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44話 お姉ちゃんズ

 藤野健也に勝利した後、僕は琴葉ちゃんと瑞希に連れられて、洗面所へ行き、メイク落としなる道具で、メイクを全て洗い流してスッキリとする。ポケットからハンカチを出して顔を拭いた。



「これで元の顔に戻った。これで騒がれないで済むよ。ありがとう琴葉ちゃん」



 瑞希。さすがに1日中メイクをして、皆の視線に耐えるのはきつかったから、やっと解放されて安堵の息を吐く。



 琴葉ちゃんが妖艶に笑って、僕を抱きしめる。ロケットのような胸が柔らかく変形して僕の体に密着する。これは、気持ちいい。



「これくらい、いいのよ。私も蒼ちゃんの可愛い顔を見ることができたし、スマホには蒼ちゃんの写真がいっぱい入っているからね」



 そうだった。藤野健也が教室を去った後に3年6組の教室では僕の撮影会が始まったんだった。先輩方々のおかげで勝利したので、僕もイヤとは言えず、スマホのカメラで写真を撮らていたんけど、段々とノッてきちゃって、最後は、皆に抱きしめられてのツーショット大会になった。瑞希が絶叫したことはいうまでもない。



 そんな瑞希だが、ちゃっかり自分も撮影会に参加して、僕とのツーショット写真も撮って、今はスマホの待ち受け画面になっている。



「瑞希姉ちゃんはいつも僕と一緒にいるんだから、わざわざ写真を撮る必要なかったと思うんだけど」



「何言ってるの。蒼が化粧をしてくれるなんて、こんな時しかないもの。私も蒼の可愛い写真が欲しいわよ」



 口を尖らせてそんなことを口走っている。



 琴葉ちゃんは、これで私の用事は終わったといった感じで保健室へ帰っていった。僕はため息をつく。僕の鞄は美咲姉ちゃん達に拉致されたままだ。僕と瑞希がこっそり帰らないように、鞄を拉致されてしまった。今日の帰りを考えると頭が痛くなる。



 瑞希と手を繋いで3年6組の教室に戻る。ほとんどの先輩達が帰ったしまった教室の中では、美咲姉ちゃん、楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃんの4人が僕の鞄を胸に抱えて待っている。



 美咲姉ちゃんが不満そうに口を尖らせる。



「あ~あ。メイクを取っちゃた。今の蒼ちゃんも可愛いけど、メイクをした蒼ちゃんって、可愛さが別格なのよね。メイクをしたままの蒼ちゃんでいてほしかったわ」



 楓姉ちゃんは僕の横まで歩いてくると腕を絡ませ、もたれかかってくる。



「私の頭の中にはメイクした蒼ちゃんがバッチリと焼き付いています。それに今の蒼ちゃんも大好きですよ。もう楓は蒼ちゃんにメロメロです」



 恵梨香姉ちゃんが無理矢理に楓姉ちゃんを僕から引き離すと、代わりに恵梨香姉ちゃんが僕に抱き着いてきた。



「女性的な蒼ちゃんも好きだけど、中世的な蒼ちゃんのほうが私は興奮するわ。お姉さんと一緒に夜の街をデートしない?蒼ちゃんだったら朝までコースもOKよ。なんでも言うこと聞いてあ・げ・る」



 凛姉ちゃんが恵梨香姉ちゃんの頭にチョップを叩き込む。



「蒼ちゃんに不順異性交遊を迫らないの。まだ蒼ちゃは純情でウブなんだから。私のような常識をもった女子とはじめにデートするのが1番安全だわ。私と一緒に帰りましょう」



 瑞希が眉をピクピクさせている。爆発数秒前といった感じだ。



「だから、蒼には小さい時から私がついてるの。私が蒼のお世話をするの。私が蒼と一緒に遊ぶの。小さい時からそうなの。皆邪魔しないで!」



 美咲姉ちゃんは瑞希の肩を持ってニヤニヤと笑う。



「瑞希が蒼ちゃんを独り占めしたい気持ちは十分にわかるわ。時には私達にもお裾分けしてくれてもいいじゃない。今日の所は一緒に帰りましょう。気分次第だけど、蒼ちゃんを連れて、どこかに遊びに行きましょう」



 他のお姉ちゃん達も美咲姉ちゃんのいうことに賛成するように頷いて、僕達は3年6組の教室をでる。



 僕の鞄は凛姉ちゃんが胸に抱えて持っていて、返してくれない。瑞希と手を繋いでいると、もう一方の手を楓姉ちゃんが優しく繋いだ。2人に手を繋がれて廊下を歩く。とても恥ずかしい。



 校門を出たところで、美咲姉ちゃんが振り向いた。



「今日は皆でボーリングに行かない?ボーリングが終わったら、皆でカラオケに行こうよ。最近、勉強ばっかりだったし、たまには羽を伸ばしたいわ」



 恵梨香姉ちゃんも楓姉ちゃんも賛成する。凛姉ちゃんと瑞希は渋い顔をしている。しかし、美咲姉ちゃんの粘り勝ちで、皆でボーリングへ行くことになった。僕にとっては初ボーリングだ。



