので、2人で取り決めをして、就寝時間は遅くても10時ということに決めた。早い時には9時に寝る。



 僕は人より睡眠時間が長くないと起きられないので丁度いい。瑞希も夜中に数時間、集中して受験勉強できるから、このほうがいいと言ってくれている。



 明かりを消して、枕元の間接照明だけを点けて、ベッドに入る。瑞希が僕の首に抱き着いて、僕の体を引き寄せて、大きな瞳で僕を見つめる。吸い込まれそうなほどきれいな瞳だ。



 それに瑞希の甘く優しい良い香りが僕を包み込む。この香りを嗅ぐと心から安らぐ。



 僕は瑞希の首に自分の頬を当てる。瑞希の首はきれいで長いから好きだ。そして瑞希の髪の中に顔を埋める。とても良い香りがする。



 瑞希の首筋に僕はそっと唇と軽く添える。すると瑞希はいつも少し体を緊張させる。それが可愛くて、いつも唇を添えてしまう。



 そして布団の中へ潜り込んで瑞希を抱き枕にして、瑞希の胸の中に顔埋めて眠りにつく。この体制が一番落ちついて眠れる、僕の定位置だ。すぐに微睡んで眠りにつく。



 今日は珍しく夜中に目が覚めた。ベッドに瑞希の姿はない。自分の部屋で勉強をしているのだろう。僕は暗い部屋の中から、パイプ椅子を持って、部屋を出て、隣の部屋をあける。



 案の定、瑞希が真剣な顔をして受験勉強をしている。僕は何も言わず、パイプ椅子を机の隣に置いて椅子に座る。そして瑞希が勉強している内容を見る。チンプンカンプンだ。よくこんな難問が解けるものだ。さすが瑞希。



 僕は寝ぼけ眼でボーっと勉強しいてる瑞希の横顔を見る。勉強している瑞希はキリっとしていて凛々しい。凛々しい瑞希はとてもきれいだ。



 まつ毛が多くて長いな、二重まぶたがきれいだな。小鼻が可愛い。唇が濡れていて色っぽいな。頬が段々とピンク色に染まってきた。可愛い。そんなことを考えながら、瑞希の顔をボーっと見続けていると、瑞希が困った顔で僕を見る。



「蒼、そんなに私の顔を見ないで。恥ずかしくなっちゃう」


「瑞希の顔って、全てのパーツが可愛いんだね。ずーっと見てても飽きないや」


「もう、そんなことを言われたら、勉強に集中できないじゃない。それに蒼、まだ眠いんでしょう。寝ぼけてるみたいよ」



 瑞希が僕の手を握って、部屋からでると僕の部屋に入って、ベッドで一緒に寝る。



「寝ぼけて、起きてきたのね。添い寝してあげるから、安心して寝てね。私も勉強が終わったら、すぐに戻ってきて蒼と一緒に寝るから」


「うん」



 素直に瑞希の言うことを聞く。半分寝ぼけているので、頭がぼんやりとしている。瑞希が額にキスをしてくれた。嬉しい。僕は瑞希の胸に顔を埋めて、眠りにおちた。



 目が覚めると瑞希が寝息をスースーとたてて、気持ちよく眠っている。とても可愛い。僕は瑞希を抱き寄せて、パジャマが少し乱れている首元を見るときれいな鎖骨が目に入った。本当に瑞希の鎖骨はきれいだ。僕は吸い込まれるように瑞希の鎖骨にキスをする。



 すると瑞希は眠っているのに僕をギュッと抱きしめる。僕は何度も鎖骨にキスをする。すると瑞希が目をつむったまま「蒼、あんまり鎖骨にキスしないで。気持ち良すぎて、変な気持ちになってくるから」という。



 僕は瑞希の耳元で『瑞希の鎖骨は世界一きれいだよ。可愛い』と囁くと、首をギュッと抱きしめられた。僕はまた微睡んでいく。



 次に目を覚ますとベッドには瑞希の姿がなかった。僕は足音をたてないように1階に降りていく。台所でお弁当の準備をしている。2階から降りてきたのを見つかった。



「今日は早いのね。夜中も起きてきたし、眠りが浅かったのかしら」


「瑞希の香りがなかったから目が覚めた」


「まるで赤ちゃんみたい」



 瑞希がクスクスと笑う。そして、瑞希が表情を変えると頬をプゥと膨らませて、顔を真っ赤にして照れている。



「夜、私が寝ている時に蒼、いっぱい私の鎖骨にキスしたでしょう。そのおかげで変な夢を見ちゃったじゃない」


「どんな夢を見たの」


「蒼のエッチ、鎖骨フェチ」



 いったい、どんな夢をみたんだろう。そうか僕は鎖骨フェチだったのか。知らなかった。



 テーブルの上を見ると今日のお弁当は、いつもよりも量が多く、華やかだ。ずいぶん瑞希、張り切ってるな。



「今日のお弁当は凄く華やかだね。それに量も多いね。何か特別な日なの?」



 瑞希は僕の顔を見て呆れている。



「何を言ってるの?蒼、今日は体育祭じゃない。もしかして忘れてたの?」



 完全に体育祭のことは頭になかった。僕の苦手な体育祭の日だ。あー体育祭なんてなかったらいいのに。



「今日は3年生は最後の体育祭なの。だから私、頑張るね。蒼も応援してね。私も応援するから」



 瑞希が向日葵のように笑む。これは応援するしかない。僕は自分の競技は諦めて、瑞希を1日、応援することに決めた。

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