46話 お泊り会ー楓side
今回は霧野楓視点です。
アミュズメントパークで瑞希と蒼ちゃんと別れて、私達は大通りを歩いていると、美咲がつまらなそうに呟く。
「あ~あ、蒼ちゃんも瑞希も帰っちゃったね。あの2人がいると面白いのに、最近の瑞希はからかうと可愛いわ」
恵梨香もニヤニヤして笑う。
「瑞希ったら、蒼ちゃんにメロメロだもんね。元、生徒会長の面影なんて丸でなくなってるよ」
凛が恵梨香の頭をチョップする。
「それだけ、蒼ちゃんに対して本気ということだろう。恵梨香は少しからかい過ぎだ」
「凛だってノリノリでからかってたじゃないの」
凛と恵梨香が口喧嘩を始めた。いつものことだから放っておこう。この2人は仲が良いから口喧嘩をするんだし。
美咲が私の顔をジーっと見る。私は頬を赤らめて、視線を逸らせた。
「さっきから楓だけ黙ってるけど、蒼ちゃんのこと本気になったんじゃないでしょうね?そんなことになったら瑞希、号泣しちゃうわよ」
私の気持ちを言えば、蒼ちゃんを恋人として付き合いたいつもりはない。でもあんな弟がいたらいいなって思ってる。蒼ちゃんって守ってあげたくなるタイプだもの。瑞希の気持ちがよくわかる。
「私は瑞希みたいな恋心は持ってないよ。ただ、蒼ちゃんみたいな弟がほしいだけ。だって可愛いんだもん」
美咲、恵梨香、凛、3人とも黙って何度も頷く。美咲がいたずらっ子のような笑顔を浮かべる。
「今日はなんだか、お話したい気分だし、3人共、私の家に泊まろうよ。今日は両親もいないしさ。私、一人で寂しいし」
美咲が唐突に自分の家に泊まりに来ないかと提案する。最近では受験勉強が忙しくて、昔のようにお泊りで話をすることがなかった。私も当然、賛成。だって勉強ばかりじゃ疲れちゃうもの。恵梨香と凛は嬉しそうに賛成する。
スーパーに寄ってお菓子とジュースを買い込んで、美咲の家へ向かう。美咲の家は高級マンションの3階にある。私達は雑談をしながら美咲の家に向かう。
美咲の家に入ってすぐに、美咲が部屋着を用意してくれた。昔から美咲の家に皆でよくお泊り会をしていたので、美咲の部屋には私達の部屋着が置いてあるのだ。最近、着ていなかったせいか胸が少し苦しい。
恵梨香が私の胸をジト目で見る。
「楓、また胸が大きくなったんじゃない?部屋着の胸元がパンパンよ」
ウゥ、恥ずかしいのであんまり見ないで。
美咲は客室に布団を3枚引いて、私達のお泊り会が始まる。恵梨香が布団の上に小さなテーブルを持ってきて、凛がテーブルの上にお菓子を乗せて、私がカップにジュースを注いで準備完了。
私達は布団の上でゴロゴロしながらお菓子を頬張る。
やっぱり、最近の話題は瑞希になる。瑞希は最近変わった。高校2年生までは、キリっとしていて、上品、清楚、そのうえ、元気で明るい生徒会長というイメージだったが、今では蒼ちゃんにメロメロで、すぐに怒ったり、泣いたり、感情が表情に出るようになった。以前の澄ましたイメージはない。変わり過ぎて私達は今でも、その変化に驚かされている。
美咲がニコニコしてポテチを頬張る。
「2学期になって蒼ちゃんが転校してきてから、まだそんなに経ってないわよね。瑞希から聞いたけど、小学校からの初恋の君が蒼ちゃんらしいのよね。その蒼ちゃんが転校してきたんだから、瑞希としては嬉しいんだろうけど、最近の瑞希の変わりようは凄いよね。まさに恋する乙女だもんね」
凛がポッキーを食べる手を止めて笑っている。
「毎朝、瑞希が蒼ちゃんのお弁当を作ってるらしわよ。最近では校庭の中庭で2人きりでお弁当を食べてるらしいの。今まで男を寄せ付けなかった瑞希が、これほど変わるなんて恋って凄いと思うわ」
私も蒼ちゃんに「あーん」をしてみたいな。可愛いだろうな。
恵梨香がニヤリと笑ってジュースを飲む。