 僕は父さんが他界してから、親類の家を転々としていた。そのおかげで短期間での転校が多くて、友達を作るもともできなかった。友達を作っても、すぐに転校になるので、友達と遊びに行ったことがない。



 僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にして、瑞希の耳にささやいた。



『僕、ボーリングするの初めてで、ゲームの内容もわからないんだけど、大丈夫かな?』



 瑞希が驚いた顔をして、口を手で覆う。そして僕の耳にささやいた。



『大丈夫よ、蒼。ボーリングなんて重たい球を投げて、ピンを倒すだけだから、計算は店側でしてくれるから大丈夫。何も心配する必要はないわ』



 僕は緊張して瑞希の手を握り締める。大通りを歩いているとボーリング場・ゲームセンター・カラオケが併設されているアミュズメントパークが見えてきた。僕達はその中に入っていく。何をしていいのかわからない僕の代わりに瑞希が全て用意してくれた。レーンは3レーン用意されていた。当然、僕と瑞希が同じレーンになる。



 瑞希はボール選びまで一緒にしてくれた。11号のボールを持って僕は席に戻る。瑞希は9号のボールを持っていた。



「まずは、私が見本を見せるわね」



 瑞希はボールを胸に抱えて、スタートラインに立つ。そして瑞希は美しいホームでボールを投げる。するとボールは一旦右端のほうに行ったかと思うと、ガーターレーンの手前で急に左にカーブして10本のピンのほど、ど真ん中へ吸い込ま込まれていく。すべてのピンが倒れてストライクになった。瑞希が嬉しそうに僕にハイタッチを求めてくる。僕も笑顔でハイタッチをする。



 次は僕の番だ。瑞希は流れるように歩いて、ボールを投げていたが、3回ほど練習しても上手くできない。みかねた瑞希が僕に寄り添って投げる練習をする。



「投げる時はボールを見ちゃダメ、レーンの所に小さな3角があるでしょう。その真ん中を狙って投げてみて」



 僕は瑞希のようにきれいに投げようと思うけど、ボールは僕の手をはなれた瞬間にボトっと音をたててレーンに落ちて進んでいく。今にも失速しそうだ。それでもボールは止らずに真ん中のピンに当たった。ピンはドミノ倒しのようにたおれていく。7本のピンが倒れた。



 瑞希が嬉しそうにハイタッチをしてくる。僕もピンに当たった嬉しさでハイタッチをする。次にボールを投げたがガーターに吸い込まれていった。



 次に瑞希がボールを投げる。結果は9本だった。1本だけ端に残ったピン目がけてボールを投げる。ピンギリギリ横を通り抜けてしまった。惜しかった。



 1ゲームを終わった。瑞希の点数は162点だった。僕の点数は71点。僕にしては頑張ったほうだ。



 他のレーンを見ると楓姉ちゃんが88点、美咲姉ちゃんが106点、恵梨香姉ちゃんが158点、凛姉ちゃんが222点だった。凛姉ちゃん、瑞希よりも凄い点数だしてる。



 美咲姉ちゃんが僕の頭をなでる。



「蒼ちゃんはボーリングできなかったのね。瑞希から教わってるのを見て、初めてだってすぐわかったよ。だってボールが前に転がって行かなくて、足元にボトリと落ちてるんだもん。誰でも初心者だってわかるわよ。初心者の割には71点は良い点数だと思うわよ」



 美咲姉ちゃんは優しく笑ってくれた。僕はその笑顔で救われた。



 それから1時間ほどボーリングで遊んで、それからカラオケボックスに行く。カラオケボックスも初体験だ。僕はスマホでよく流行りの音楽を聴いてはいるけれど、自分で歌ったことがない。凄く緊張する。瑞希が背中をさすってくれる。



 僕達はカラオケボックスの部屋に入る。お姉ちゃん達はドリンクバーを取りに、部屋を出て行った。僕はどうしていいかわからないので、部屋で待っていると、瑞希がアイスミルクティーを持ってきてくれた。瑞希も同じものを飲んでいる。



 はじめは恵梨香姉ちゃんだ。アイドルグループの歌を歌って、振り付けも完璧だ。とても可愛い振り付けで踊って、歌っている。歌唱力も抜群できれいな声で熱唱する。恵梨香姉ちゃんがこんなに歌が上手いと思わなかった。



 次は楓姉ちゃんだ。楓姉ちゃんは僕でも知っているアニソンを熱唱する。その声が声優さんにそっくりだ。楓姉ちゃんから、こんなキーの高い可愛い声が出るとは思わなかった。普段、おっとりしているのに、振り付けも完璧だ。踊りもきちんと覚えている。最後は可愛いポーズで終わった。