「蒼ちゃんも瑞希のこと好きみたいだし、あの2人を見てると応援したくなるって感じ。2人とも初々しくて可愛いんだよね。私もあんな恋をしてみたくなっちゃたよ」
恋か~。私は恋をしたことがないから、わからないかな。でも、あの2人は可愛いと思う。お似合いだよね。
美咲はジト目で私を見る。なぜ、そんな目でみるの。
「楓ってさ。男子からよく告白されてるじゃない。気に入った男子っていないの?楓も男子との噂が昔からないよね」
私はなぜか、男子からよく告白をされる。たぶんこの胸が原因だと思うんだけど。いつも男子がチラチラとエッチな目で私の胸元をみてるから、たぶんそう。私の胸しか狙ってないような男子は私のほうからお断り。
昔から、この大きな胸がコンプレックスで、いつも胸を隠そうと猫背で隠してみたりしたけれど、これだけ大きくなっちゃうと隠しきれない。だから私は、堂々としていることにした。
蒼ちゃん、大きな胸の女の子は好きかな。蒼ちゃん、私に甘えてくれないかな。
「私は皆みたいに恋したことがないから・・・・・・恋ってまだピンとこないっていうか・・・・・・」
「楓は胸は大きいのに、ウブというか奥手というか、おっとりさんだもんね。瑞希と蒼ちゃんを見ていてどう思う?」
美咲が私の胸をツンツンと突いて遊んでくる。ツンツンつつかれると、こそばゆいから、やめてほしいな。
「私も2人はお似合いだと思う。それに蒼ちゃんが転校してきてから、瑞希が色々な感情を表にだすようになったし、以前より表情が明るくなって、一段ときれいで可愛くなったから、やっぱり良かったと思うな」
恵梨香も私を後から抱きしめて胸を揉んでくる。
「私は蒼ちゃん、好きだな。からかうと面白いし、まだまだ子供っぽい所も残ってるし、可愛いし、私の色に染めあげたいわ」
凛が恵梨香のお尻を叩く。
「あなたの色に染まったら、遊び好きでエロエロな男子に変わっちゃうわよ。私が蒼ちゃんを健全な男子に育てます」
美咲が複雑そうな顔をして、私の胸に顔を埋める。どうして皆、私をことを抱き枕にするのよ。
「今日の蒼ちゃんの話を聞いてびっくりしたな。まさかボーリングもカラオケもしたことがないなんて。そんな子が今もいるなんて、思ってもみなかったわ」
今日、蒼ちゃんから少しだけ昔話を聞いた。昔、この街に住んでいた時に幼馴染の瑞希と出会ったこと。そして、ご両親の離婚が原因でこの街を転校していったこと。お父さんを交通事故で亡くして、それから、お父さんの親戚の家を転々としていたこと。友達が1人もいなかったこと。
その話を聞いて、思わず胸がキュンとなった。可哀そう。私が守ってあげたい。そう思った。
「蒼ちゃんって、よく笑って、明るいのに、あんな過去があったなんて思いもしなかったな」
凛が真顔でポッキーを摘まむ。
「私達がお姉ちゃんになってあげなきゃね。蒼ちゃん、可哀そうだから。いっぱい遊んであげなきゃ」
恵梨香、言うことは凄く良いこと言ってるんだけど、胸を揉む指先が段々いやらしくなってきたよ。やめてほしいな。ちょっとウットリとなってきちゃった。
蒼ちゃんは自分のことを不幸と思っていないみたいだけど、私も蒼ちゃんには幸せになってほしい。
「私も蒼ちゃんには楽しい高校生活を送ってもらいたい。そのためには私がお姉ちゃんになるのが1番だ」
美咲が私の胸の中でウットリとした顔している。
「これだけ、蒼ちゃんにお姉ちゃんがいっぱいできたんだから、瑞希にはお姉ちゃんを引退してもらいたいわ」
そうだ。それは美咲の言っていることが正しいよ。恋人のうえにお姉ちゃんにまでなろうとするなんて、2つも美味しい所を持っていくのはいけないよね。きちんと恋人してくれないと困るよ。だって、私がお姉ちゃんになれないんだもの。
恵梨香、もうそろそろ限界。その揉み方やめて、気持ちよくなってきちゃった。
「恵梨香、もうそろそろ限界だから、胸を揉まないで。美咲も私の胸で眠っちゃイヤよ」
恵梨香が私の胸から手を離して、ニヤニヤと笑う。
「だって、楓ってスタイルもいいし、胸が大きくて柔らかいんだもん。同性の私でもムラムラきちゃうのよ」
「そうだよ。楓のエッチな体が私を引き寄せるのよ。私達は何も悪くないわよ」
2人は口をそろえて自分は悪くないと言う。美咲も恵梨香もエッチな目で私をみないでよ。恥ずかしい。
「早く瑞希と蒼ちゃんをくっつけて、瑞希にはお姉ちゃんを引退してもらいましょう」
美咲がそう言いながら、天井に向かって手を挙げる。
「「「オオーーー!」」」
恵梨香、凛、私も手を挙げる。
「問題は蒼ちゃんにどうやって告白させるかよね。蒼ちゃんウブだから告白してないみたいだし」
恵梨香が一口チョコを口に放り込みながら呟く。
「瑞希から告白させるって手もあるんじゃないか。瑞希のほうがメロメロなんだし、瑞希なら告白するかもしれないわ」
凛はそういうとジュースを飲む。
「瑞希からは告白しないと思うわよ。お互いに両想いでメロメロだし、瑞希はお姉ちゃんしてるから、じっと耐えて待ってると思うわ」
美咲がポテチを口に咥える。
2人共、両想いでメロメロなんだから、早く告白しちゃえばいいのにって、皆は言うけど、告白って勇気がいると思うんだけど。そう思っているのは私だけかな。
「私達が瑞希をからかっていれば、瑞希も堪らなくなって、蒼ちゃんに告白するわよ」
恵梨香がいたずらっ子のように笑って布団に転がる。ゴロゴロと転がって、また私の背中に抱き着いてきた。
「私達にできることって、それくらいしかないわよね」
美咲も恵梨香に賛同する。でも目が笑ってる。絶対にからかいたいだけだ。
「私は賛成できないよ。だって瑞希を怒らせるだけだもの。そんなことはよくないと思う」
私が不賛成というと美咲と恵梨香がプウっと頬を膨らませた。
「私も賛成できない。瑞希とは不仲になりたくない。それに瑞希の精神が不安定になれば、受験にも影響してくるし、美咲と恵梨香のことだから、絶対にやり過ぎる」
凛はキリっとした顔で2人を注意する。
「凛に言われるのはわかるけど、楓には言われたくないな。だって楓って、蒼ちゃんと瑞希の話題になると言葉が少なくなるじゃん。本当は蒼ちゃんをなでなでしたいんでしょう。可愛い可愛いって抱っこしたいんでしょう。ほら、顔が耳まで赤くなってるよ。黙っていても、それだと即バレだから」
はい、そうです。蒼ちゃんをなでなでしたいです。抱っこしたいです。恵梨香にバレちゃってる。どうしよう。
「あ~あ、私達も瑞希と蒼ちゃんのような恋がしたいな~。受験勉強も忙しいし、恋は大学に入ってからかな~」
美咲が俯いてポツリと呟いた。
そうだよね。大学受験まで後少し、高校3年生の私達に残されている時間は少ない。大学に行ったら、皆、別々の大学に行くことになるから、こうやって集まることもなくなるのかな。それは寂しいな。
「私も大学に入ったら、真剣な恋をしてみたい」
凛が布団の中に潜って宣言する。顔を見られたくないのだろう。凛は恥ずかしがり屋だから。
「私は今からでも彼氏がほしいな。もう年なんか関係ない。年上でも年下でも私の好みだったらいい」
恵梨香がとんでもないことを言い始めた。
「私はまだ恋はいらないかな。蒼ちゃんと瑞希を見ていて羨ましいと思うけど、自分がしたいって思わないわ。まだ独り身のほうが気楽かも」
ゴロゴロと布団を転がってきて美咲が私を抱き枕にする。美咲と恵梨香に挟まれて身動きが取れない。私はどうなんだろう。恋というものにピンとこない私が、恋をすることなんてあるだろうか。
お泊り会は始まったばかりだ。夜遅くまで私達のおしゃべりは続く。