 瑞希はJPOPの流行りの女性シンガーの流行りのバラードを歌った。音程がはずれることもなく、完璧に歌いこなしていく。さすが瑞希だと思った。瑞希は歌い終わると上機嫌で僕の腕に絡んできた。



 凛姉ちゃんは演歌だった。渋い。それにこぶしまで利いて完璧だ。今からでも演歌歌手になれそうだ。



 美咲姉ちゃんがマイクを持ってシャウトする。ロックだ。きれいな声をわざと潰してだみ声にして熱唱する。そして頭を激しく揺らす。こんな激しい美咲姉ちゃんを見たのは初めてだ。美咲姉ちゃん、相手が僕達だからいいけど、男子とカラオケに行く時は、選曲をかえたほうがいいよ。たぶん皆にドン引きされるから。



 とうとう僕の番がまわってきた、僕は今流行りのJPOPの男性シンガーの曲を入れる。そして歌う。皆が呆気にとられた顔で僕を見てる。おかしい。音程をはずしているわけじゃないし、テンポが遅れたわけじゃないのに、なぜ皆、僕を見てるんだろう。



 僕が歌い終わると、楓姉ちゃんが僕の肩を掴んで揺らす。



「蒼ちゃん、もう1曲歌ってみて。今度はJPOPの女性シンガーの曲でいいから」



 僕は言われるままに選曲をして歌を歌う。さっきより歌いやすい。皆もリズムをとってノリノリだ。瑞希なんかは拍手をしてる。美咲姉ちゃんはお腹を抱えて笑っている。楓姉ちゃんは「その調子、それでいいわよ」と声をかけてくれている。凛姉ちゃんはなぜか悔しそうな顔をしている。



 僕が歌い終わって席に座ると、瑞希が僕の肩を持って真剣なまなざしを向ける。



「蒼の声質だと男性ボーカルよりも女性ボーカルのほうが上手いわ。これからは女性ボーカルの歌を覚えたほうがいいよ。とても声がきれいだもん」



 それから皆で順番に歌った。なぜか楓お姉ちゃんと歌う時と、恵梨香姉ちゃんが歌う時と、瑞希が歌う時は一緒に歌うことになった。皆楽しそうだ。皆の笑顔を見ているだけで、今日はカラオケに来てよかったと思う。



 凛姉ちゃんが何気ない感じで僕に問いかける。



「蒼ちゃん、ボウリングもそうだけど、カラオケも初めてなのね。どんな中学時代を送ってたのよ。お姉さんに教えなさい。まさかがり勉だったんじゃないよね」



 僕は中学時代の話に皆の前で説明した。すると楓姉ちゃんが僕を優しく抱きしめる。



「辛い中学時代だったんだね。友達もいなかったなんて。寂しいよね。これからは楓姉ちゃんが友達になってあげるからね」



 すると横から恵梨香姉ちゃんが割り込んできて、僕に飛びつく。



「なんかあったら恵梨香姉ちゃんに相談するんだよ。遊びのことなら1番知ってるのは私だから。一緒に楽しもう」



 凛姉ちゃんが恵梨香姉ちゃんの首根っこを摑まえると、僕から引き剥がす。



「蒼ちゃんの話を聞いて、少し同情してしまった。すまない。今度から相談事は私にしたほうがいい。この中では一番まともなほうだ。いつでも相談に乗るぞ」



 美咲姉ちゃんは瑞希を強引にどかして、僕の隣に座って頭を撫でてくる。



「私達全員がこれから蒼ちゃんのお姉ちゃん達で、蒼ちゃんの友達だからね。もう寂しいことなんてないよ。お姉ちゃん達に任せておいて」



 瑞希がマイクを使って大声を張り上げる。



「蒼のお姉ちゃんは昔から私なの。それに蒼のことを1番わかってるのも私なの。私が蒼を寂しい思いにさせないの。私が蒼のお世話をするの。皆で勝手にお姉ちゃんにならないで!蒼は私の宝物、1番大切なものなんだから、皆で取らないで!」



 一瞬、カラオケボックスがシーンと静まり返った。次の瞬間にお姉ちゃん達が大騒ぎになる。



 僕はお姉ちゃん達に体中をひっぱられ、膝の上に乗せられ、頭を撫でられ、大変な目にあった。瑞希は今にも泣きそうだ。というか泣いている。



 それでもお姉ちゃん達のパワーはとまらない。カラオケボックスが終わった後、皆でプリクラを撮りに行った。お姉ちゃん達と順番で僕はツーショットのプリクラを撮っていく。既に瑞希はイジケモードに入っている。



 プリクラの部屋の中へ瑞希と一緒に入ると、瑞希は抱き着いて、僕の頬にキスをした。それがプリクラにバッチリと写されていて、お姉ちゃん達が大騒ぎとなった。



 最後にクレーンゲームで遊んだ。お姉ちゃん達が全員、花が咲いたように満開の笑顔で今を楽しんでいる。

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